エンゲージメント向上に潜むワナ--流行語大賞「ONE TEAM」を目指すべきか--
こんにちは。アクシス株式会社 代表・転職エージェントの末永雄大です。
中途の人材採用支援をしつつ、月20万人以上の読者を持つ「すべらない転職」という転職メディアを運営している中で、Yahooニュース上では2013年から「働き方3.0」というテーマでキャリアや雇用分野について発信させてもらっています。
本日2日、毎年注目を集める、ユーキャン新語・流行語大賞が発表されました。
2013年に受賞された「お・も・て・な・し」や2018年の「そだねー」などは、今も色濃く皆さんの記憶に残っているのではないでしょうか?
そんな名誉ある令和初の受賞を飾ったのは、ラグビー日本代表の「ONE TEAM」でした。
しかも、11月6日に発表されたノミネートの中に、ラグビー日本代表関連のものは「ONE TEAM」のみならず、「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」など計5つがノミネートされました。
まさに、ラグビー熱で盛り上がった令和元年の日本を物語っていますね。
日本出身ではない選手も多い中でチーム一丸となってプレーしていた彼らが見せてくれた熱気や勝ち続ける達成感は、まさに私たちが自分自身の会社の部署やチームに対し潜在的に持っている憧れでもありますよね。
ラグビー日本代表チームのように、チームの課題や目標に全員でコミットし、エンゲージメントの高い状態であることは、確かにチームの勝利に繋がる重要な要素になると思います。
今回の「ONE TEAM」の大賞受賞はラグビー日本代表の素晴らしさからだけではなく、実際に仕事現場で管理職である方だけでなく一メンバーである方も、チームを自分ごとと考え、自分自身の「チームマネジメント」を考えるきっかけになったからこそ持続的な白熱に繋がったがゆえではないかと考えています。
ラグビーの「ONE TEAM」という言葉にも見られるような「一体感」や「エンゲージメント」を重視したチームマネジメントは昨今さらに注目を浴び、エンゲージメントの向上に注目する企業は増えています。
しかし、その弊害として「エンゲージメントこそが正義である!」というような思考停止している状態にある人やエンゲージメントを向上させることが目的化してしまっている企業を多数輩出してしまっているという問題もあるように感じています。
さて、ラグビー日本代表チームのような「一体感」や「エンゲージメントの向上」のためのチームマネジメントは、全ての組織で有意義にはたらくでしょうか?
答えは、「NO」です。
というのも、それぞれの組織によって目標や状況が異なるため、打つべき施策が異なるのと同じように、チームワークとしてのあり方も異なるからです。
私自身、エンゲージメントや一体感を求めるチームマネジメントも一つの手段として有効であると考えていますが、それが重要視されすぎている、偏重されているというところには若干の違和感を持っています。
それは、一人一人の人間に個性があるように、組織にも個性があるはずで、全ての組織に万能に働く施策は存在しないからです。
さて、今回はこのような「エンゲージメントが偏重されたチームワークのワナ」について詳しくお話ししていきたいと思います。
そもそもエンゲージメントとは何か
エンゲージメントとは、「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係」のことをいいます。
まさにラグビーから誕生した名言「One for All, All for One」は「エンゲージメント」を体現したような言葉ですよね。
さて、エンゲージメントという言葉の認知は高まり、企業経営者や人事関連のお仕事をされている人なら誰もが知っている言葉にまでなっていますが、この意味をしっかり理解していた方はどれだけいらっしゃるでしょうか?
エンゲージメントを重視する組織では、「個人の成長や働きがいを高めることは組織の価値を高める」ということと、その一方で「組織の成長が個人の成長や働きがいに繋がる」という考えが根底にあります。
しかし、エンゲージメントという言葉がここまで世の中で広まる中で、誤釈をされてしまっているケースも多い印象があります。
エンゲージメントが重視され過ぎる時代?
ところで、これほどまでにエンゲージメントが重要視されているのはなぜでしょうか?
