バットもグローブも使わない! 生駒市で実施された野球少年向けのユニークな講習会の目的は?
生駒市体育協会が野球少年向け講習会を実施
昨年12月に奈良県生駒市内で野球少年を対象に、興味深い講習会が実施された。
この講習会は生駒市体育協会が主催するもので、4回目を向かえる今年は奈良県内の中学・高校野球部に在籍する151名が参加した。
野球少年を集めての講習会ということで、野球選手としての育成を目指したものであることは理解できるだろう。だが約4時間の講習はバット、グローブ、ボールは一切使うことはなかった。その真の目的は、野球少年を野球障害や負傷から守るため正しい身体の使い方を指導するというもので、生駒市体育協会が取り組む障害予防・育成プロジェクトと呼べるものだ。
指導者は志をもった各分野の治療専門家の団体
指導に当たったのは治療家の集まりである『キネティック・フォーラム』に所属する人たちだ。この団体は柔整師、鍼灸師、トレーナー、理学療法士等々、医療、治療分野で活躍する人たちの集まりで、彼らは普段もそれぞれのフィールドでアスリート達の治療に従事している。そうした専門家たちがフォーラムを通して意見交換を行いながら、日々障害予防に取り組んでいる。
簡単に指導メニューを説明すると、野球少年たちに野球障害のリスクを減らす投げ方、走り方、打ち方の動作、姿勢を体得させようとするもので、三点倒立、ブリッジ、側転、前転などを行いながら基本動作を学ばせることを目的にしている。メニューはすべて体育の授業で行うような簡単な動きなので、参加学生たちは遊び感覚でメニューを消化していた。(掲載写真を参照)
今回はあくまで野球少年だけを集めた講習会だったが、実は生駒市体育協会はキネテッィク・フォーラムと協力しながら、定期的に学校単位にキネティック・フォーラムのメンバーを派遣し、他競技の学生たちの指導にも取り組んでいるという。その甲斐あってこうした取り組みを実施してから以降は、学生たちのケガが着実に減少傾向にあるという。
全国の中高指導現場で求められるべき障害予防の意識
現在の学生スポーツの指導現場は、決して理想的だといえるものではない。競技に力を入れている私立校ならある程度の予算を割いて指導環境を整えているケースもあるが、それでも障害予防という面ではなかなか専門家が現場介入できない状況だ。ましてや技術指導ですらあまり専門的知識がない教師たちが指導せざるを得ない公立校では尚更だ。
本来なら学生アスリートの障害予防は技術指導よりも重要視される部分であるはずだが、まだ日本では軽視されている傾向にある。生駒市体育協会の取り組みが一石を投じ、全国的に広がっていくことを願うばかりだ。