引退試合は空気を読まなければならないのか? 藤川球児vs重信慎之介、今こそ考えたい最高の花道の作り方
「火の玉」と形容された伸びのある直球が代名詞。球界を代表するクローザー、阪神の藤川球児投手が現役最後の登板を本拠地で終えた。11月10日の巨人戦には、今季最多の観客が詰めかけたそうだ。マウンドで投じた12球すべてが直球だった。日米通算245セーブ。あと5セーブでの名球会入りを目前に、潔く身を引いた。
矢野燿大監督が最終回のマウンドを用意した「引退試合」を、ファンは惜別の思いで見守っていた。報道によれば、巨人の原辰徳監督は「うちを代表する選手と対戦させたかった」と、球児とともに2009年ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一に輝いた坂本勇人選手、中島裕之選手を代打に送る粋な演出で応じた。そして、勇人も中島選手も空振りのシーンは豪快にバットが空を切り、最後は重信慎之介選手が二飛に倒れた。
球児の最後のマウンドにケチをつけるつもりは全くないが、個人的には「引退試合」の在り方は考えてもいいのかなという正直な気持ちもある。
今回、勇人、中島両選手の空振りには「あうんの呼吸」があったと言われても仕方がない。中島選手が空振り三振に倒れた場面では、テレビ画面に映った球児も苦笑いを浮かべていた。言うまでもなく、球児は超一流の投手だ。自分のストレートの球威、伸びが全盛時と現状でどう違うかは自分が一番わかっている。対戦した打者のスイングの軌道も、当事者同士ではごまかせない。
球児に限らず、中日の吉見一起投手が11月6日には、ナゴヤドームで打者1人から空振り三振を奪って現役生活にピリオドを打った。「引退試合」は日本らしい演出でもあり、声高に否定するつもりはない。ただ、難しい問題だなあという感情もぬぐえない。
引退する選手の最後ゆえに、本気でぶつかり合う真剣勝負なら文句はない。それなら、功労者への敬意を表するセレモニーに公式戦が用いられることへの違和感もなくなる。そうでなければ、以前にもコラムに書いたが、私は翌シーズンの開幕戦での始球式や、オフの球団行事で堂々とセレモニーとして「登板機会」「出場機会」を設けたほうがいいという考えだ。
今回、最も残念だったことは、SNSなどでバットに当てた重信選手に対して「空気を読め」などのコメントが上がったことだ。公式戦のプレーにおいて「空気を読む」とはどういうことなのだろうか。テレビ解説で阪神OBの掛布雅之氏による「重信君は分かっていない」というような発言があったとの報道も目にしたが、コメントが独り歩きしてネットでの炎上に繋がる事態は避けてほしかった。「引退試合」をどう楽しむかは、ファンの自由。だけど、その場でプレーした選手が「期待通り」にならなかったからといって、誹謗中傷することは絶対に許されない。許してはいけない。