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30代後半での6年契約はMLB初!36歳のダルビッシュが手にした長期大型契約の異例さを解説

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
パドレスと再契約したダルビッシュ有(写真:KIYOSHI MIO/USATS)(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 「いまだに信じられない。ドッキリを仕掛けられているんじゃないか」と当の本人であるダルビッシュ有が驚きをみせた6年総額1億800万ドル(約141億円)での長期大型契約延長。

 2018年2月にシカゴ・カブスと6年総額1億2600万ドルで結んだ契約は、今季が契約最終年を迎えるが、サンディエゴ・パドレスはダルビッシュとの契約が切れる前に、超異例とも呼べる長期契約を提示して、ベテラン・エースをチームに引き留めた。

 契約最終年になるはずだったダルビッシュの今季年俸は1800万ドル(約24億円)のはずだったが、新しい契約によって2023年の年俸は2400万ドル(約31億円)へと600万ドル(約8億円)もアップ。

 新契約は契約金600万ドルで、来季以降の年俸は24年が1500万ドル(約20億円)、25年は2000万ドル(約26億円)、26年に1500万ドル、27、28年はいずれも1400万ドル(約18億円)となっている。

 出来高として、23年から27年の間にサイ・ヤング賞を獲得すると1回につき100万ドル(約1億3100万円)が28年年俸に加算される。

 全チームに対するトレード禁止条約も含まれているので、ダルビッシュが許可しない限り、28年の契約満了までサンディエゴでプレーすることが保証されている。

メジャーリーグ初となる30代後半で6年の長期契約を勝ち取ったダルビッシュ有(写真: KIYOSHI MIO/USA TODAY Sports)
メジャーリーグ初となる30代後半で6年の長期契約を勝ち取ったダルビッシュ有(写真: KIYOSHI MIO/USA TODAY Sports)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

30代後半の選手の6年契約はMLB初

 「自分の年で6年(契約)というのは本当にないこと」とダルビッシュが口にしたように、メジャーリーグで36歳以上の選手が6年以上の複数年契約を手にするのは史上初の快挙。

 これまでに総額1億ドル(約131億円)を超える大型契約は127度のケースがあるが、36歳以上の選手に与えられたのはダルビッシュが2例目となる。

 昨オフに37歳だったマックス・シャーザーがニューヨーク・メッツと3年総額1億3000万ドルの契約を結んだのが初めてのケースだが、年俸を4333万ドルと高額にすることで、契約期間は3年に抑えた。

 そのメッツは、今オフも39歳のジャスティン・バーランダーを2年総額8666万ドル(約114億円)で獲得。シャーザーと同額となるMLB最高年俸4333万ドル(約57億円)を支払うが、こちらもオプションを含めても最長3年間の契約となっている。

 サイ・ヤング賞を2度獲得している現役メジャー最高投手のジェイコブ・デグロム(34歳)でさえ、今オフにテキサス・レンジャースと結んだ契約は5年(総額1億8500万ドル)で、2歳年上のダルビッシュより1年短い。(デグロムには複雑な条件が添えられた6年目の相互オプションが付いているが、保証されている契約は5年間)

 メジャーでは30代後半の選手はパフォーマンスが大きく衰えると考えられており、サイ・ヤング賞投手などの実績を誇る投手でも、単年、もしくは2年契約に抑えられるのが普通だ。

 今オフだと、39歳のザック・グレンキーは850万ドル(約11億円)の1年契約でカンザスシティ・ロイヤルズと再契約。サイ・ヤング賞に3度も輝いた34歳のクレイトン・カーショウもロサンゼルス・ドジャースと年俸2000万ドル(約26億円)の単年保証で再契約を結んでいる。

今オフにドジャースと単年で再契約したクレイトン・カーショウ(写真: KIYOSHI MIO/USA TODAY Sports)
今オフにドジャースと単年で再契約したクレイトン・カーショウ(写真: KIYOSHI MIO/USA TODAY Sports)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

データが証明する30代後半選手の衰え

 メジャーのGMの間では、『30代の選手には長期契約を与えるな』と言う黄金律があり、30代の選手との契約には慎重になる。

 30代後半の選手が衰えるのはデータ的にも証明されており、スポーツ・イラストレイテッド誌の看板野球記者のトム・ベルドゥーチ記者のよると、36歳以上で「活躍」した投手は、昨季は4人しかいかなった。

 ベルドゥーチ記者は、規定投球回数をクリアして、ERA+が100以上を記録した投手を「活躍」したと定義。昨季の場合、ERA+がメジャー1位の220を記録したバーランダー(39歳)と103のアダム・ウェインライト(40歳、セントルイス・カージナルス)の2名が「活躍」の定義をクリアした。

 ERA+とはリーグ平均防御率と自身の防御率を比較して、どれだけ優れているかを表すスタッツ。基本的な計算式は(リーグ平均防御率÷自身の防御率)x100だが、ここに本拠地球場の特性によった修正が加えられる。100がリーグ平均で、数字が大きいほど優秀だと評価される。

 ちなみに昨季のダルビッシュのERA+は、メジャー22位の121で、2020年にはメジャー2位の224という圧巻の数字を残した。

MLBの常識を覆すことを期待されるダルビッシュ

 総額では1億ドルを超えるダルビッシュの大型契約だが、年平均にすると1800万ドル(約24億円)と決して高くはない。

 36歳のダルビッシュに6年契約を提示したパドレスのAJ・プレラーGMは、30代後半のベテラン選手に長期契約を与えるリスクを熟知した上で、「オフのトレーニングやピッチングへの意識を見れば、なぜ彼が球界最高クラスのパフォーマンスを出せるのかが分かる。年齢と共に成績が下降するようなタイプの選手ではなく、息の長い活躍が期待できる」とダルビッシュには球界の常識を覆すようなパフォーマンスを続けることを期待する。

 メジャーでの経験を重ねるにつれて制球力が大きく向上しただけでなく、あらゆる変化球を巧みに操るダルビッシュの投球スタイルは、40歳を過ぎてもメジャーで活躍できる可能性が高い。

 また、ダルビッシュが高いパフォーマンスを発揮する上で、家族の存在はとても大きいが、1年中温暖な気候で、日本人が暮らしやすい街であるサンディエゴでの生活が保証されたことは、精神的に大きな安定をもたらすはずだ。

 心身ともに充実したダルビッシュならば、今回の超異例な長期契約が成功だと証明してくれるだろう。

40代に入ってからも活躍することが期待されるダルビッシュ有(写真:KIYOSHI MIO/USA TODAY Sports)
40代に入ってからも活躍することが期待されるダルビッシュ有(写真:KIYOSHI MIO/USA TODAY Sports)写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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