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2018年度予算案可決後の次なる焦点

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
2018年度予算案が自然成立する見通しとなり、財政の次なる焦点は?(写真:つのだよしお/アフロ)

2018年度予算案が衆議院で可決されると、日本国憲法の規定により、参議院で30日以内に議決されなければ、衆議院での議決が国会の議決となり、予算は自然成立する。

国会審議は、予算以外にも働き方改革関連法案など案件は山積しており、予算成立後の審議はそちらに焦点はシフトするだろう。

ただ、財政運営については、国会の場を離れ、初夏を目指してこれから議論が加速してゆくことになる。なぜなら、今年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」では、今後の財政運営の方向性を決めることを予定しているからである。次なる焦点は、まさにこの「骨太方針」に盛り込む今後の財政運営の具体策である。

拙稿「経済成長率低下は、基礎的財政収支にこう影響した:内閣府中長期試算の含意」でも触れたように、2017年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」で、今年の「骨太方針」において「プライマリーバランス黒字化の達成時期、その裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を示すこととする。」と明記した。それが、根拠である。

当然、2019年10月に予定されている消費税率の10%への引上げを意識した議論の展開となろう。

それを意識してか、2月20日の経済財政諮問会議では早くも、大幅な財政出動を求める提案が出された。それは、特に2019年の消費増税後や2020年の東京五輪後に、需要のぶれが起きるであろうと見込み、景気後退を避けることを大義名分としている。

2019年の消費増税後や2020年の東京五輪後に、景気後退に陥るほどに需要のぶれが起きるか否かは、見解が分かれる。民間シンクタンクの予測でも、2019年の消費増税では、負担増の打撃は軽微との見方がある。(是非を別として)食料品に軽減税率が導入されて税率が上がらないことや、税率の引上げ幅も2%であることや、拙稿「消費増税の使途変更のウラ事情」でも触れたように消費増税時に少子化対策や教育無償化に1.7兆円も財政支出を増やすことを根拠としている。2020年の東京五輪のために、大規模な公共事業は行われていないことから、五輪後の需要の減退は大きくないとの見方もある。

その当否は他の議論に譲るとして、2019年や2020年に大幅な財政出動を求める声が出ているのは事実である。しかも、それは2019年10月の予定通りの消費増税を是認することとセットになっている面もある。

安倍首相は、消費税率の10%への引上げを2度先送りした。1度目は衆議院を解散した2014年11月、2度目は参議院選挙を前にした2016年6月だった。1度目の延期は、安倍首相から見れば自分が決めたわけでない2015年10月の増税を覆すことが主眼だっただろう。2度目の延期は、2017年4月の増税を意識して大規模な財政出動ができない状況に追い込まれそうになったことが引き金になったといえよう。

というのも、安倍首相は1度目の延期の際、2014年11月18日の記者会見で「2020年度の財政健全化目標についてもしっかりと堅持してまいります。来年の夏までにその達成に向けた具体的な計画を策定いたします。」と明言した。そして、それに基づき、2015年6月に「経済・財政再生計画」を閣議決定し、2018年度までに基礎的財政収支の赤字を対GDP比で1%程度にする目安を立てた。

2017年4月に予定された消費増税は、この目安通りの財政収支改善を行うには、消費増税とセットで大規模な財政出動をするというわけにはいかない情勢だった。むしろ、この目安自体を覆すしか財政出動はできない状況だったといってよい。だから、安倍首相は2016年6月1日の記者会見で、(2014年11月に言った)公約違反との批判も受け入れて「新しい判断」に基づき、消費増税を再延期すると表明するとともに、参議院選挙後の同年8月には13.5兆円もの財政措置を伴う「未来への投資を実現する経済対策」で財政出動した。

結局、2017年4月の消費増税が実現しないどころか、2016年8月に決めた経済対策で財政出動まで行われて、基礎的財政収支改善の目安も達成できなかった。

2019年10月はどうか。2017年9月に衆議院を解散する口実として、消費増税による増収分の使途を変更するとともに、2020年度の財政健全化目標の達成を先送りすることを表明したことを受けて、財政健全化目標の達成時期については未定の状態になっているのが現状だ。2019年10月や2020年頃に、財政出動を阻む目標や目安は今のところない。

むしろ、財政出動が確約されるなら予定通りの消費増税もやむなしという雰囲気すら漂う。

加えて、逆にみれば、2020年度の目標達成は困難で、基礎的財政収支を黒字化できるとしても2020年代前半。2019年や2020年に一時的に財政収支が悪化しても、経済対策が一時的なら、目標の達成時期となる頃には財政出動は終わっていて支出は減らせるから、消費増税を予定通りに行ってもらった方がかえって目標達成に資する。そんな見方も見え隠れする。

果たして、この初夏の「骨太方針」には、予定通りの消費増税と財政出動は、どのように取りまとめられるのだろうか。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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