Yahoo!ニュース

20年あまりにわたる携帯電話普及率の実情をさぐる(新興国編)(2024年公開版)

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
携帯電話は情報の伝達概念を大きく変えていく。新興国でもそれは変わらない(写真:イメージマート)

国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)では定期的に主要国(ITU加盟国)の携帯電話やインターネットに関する統計資料をまとめ、各国の動向を推し量れるデータを公開している。今回はその中から「新興国の携帯電話普及率の推移」を2024年の時点で抽出し(収録されている値は2022年分まで)、状況の精査を行う。

「新興国」との言葉には色々な定義、区分があり、さらに国数も多い。すべてを追いかけていては雑多に過ぎるので、今回はG20各国のうち目にとまった国、具体的にはアジア諸国からは「シンガポール・マレーシア・韓国・インドネシア・中国・インド」、それ以外の国から「サウジアラビア・ロシア・ブラジル・トルコ・メキシコ」を対象とする。

まずは公開されている最新値、2022年における携帯電話普及率をグラフ化する。この「携帯電話」には従来型携帯電話(フィーチャーフォン)以外にスマートフォンなども含む。また、「契約者数÷人口」で普及率を算出しているため、普及率が100%を超えることもある。

↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその1)(2018~2022年)
↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその1)(2018~2022年)

↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその2)(2018~2022年)
↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその2)(2018~2022年)

複数国が100%を超えている。これは「契約数÷人口」の計算式で算出していることと、「プリペイドの扱いやSIMカード(契約者情報を記録したICカード)の互換性への対応が各国で異なること」を起因としている。

要は複数枚のSIMカードを一人が「契約」し、電話をかける相手によってカードを切り替え、少しでも安い料金で利用しようとする「生活の知恵」的な使い方によるもの。特にこの使い方は、新興国で行われる事例が多数見受けられる。新興国で携帯電話普及率が高いのは、これが一因でもある。また例えばインドネシアのように、国土構成の事情から固定回線の普及に難儀しており、それが携帯電話の普及をさらに後押しするなどの理由もある。

ロシアやサウジアラビアの普及率の高さにも目がとまる。総務省のデータベース「世界情報通信事情」で確認すると、「携帯電話本体を選ぶ」他に「携帯電話の契約会社=SIMカード」を選び、携帯電話の利用スタイルを臨機応変に変えているようである。

ここ数年では韓国の順調な伸び方が目にとまる。「世界情報通信事情」で確認すると、「BtoB分野5G市場拡大のため、2021年からローカル5Gに当たる5G特化網制度が導入」との記述がある。経済を活性化する観点で、国策的にモバイル市場を後押ししているようだ。

続いて2000年以降における、各国の携帯電話普及率推移。

↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその1)
↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその1)

↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその2)
↑ 携帯電話普及率(契約数/人口、新興国などその2)

最近の動きを見ると、いくつかの国で減少が生じている。サウジアラビアの場合は違法SIMカードの取り締まりのために2012年からプリペイドカードの購入登録システムの導入を行ったこと、ブラジルではすでに飽和状態となっているのに加え、プリペイドカードの比率が減少し、さらに2013年以降にLTEサービスを開始したことから4Gへの乗り換えが進んでおり、この流れの中で生じた多重契約の解約が数字となって表れたものと考えられる。

またシンガポールも2013年から2014年にかけて大きな減少が生じている。これは2014年4月からシンガポールにおけるプリペイドカード式SIMカードの購入上限を、これまで1人10枚だったものが3枚に減らされたことによるもの。見方を変えれば同国ではそれまで、少なからぬ人が1人につき4枚以上のカードを持っていたことになる。

元々携帯電話、あるいはデジタル方面のインフラ整備に積極的な韓国やシンガポールは2000年時点ですでに60%内外の高い普及率を示している。もっとも上昇スピードはほぼ一定で緩やかなものである。なおシンガポールで2006年から2007年にかけて大きな上昇がみられるが、これは2006年6月に同国で発表された、10か年情報通信マスタープラン「インテリジェント・ネイション2015」、そしてその一環として構築された「次世代全国ブロードバンド網(NGNBN)」(オープンアクセスの光ファイバー網)が一因だと考えられる。

他の国のほとんどは、2000年の時点では数%からよくて20%程度の値でしかなかった。それが2003年前後から上昇カーブの角度を上向きにし、急速な普及率向上を見せる。とりわけロシアとサウジアラビアの伸び率は著しいが、上記にある「SIMカードの複数契約」がその一端であると考えられる。

それ以外の国でも普及率の伸び方は非常に大きく、各国のインフラ整備が急ピッチで行われ、それとともに携帯電話の普及も進んでいる。見方を変えれば「携帯電話の普及が新興国の発展のバロメーターの一つ」であると同時に「携帯電話の普及により民間・一般市民における情報や経済交流の活性化が促進され、国そのものの活力向上にも寄与した」と考えられる。

他方中国は上昇率もゆるやかなものだが、ほぼ確実に増加していることには違いない。同国の人口ポテンシャル(と地域性)を考えれば、この伸び率でも驚異的であると認識すべき。また、トルコは2008年の93.5%を頂点として、一度頭打ちを示したが、これは同国の携帯事情(本体を利用登録しておかないと利用できなくなる)によるようだ。もっともその後しばらくして、再びゆっくりとではあるが上昇をしている。

パソコンに近い感覚でインターネットへのアクセスができ、多様な機能を装備し、インターネットによる可能性を大きく切り開くスマートフォンの浸透が進めば、今まで以上に利用者の情報に対する意識も変化していく。

携帯電話の普及とともに変化する、「不特定多数」の人たちの意識と情報環境。この動きは社会全体にどのような影響を及ぼすことになるのだろうか。

■関連記事:

【インターネットへのアクセス端末、全年齢階層で「携帯電話」>「パソコン」の時代(2020年公開版)】

【中国17.2億・インド11.5億…世界の携帯電話契約数上位国をさぐる(2022年公開版)】

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。また「~」を「-」と表現する場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事