インドネシア中銀、輸出企業20社を業務停止処分にした裏事情
インドネシアのジャカルタ・グローブ紙が2月18日付電子版で伝えたところによると、インドネシア中央銀行は先週末、輸出企業は輸出で稼いだ外貨収入を半年以内に国内銀行に預けることを義務付けた規則に従わなかったとして、輸出企業20社を業務停止処分にした。
同規定に違反した場合、外貨収入の0.5%を制裁金として納めなければならない。ただし、最低1000万ルピア(約9万6000円)、最高でも1億ルピア(約96万円)とそれほどの多額ではなく、違反しても会社名も公表されないこともあって、なかなか規則に従わない企業は後を絶たず、中銀も手をこまねいているのが実情だ。
もともとこの規則は中銀が昨年1月2日から導入しているもので、企業は輸出で獲得した外貨を受け取り時点から半年以内に国内銀行に預け入れることが義務付けられている。これは2008年9月の米投資銀行大手リーマン・ブラザーズの経営破たんに端を発した世界的な金融市場の混乱と景気後退によって、インドネシアなどの新興国から巨額のホットマネー(短期の投機資金)が国外に流出し外貨不足となった教訓から国内の外貨流動性を潤沢にすることで、こうした将来の外部の経済ショックに備えるのが狙いなのだが・・・・。
ルピア安進行の阻止も狙い
また、中銀は輸出企業の外貨を国内銀行に保有させることで、インドネシア通貨ルピアの対ドル相場での急落を阻止し、為替相場の安定にも寄与するという一石二鳥の効果を期待している。特に最近のドル高・ルピア安の進行を食い止めるため、中銀はドル売り・ルピア買いの市場介入でルピア安阻止に懸命となっていることが背景にある。
昨年12月20日にはジャカルタ外為市場でルピアは一時、1ドル=9735ルピアと、前日終値比0.9%安を記録し、2009年9月29日以来3年3カ月ぶりの安値を付けている。ルピアは今年に入ってからすでに対ドルで6.1%も下落しており、アジア11カ国の通貨の中では、円に続いて2番目に弱い通貨となっているという事情がある。
昨年12月のルピア安の背景には、インドネシアの経常赤字の拡大見通しや外国人投資家による株や国債の売却で企業のドル資金調達が困難になるとの憶測があった。このため、中銀のダルミン・ナスティオン総裁は1月14日の議会公聴会で「経済ファンダメンタルズを反映しない、行き過ぎたルピア安を阻止するため、いつでも市場介入する用意がある」と、市場介入を続ける意向を示している。
最近でも中銀のサルウォノ副総裁も1月下旬に、「経常赤字は当面、資本勘定の黒字で埋めることは可能だが、経常赤字を埋めるためのドル資金が日増しに不足している問題が起きている」とした上で、「必要に応じて、外為市場で介入する」と警告している。その意味で、輸出で稼いだ外貨を半年以内に国内の銀行口座に預け入れることが義務付けられれば、輸出企業が外貨、特にドル不足に陥ることがなくなり、従ってドル不足を背景にしたドル買い需要が抑制されれば、ルピア安の進行も治まることが期待できるメリットがある。
輸出企業の外貨預金進まず
ただ、現実にはなかなか思うように輸出企業は外貨を国内銀行に預金しないのが問題となっている。昨年7月時点でも1月の輸出額146億ドル(約1.4兆円)に対し、実際に預けられたのは74億ドル(約7000億円)にとどまっている状況。インドネシア4位の国営金融大手バンクネガラインドネシア(BNI)のチーフエコノミストのライヤン・キルヤント氏は、「国内銀行は新たな為替ヘッジ商品など、輸出企業が銀行に外貨を預けやすくするためのインセンチブ(奨励策)を提供することが問題解決のために必要だ」と指摘している。 (了)