「中国人も日本人も関係ないなって思いました」 ―日中学生交流事業ー
「うわぁ、かわいい~!」
浴衣を着せてもらった中国人女子大生の照れくさそうな笑顔に小さな歓声の声が上がる。
キモノスタイリスト&着物デザイナーの冨田伸明さんが手際よく浴衣を着せていくと、次々と学生たちが写真に撮り始め、身を乗り出した。日本語がわからない中国人学生には、中国語がわかる日本人学生が通訳してあげたり、興味深そうに冨田さんに話しかけたりしている姿が印象的だ。
これは日中学生交流事業実行委員会が企画した「2015年日中学生交流事業」の一コマ。
同委員会が、日中双方で大学生を募集・選抜したメンバー約60名が参加したもので、中国側からは復旦大学、上海外国語大学、上海財経大学などから、日本側からは東京大学、東京外国語大学、早稲田大学、慶応義塾大学などから参加している。相手国の文化や社会、経済に直接触れて交流を深めること、双方向の交流や若者同士の相互理解などを目的としている。
7月末から東京周辺と上海周辺で約10日間かけて、1環境、2経済、3観光、4文化交流、5流行、6教育・スポーツの分科会に分かれて、日中のさまざまな企業・施設を訪問し、最終的に各研究テーマについてプレゼンテーションを行う。
取材に訪れたのは5日目。4と5の分科会メンバーによる講談社訪問と、4による着物体験に同席した。講談社ではファッション誌の編集部でレクチャーを受けたり、編集現場を見学。図書館やカフェテリアにも立ち寄った。中国でも人気のある雑誌を発行している出版社だけに、日中の出版事業やファッショントレンドに関する質問が集中した。
ある日本人学生は、父親が上海で働いていることから中国に興味を持ち、同プログラムに参加した。「以前、オーストラリアに行ったとき、中国人学生からとても親切にしてもらったんです。日本のメディアで報道されていることとは全然違い、新鮮な印象を持ちました。もっと中国の方と直接交流したいと思いました」
また、別の学生は、後半の上海でのプログラムについて「興味津々の内容ですね。でも、それだけでなく、普通の中国人が買い物に行っているスーパーや、中国人の日常生活も見てみたいですね。たとえば、中国人の家にも行ってみたい」と話していた。
中国人学生は、必ずしも日本語専攻ばかりではない。日本に興味はあるが、行ったことがない学生も選抜された。金融や社会学、英語専攻の学生も参加しているが「初めて日本に来ました。町がきれいで、どこに行ってもすばらしい体験ばかり。日本人学生と同じ部屋なのもうれしいですね」という。
同プログラムでは日本人と中国人をホテルで同室にし、昼間の企業訪問だけでなく、それ以外でもコミュニケーションを取る時間を十分取っている。日中両国語が堪能な中国の血をひく学生は「同じ部屋になった中国人の女の子と恋愛の話をしました。そうしたら、中国人とか日本人とか、全然関係ないなって思いました。恋愛話で一気に距離が縮まった感じがします」とうれしそうだった。
着物スタイリストの冨田氏は2012年ごろから足繁く中国に通い、これまで中国内の50以上の大学を訪問し、日本の着物文化を紹介してきた。「文化に国境はありません。日本文化の着物はもともと中国から分けていただいたもの。こうしてお互いの文化に興味を持つ学生さんが増えることはとてもいいことですね」。
同行した在上海日本国総領事館・領事の宮本佳氏も「東京と上海を実際に自分の目で見て、さまざまな方のお話を聞いたり見たりすることによって、日本と中国がどれほど深くつながっているかを肌で感じ取ってほしいですね」と話している。