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「アバター」続編が4本できるのは、良いニュースか、悪いニュースか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2010年のオスカーのジェームズ・キャメロン夫妻。「アバター」は9部門で候補入り(写真:ロイター/アフロ)

撮影開始の延期が続いている「アバター」の続編が、ついに本格的に動き出した。

現在ラスベガスで開かれている興行主向けのコンベンションCinemaConでジェームズ・キャメロン自身が本日発表したところによると、「アバター2」の北米公開日は、2018年クリスマスに決定したということだ。ポストプロダクションに長い時間がかかる作品だけに、すぐにでも撮影に入らなければいけないスケジュールで、準備は整っているものと思われる。しかも、キャメロンは、全部で4つの続編を作ると発表した。公開日も決まっており、3作目は2020年、4作目は2022年、5作目は2023年のクリスマス。何本かまとめて撮影されるのかどうかは、わかっていない。過去にキャメロンは、続編を3つ作ると発表していたが、彼のもつ構想は、それでは収まりきらないほど大きかったようだ。これら4本はそれぞれに独立した映画だが、一緒になってひとつの大河小説を作り上げるものだという。

しかし、このニュースに誰もが喜んだわけではない。むしろ、ネットやツィッターには、批判的なコメントのほうがずっと多く寄せられている。多く聞かれるのは、1作目から9年もたっていて、もう人は覚えていない、という声。また、1作目が映画史上最大の世界興収(28億ドル弱)をもたらす爆発的ヒットになったのは、オリジナリティと、当時は目新しかった3Dのおかげだったとの指摘もある。5作のシリーズ物となると話は別で、3Dも、もはや珍しくもなんともない。さらに、キャメロンのような優れた映画監督が、これからの7年を「アバター」だけに費やすことを嘆く声も聞かれる。業界サイトでは、「キャメロンが、ばかばかしいファンタジー映画シリーズのために才能を無駄にするなんて悲しい。そういうのはもういっぱいあるじゃないか」「全部キャンセルして、新しいプロジェクトに移ってくれ」というようなコメントが見受けられた。

一方で、続編が動き出すまでにこれだけ長い時間をかけてストーリーと脚本を練っていったキャメロンのこだわりとプロ意識を褒め称える向きもある。ヒットすれば今すぐにでも続編を、となるのが当たり前の業界だけに、スタジオはできるだけ早く「アバター2」ができることを望んだだろうが、キャメロンは焦らず、自分が納得する作品にするために必要な時間を十分にかけたのだ。「スター・ウォーズ」のユニバースがどんどん広がってきたように、「アバター」の世界にも、膨らんでいく余地はあるだろう。「スター・ウォーズ」はエピソード3(2005年)からエピソード7まで10年、「ジュラシック・パーク」も「ジュラシック・パークIII」(2001年)から昨年の「ジュラシック・ワールド」まで14年たっていたのに、共に昨年大ヒットしたことを考えると、「9年もたったから人は1作目を忘れている」という批判にも、あまり説得力はない。

それでも、続編を4つ作ると最初から決め、膨大な予算を注ぎ込むのは、相当なギャンブルだ。その道を選んで大成功した「ロード・オブ・ザ・リング」の例は、ハリウッドで今後も永遠に語り継がれていかれる神話だし、「スター・ウォーズ」も、スピンオフも含めて4本の製作が進行している。その一方、昨年夏公開された「ターミネーター:新起動/ジェニシス」は、新しい三部作の1作目という位置付けで、次のストーリーも決まっていたが、期待にそぐわない興行成績を受けて、次はなくなった。ベストセラー小説を原作にする若い女性向けのSFアクションシリーズ「ダイバージェント」も、回を追うごとに売り上げが落ち込み、来年夏北米公開予定の最終章に、大きな不安の影を投げかけている。一定の売り上げを確実に持ち込んでくれるシリーズ物をどのスタジオも持ちたがる今日、多くの映画は最初からシリーズ化を想定して企画を立てるが、本当に次があるかどうかの決定は、1作目の数字が出てからなされるのが普通だ。2作目がヒットすれば、3作目へのゴーサインが出る。長く続いてきた「007」や「ワイルド・スピード」も、それを繰り返してきたのである。

そんな中、あえて4本の製作を、公開日まで含めて大々的に発表するというのは、キャメロンとスタジオの、作品への絶対的な自信を証明するものと言えるかもしれない。ところで、先にも述べたが、これらの公開は2018、2020、2022、2023年のクリスマス。「スター・ウォーズ」は、2016年12月、2017年12月、2018年5月、2019年(何月かは発表されていない)だ。つまり、これから4年は「スター・ウォーズ」か「アバター」が必ずあり、その後もまだ「アバター」が2本残っていることになる。もちろんその間、マーベルとDCコミックのアメコミ映画も、毎年複数出てくる。そう気づくと、「キャンセルして新しいプロジェクトに移ってくれ」というコメントが、ふと、思い出されてしまう。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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