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渡辺明名人(37)銀河戦決勝進出! 前期優勝の藤井聡太銀河(19)2連覇ならず

松本博文将棋ライター

 12月14日。第29期銀河戦準決勝▲藤井聡太銀河(19歳)-△渡辺明名人(37歳)戦が放映されました。

 結果は106手で渡辺名人が勝利。決勝へと進出し、菅井竜也八段-増田康宏六段戦(12月16日放映)の勝者と優勝を争います。

 前期優勝の藤井銀河はここで敗退となりました。

 両者の対戦成績はこれで藤井8勝、渡辺2勝となりました。

 藤井銀河の今年度成績は45勝10敗(勝率0.818)となりました。

 藤井銀河の先手番成績は、昨年11月以来では34勝2敗。今年度では26勝2敗となりました。

渡辺名人、快勝で決勝へ

 本局が収録されたのは9月14日。藤井銀河が叡王位を獲得し、史上最年少三冠となった翌日でした。ハードスケジュールはトップクラスの棋士の宿命とはいえ、なんとも厳しい日程です。

 藤井銀河はこのとき王位・叡王・棋聖の三冠。渡辺名人もまた棋王・王将をあわせもつ三冠。本局は三冠同士がぶつかるという豪華カードでした。

 藤井銀河先手で戦型は角換わり。渡辺名人が銀を中段四段目に出て腰掛銀に構えたのに対して、藤井銀河は銀を三段目に待機させます。互いに間合いをはかりあう現代調の進行となりました。

渡辺「そんなに前例が多い形じゃないので、中盤以降は一手一手、非常に難しい将棋だったと思います」

 次第に局面がほぐれてきた49手目。藤井銀河は自陣に角を据えて攻撃の起点とします。対して渡辺名人は冷静に対応して角を封じ込めます。盤上全体で駒がぶつかりあって難しい中盤戦が続きました。

 76手目。渡辺名人はずっと手持ちにしていた角を打って王手。中央に構えた藤井玉は不安定な形で、それを的確にとがめた渡辺名人がペースをにぎりました。

 藤井銀河は渡辺陣に迫って反撃しますが、渡辺玉がまだ余裕があるのに対して、藤井玉は薄く粘りの利かない形。渡辺名人は味よく駒を取りながら勝勢を築きました。

 本局、藤井銀河の本来の実力が出ていないように感じた観戦者も多いかもしれません。それはまさに渡辺名人の実力があればこその展開だったのでしょう。

 渡辺名人は上から押していくセオリー通りの寄せ。藤井玉の上部にと金を作って下段に落とし、106手目、角を打って受けなしとしました。

「10秒・・・。20秒、1、2、3、4、5」

 そこまで秒を読まれたところで、藤井銀河は投了。渡辺名人は一礼を返し、スーツの上着を着ました。

 渡辺名人は2019年以来の決勝進出となります。

渡辺「2期ぶりでしたっけ? 前回、覚えてない(苦笑)。誰に負けた? 2期ぶりなのか・・・」

 ずいぶん久しぶりなような感じがするとコメントした渡辺名人。決勝を制すれば5回目の優勝となります。

 本局の収録から放映まで、3か月の時間が過ぎました。その間には藤井竜王、および史上最年少四冠が誕生しています。また藤井竜王は渡辺王将への挑戦権をも獲得しました。

 年明けからは王将戦七番勝負が始まります。

 今年度棋聖戦五番勝負では藤井3連勝など、過去の対戦成績を見ても、藤井竜王ノリの声が多いことでしょう。しかし本局は渡辺快勝でした。この一戦が今後の両者の頂上決戦におよぼす影響は大きいのかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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