日本で一番「パスタ」が愛されている街とは?
高崎は自他共に認める「パスタのまち」
古くは中山道の宿場町として栄え、日本一の「だるま」の産地としても知られる群馬県高崎市が、自他共に認める日本一の「パスタのまち」であることをご存知だろうか。高崎市内に入ると街のいたるところにイタリアンレストランがあり、お昼時ともなればその多くの店の前には行列が出来る光景を目にすることだろう。
人口10万人当たりで最もイタリア料理店が多いのはやはり東京都になるが、長年2位に君臨し続けているのは群馬県である(参考資料:NTTタウンページデータベース 2015年3月23日)。群馬県は全国有数の小麦の産地。「おっきりこみ」「水沢うどん」「太田焼きそば」「焼きまんじゅう」など、群馬では古くから小麦粉を使ったいわゆる「粉もの」料理が多く存在する。そんな粉もの文化の一つとして高崎市に定着しているのが「高崎パスタ」なのだ。
今では高崎市も積極的に「パスタのまち高崎」を猛アピール。さらには2009年よりパスタのイベント「キングオブパスタ」が開催され、毎年多くの来場者を集める一大イベントになっている。また、大手旅行会社なども「高崎パスタツアー」などを主催し盛況となっているようだ。しかし、なぜ高崎でパスタが愛されるようになったのだろうか。
すべては一軒のイタリアンから始まった
高崎にパスタが根付いていったのは一軒のイタリアンがきっかけだった。1968(昭和43)年創業と、今年で半世紀を迎える老舗イタリア料理店「シャンゴ」。当時はまだイタリア料理店がなかった高崎で最初のイタリアンとして人気を博した。人気の理由はその圧倒的なボリューム感のあるパスタ。創業者の故関崎省一郎氏は、戦中戦後の食糧難を経験したことから「美味しいものをお腹いっぱい食べて欲しい」という思いで、通常のパスタよりも多めのボリュームで提供したことが高崎市民の胃袋を掴んだのだ。
さらに交通の便がさほど良くはない郊外に駐車場を完備した店を作ることで、車による来店を促したのも功を奏した。車での来店は必然的に家族連れなどを取り込みやすくなる。今でこそファミリーレストランで良く見られる光景だが、開業当時はファミリーレストランのない時代で、いわばその先駆的な営業スタイルだったこともヒットに繋がった。さらに「シャンゴ」で修行をし独立した人たちが高崎市内に相次いで店をオープンしたことで、大盛でボリューム感のある独特な「高崎パスタ」が広まり認知されていったのだ(参考資料:キングオブパスタホームページ)。
基本は大盛、ボリューム満点の高崎パスタ
そんなシャンゴの名物メニューにして、高崎パスタの象徴的存在とも呼べる一品が「シャンゴ風スパゲティ」だ。ボリュームたっぷりのスパゲティの上に大きなトンカツを乗せ、その上からオリジナルの濃厚なミートソースをかけるという代物。そのインパクトあるビジュアルは他の追随を許さない。サイズはSとMが用意されているが、Sサイズですらパスタの量は一般的なパスタの1.5〜2倍というボリューム。しかし甘味のあるオリジナルミートソースとトンカツ、パスタの相性がとても良いので、驚くほどにスルスルと食べられてしまうのだ。
数ある高崎パスタの名店の中からもう一軒。「デルムンド」は「シャンゴ」出身のご夫婦が開いた人気店。こちらも創業して40年以上の老舗だ。シャンゴ譲りの圧倒的なボリュームが特徴だが、その中でも人気の一品がデルムンド名物の「ハンブルジョア」。ハンブルジョアとはハンバーグとブルジョアを組み合わせた造語。シャンゴ同様に大量のパスタの上にどっしりと大きくて重みのある自家製ハンバーグがドンと鎮座する。さらにその上に自家製ミートソースがこれでもかというほどたっぷりとかかる。一度食べたら決して忘れることの出来ない、高崎パスタのマスターピースだ。
誰もがお腹いっぱいになるボリュームで、なおかつ美味しくて安い。高崎が「パスタのまち」を名乗るのは伊達じゃない。唯一の問題点は一軒あたりのボリュームがあまりにも多いので、観光客にとっては食べ歩きがし辛いことだ。このパスタを日常的に食べられる高崎市民が羨ましくて仕方がない。
※写真は筆者の撮影によるものです。