それは「人材の流動化」という世の中の流れです。
日本型企業では長く終身雇用・年功序列が当たり前でしたが、グローバル化の流れにより徐々にそのような企業でも実力主義・成果主義を導入するようになってきました。
そこで市場価値という概念が日本でも広がっていきました。社内価値と対を成す言葉で、転職市場での価値を指します。
市場価値においてより自分自身の価値が高く評価される場合もありますし、勝負できる土俵も広がるので成長志向の優秀なビジネスパーソンほど転職する人が徐々にですが増えていきます。
これにより、長く人材の流動化に対応して来なかった日本型企業では、優秀な人材や若手社員の流出に苦しむようになりました。
こうした背景の中で、企業としては、個人の成長や働きがいに投資する事で、個人の企業へのロイヤリティを高め定着率を高めたいという意図が見え隠れしています。
人事も経営も武器ですし、エンゲージメントも人事の武器ですから、それは決して悪い事ではありません。
しかし、そういった背景や意図から、エンゲージメントという言葉が独り歩きして、様々な意味合いで使われて、ミスリードしてしまっているケースもあるように感じます。
適材適所という視点
エンゲージメントの向上という経営における手段が目的化し、エンゲージメントスコアのポイントアップや定着率アップすれば良いと誤解されてしまうと、見逃されがちな罠があると思っています。
それは「適材適所」を疎外してしまうことです。
これはカナリ極論ですが、現在は営業の仕事をしているけれど、条件はなんでも良いのでどうしてもITプログラマーへ転職したいと思っている人がいたとして、エンゲージメントを高める事で会社にとどまらせようとすることは組織・個人にとってお互いのメリットになるでしょうか?
転職エージェント目線でいいますと、企業・人事側には利害はないかもしれませんが、未経験でのチャレンジは遅くとも20代後半までと言われている中で、エンゲージメントが高く居心地の良い会社で一生懸命に頑張っていたとしても、年次経過に対して転職市場価値が高まっていなかったり、30代など一定年齢を超えてしまい希望する仕事に転職ができず、自分の夢を諦めてしまうということにも繋がりかねません。
このように個人側視点のみ見た場合に自己実現に繋がっていかないこともあり得ますし、
企業側にとっても、実はより志向の合致した別の営業担当を採用したり、配置した方がエンゲージメントを高める努力も必要がなく、生産性も高まるという場合もあるのではないでしょうか。
根本的に合っていないのにエンゲージメントを高めることで人材をとどめていても本質的にお互いのためになっていませんよね。
そういった意味で企業にとって、エンゲージメント向上の取り組み以上に、
- 市場価値を意識する
- 志向性を重視したエントリーマネジメント
が重要ではないかと考えています。
企業の市場価値意識向上と志向性重視採用
つまり、企業も自社社員の市場価値を把握し、彼ら彼女らの市場価値を高めていくような支援や配置が求められてくるという事です。
その会社にいれば、市場価値が高まっていくという会社こそが今後新規採用においても、既存社員の定着においても重要になっていくのではないでしょうか。
また、志向性を重視したエントリーマネジメントというのは、経験やスキル以上に採用候補者の志向性に着目して採用し、その後もフォローしていくという事です。
人余りの時代ではない中で、とにかく既存社員の定着・活躍を!と目がいく気持ちはわかりますが、そうした背景の中でもあえてより慎重な採用、つまりエントリーマネジメントが重要ではないでしょうか。
例えば、中途で言えば、前職の転職理由や転職の志望軸をきちんと把握して、その文脈に合致した仕事を任せたり、待遇を設計していったり、上司とのコミュニケーションをとっていく。
ここで言う志向性とは「前職で何を経験して、そこで何か感じて、結果こういった事をやっていきたい」であったり、「その人の特質として業務を取り組んでいるだけで黙々と集中でき、やりがいを感じられる」といったその人の動機づけのようなものです。
その際に中途=即戦力というバイアスがボトルネックになりがちと思います。
なぜならば即戦力を求めるとそもそも対象者層がカナリ絞り込まれてしまうというのもありますが、同業他社で全く同じ経験をしている転職者が同じ会社で同じ経験を積もうと思う志向性とは何でしょう?
どうしても給与やポストなど外発的動機づけに偏りがちです。
外発的動機づけが全て悪いとは言いませんが、内発的動機づけと比較して長持ちしないと言われています。
むしろ即戦力と言える経験・スキルはなく、未経験であっても、自社の求人職種に対して強い志向性・動機づけを持った人を採用した方が、入社後のエンゲージメントはそれこそ高く、自助努力により習熟して成果をあげていく事も期待できます。
つまり仕事そのものに対して内発的動機づけ、自分なりに頑張る理由を持っているので強いし長持ちしますよね。
即戦力採用は、こうした志向性による内発的動機づけに着目せずに思考停止してしまうリスクがあると思うのです。
エンゲージメントは手段。目的は企業・組織の成長。
手段を目的化してしまうといった話はどの分野であっても尽きることはありません。
自社と社員の中長期的な成長のために、何が最適解なのかを思考停止せずに考え抜いていきたいですね。
今回のニューステーマである 「ONE TEAM」を目指す場合、わかりやすいエンゲージメントという手段に飛び乗るのではなく、まずはあなたの所属する会社や組織の成長はどのようなことを意味するのか定義づけをし、そのために必要なものは何か、一つずつ考えて行くことが重要かもしれません。