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落語×歌舞伎×現代、演劇×映像、柳生二千翔の最新作「コーパル」をオンライン無料配信

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
永代橋に立つ柳生二千翔。1993年生まれ。

 青年団所属で、2021年1月まで演劇ユニット「女の子には内緒」を主宰した劇作家で演出家の柳生二千翔(やぎゅうにちか)が、現代版の「隅田川物」を発表する。

「隅田川物」とは本来、能「隅田川」の梅若伝説をもとにした歌舞伎や浄瑠璃などの演目を指す。だが、柳生は隅田川に根差した物語と拡大解釈。落語「永代橋」や河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)作の歌舞伎「八幡祭小望月賑(はちまんまつりよみやのにぎわい)」など隅田川を舞台とする古典作品をコラージュした作品「コーパル」の発表を目論む。その背景について柳生は語る。

柳生 落語と歌舞伎のふたつの演目だけじゃなくて、今回の作品にはいろいろな物語が入っています。日本の古典芸能に「ないまぜ」というやり方があって、ふたつ以上のネタ元をコラージュして新しいものにつくり替える二次創作的な方法です。この手法で新しい「隅田川物」がつくれないかと取り組みました。

江戸時代に起きた永代橋の崩落事故をモチーフに現代を描く

 柳生が「隅田川物」を手がけるのは、今回で2度目。2019年に上演した「アンダーカレント」は前述の能「隅田川」の現代版だ。

 なお、前回も今回も、柳生の作品は墨田区内随所で展開されるアートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢(通称すみゆめ)」の一環として実現された。

柳生 「アンダーカレント」を上演して、隅田川やその周りの土地には地域資源とか文化の蓄積が宿っていると実感できました。そして、隅田川を題材にして現代に結びつける作品は、いくらでもやりようがあるなあと手応えをつかんだんです。で、次はどういうアプローチにしようかと考えるうち、前回も象徴的なモチーフとして扱った橋を中心にして探りたいと考えました。橋ひとつで掘り下げられるものが数多くあるなあと思うし。そこでいろいろ題材を探して、永代橋崩落事故に至りました。それを現代に置き換えて、隅田川の持つ歴史や文化を現在の視点から再解釈したくて。

遊覧船にたたずむ原田つむぎ photo ヤマワキタカミツ
遊覧船にたたずむ原田つむぎ photo ヤマワキタカミツ

 永代橋崩落事故とは、江戸時代、永代橋近くの富岡八幡宮の祭りの日に、あまりにたくさんの人々が橋に押し寄せたせいで橋が崩れ落ち、数多くの死者が出た痛ましいアクシデントのこと。今回、コラージュする落語も歌舞伎も、この事件に想を得た物語だ。

死を題材にしながらも、ボーイ・ミーツ・ガールという側面も

柳生 いまの価値観で考えると、不幸な事故を落語にして笑うだなんて、ひどいなあ、残酷だなあと思います。だって、いまのぼくたちが3.11をネタにコメディがつくれるかというと、それは絶対に無理だし。でも当時の江戸の人たちは、他人の不幸は蜜の味みたいなことをしていた。でも一方でそれは、悲しみを笑いに替えてつらい過去を乗り越えるしかなかった面もあると思う。だから、昔の価値観をいまの価値観で倫理的におかしいと非難するつもりはなくて、笑った人たちのことも肯定したい。

 ぼくはもともと古典を見てきたわけじゃないし、演劇を始めてからもほぼ見ていません。でも、古典を扱ってて面白いのは、自分の主観で見た世界を描くだけじゃないところ。いまぼくたちが生きている世界の視点を過去に照らし合わせてみると、まったく違う世界が見えてくる。だから面白い。

両国橋付近の川沿いに立つ福田毅 photo 三浦雨林
両国橋付近の川沿いに立つ福田毅 photo 三浦雨林

 なお、能「隅田川」も落語「永代橋」も歌舞伎「八幡祭小望月賑」も、いずれにも共通するのは死を題材としている点だ。とはいえ、「コーパル」は悲惨なエピソードばかりかというとそうでもなくて、ボーイ・ミーツ・ガールという側面も備えている。

柳生 古典には土地とのつながりが物語にある。消えちゃった過去の亡霊はどこに行ったのか探りたかったんです。それに、題名の「コーパル」は琥珀の出来損ないというか、琥珀になる前の段階のもっと柔らかい状態の石のこと。琥珀になりきれてない人たちを描きたい。

つくりたいのは映像作品ではなく、あくまでも演劇

 この「コーパル」は12月19日から26日までオンラインで無料配信される。

 当初は舞台で上演したものを映像で記録して配信する予定だった。だが、舞台上演はなくなり、隅田川沿いや永代橋、遊覧船、人ん家で撮影した映像を編集するプランに変わった。

柳生 コロナ禍もあって、映像で見る演劇とは何だろうと改めて考えました。画質や音の強さや質の高さを求めると、おのずと映画に近いアプローチになってくる。でもそれじゃあ、ネトフリに勝てるわけがない。で、ぼくがつくりたいのは映像作品ではなく、あくまでも演劇。「コーパル」は映像を使った演劇のつもりでつくりました。映像で見る演劇とは何かに対するぼくなりのアンサーになっていればいいんですけどね。理想を言うと、河原にモニタを設置して見てほしい。できれば名の知らぬ川がいいですね。

永代橋にある花をみつめる細谷貴宏 photo 三浦雨林
永代橋にある花をみつめる細谷貴宏 photo 三浦雨林

「コーパル」オンライン配信

日時:2021年12月19日(日)19:00~26日(日)23:59

WEBサイト:https://nichikayagyu.tumblr.com/copal

作・テキスト:柳生二千翔

原案:落語「永代橋」、河竹黙阿弥「八幡祭小望月賑」ほか

出演:原田つむぎ、福田毅、細谷貴宏

映像:内田圭

佃島を背後に永代橋に立つ柳生二千翔 photo Shinkawa Takashi(冒頭掲載写真も)
佃島を背後に永代橋に立つ柳生二千翔 photo Shinkawa Takashi(冒頭掲載写真も)

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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