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買うのを決めるのは配達後に試着してから。Amazonが返品の概念を変えつつある

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米アマゾン・ドットコムは6月20日、米国で「Prime Wardrobe(プライム・ワードローブ)」と呼ぶ、新たな衣料品のネット販売サービスを始めると発表した

簡便な返品手続き

これは、顧客がアマゾンのサイトで衣料品を注文し、家に届いたら試着し、気に入ったものは購入し、気に入らなかったら無料で返品できるというサービスだ。

返品までの猶予期間は7日。注文は商品3点から可能で、気に入らなかったら、すべて返品してもよい。アマゾンの有料会員プログラム「Prime」を対象にしたサービスで、会員は追加料金なしで利用できる。

このサービスが興味深いのは、返品手続きが非常に簡便という点だ。

商品はPrime Wardrobe専用の段ボール箱に入って送られてくるが、これには、返送の際に再梱包するためのテープや、送り状シールも付いてくる。

顧客は送り返す商品を箱に入れたら、テープでとめ、送り状を貼って、近所のUPS宅配便店舗に持ち込むか、集荷サービスに依頼する。上述したとおり、返送は無料。送料はアマゾンが負担するため、顧客に負担は一切かからない。

日本のアパレル返品サービスと異なる点

同社で取り扱うアパレル商品については、最長30日間返品可能で、返送料もかからないというサービスが日本にもある。つまり、こちらも顧客が自宅で試着することができるのだが、その手続きはPrime Wardrobeと比べて煩雑だ。

例えば返品の際、顧客は、まずアマゾンのサイトで返品の申し込みをしなければならない。そのうえで、指定されるラベルを自宅のプリンターで印刷。それを商品と一緒に箱に入れ、宅配便の送り状を書いて送る。

そもそも、こちらは、あくまでも、一度購入した後に、返品し、返金を受けるというものだ。これに対し、米国で新たに始めるサービスは、期限を過ぎるまでは決済処理を行わない。このため返金手続きもない。ちょうど、衣料品店で試着している段階では、お金のやり取りがないのと同じだ。

米ウォールストリート・ジャーナルによると、米国では多くのアパレルチェーンが、ネット販売と返品サービスを行っている。だが、時に、その返品率は4割に達することもあり、小売店の頭を悩ませているという。

一方、アマゾンには、eコマース事業で築き上げた物流システムがあり、その輸送コストは、実店舗販売が本業のアパレルチェーンよりも低く抑えられるという。

ただ、こうした販売手法は、アマゾンにとって大きな費用負担となる可能性がある。そこで、アマゾンは、返品率を抑制するための工夫をしている。例えば、顧客が送られてきた商品の中から3〜4点を購入した場合、アマゾンはその購入金額から1割を差し引く。もし5点以上購入した場合は、2割差し引くという。

アマゾン、全米2位のアパレル小業者に

なお、アマゾンは近年、衣料品販売事業を拡大している。ウォールストリート・ジャーナルによると、米モルガンスタンレーは、今年4月に出した調査ノートで、アマゾンのeコマース事業におけるアパレル商品の売上高はすでに、米ターゲットや大手百貨店のそれを上回っており、同社は米ウォルマート・ストアーズに次ぐ、全米第2位のアパレル小業者になったと報告している。

JBpress:2017年6月22日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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