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スーパーファイト決定。ラスベガスに珠玉の夜が待っている

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
マネーかマニーか?世界中が興奮する決戦が実現する

国をあげてのイベント

米国西海岸時間の2月20日午後3時15分、フロイド・メイウェザーがソーシャルメディアを通じて交渉が成立したことを伝え、マニー・パッキアオとのスーパーファイトが締結した。5月2日ラスベガスMGMグランド・ガーデン・アリーナで挙行される一戦はウェルター級3ベルト(WBC、WBA,WBO)が争われる。懸案となっていた米国内のPPV放映権はメイウェザーと契約するショータイム、パッキアオを擁するHBOが共同で制作、放映する運びとなった。報酬の配分は6-4でメイウェザー優位。5,6年に及ぶ紆余曲折、メロドラマのようなストーリーを経たわりには呆気ないほどの終幕だった。

それがメイウェザー流というものなのだ。自ら強欲さを強調するように“マネー”と名乗る男はニュースを発信した直後、ピシャリとライバルへ先制パンチを浴びせた。「試合が決まりパッキアオは願ったり叶ったりだろう。彼はアメリカとフィリピンでタックス(税金)の問題を抱えていた。背中が壁に突き当たっていた(追い詰められていたということか)。彼はビッグマネーが必要なんだ。その点私は今でも引退できる。マイアミからラスベガス、ロサンゼルスと所持している不動産は全部支払い済みだよ」

メイウェザーはパッキアオが最新試合のクリス・アルジェリ戦(昨年11月・マカオ)でマークしたPPV契約数40万件にも言及。自身とオスカー・デラホーヤが07年に樹立した240万件という空前絶後の契約数に比べると、貧弱だと畳み掛ける。もっともアルジェリは役不足な相手で、メイウェザーも最新のマルコス・マイダナ第2戦では90万台に甘んじ、あまり大きな顔はできないはずだが・・・。

そのPPVの単価は100ドルから110ドル(約1万2千円から1万3千円)に落ち着くもよう。これは通常の4割から5割増の値段だ。最近ボクシングのPPV放映は頭打ちで主催者の思惑どおりに数字が伸びないことが多いが、関係者は強気の姿勢を貫く。逆にメイウェザーvsデラホーヤ戦を超えられなかったら“恥”といわれるところがこの対決のすごいところ。メイ-デラ戦で最終的にデラホーヤは日本円で54億円、メイウェザーも40億円近く稼いだと話題になったが、今回PPV購買数が順調に伸びれば、それを大幅に超過する、とてつもない金額が両者の懐に入る。すでに米国内では一般のニュースでも扱われ、超ビッグイベントとして国民の関心を集めている。

ホテル価格は約4倍にアップ

そのバロメーターとなっているのが現地ラスベガスのホテルの価格。試合決定からわずか15分で、5月2日MGMグランドの全室がソールドアウト(完売)になった。ファンが「待ってました」とばかりに予約したのだろう。極上の部屋は3,749ドル(約45万円)といわれるが本当だろうか。発表翌日21日の時点でESPNドットコムが伝えた情報では通常190ドルの土曜日料金が5月2日は705ドル(約8万5千円)に跳ね上がる。ちなみにMGMグランドは部屋数が6,800超とラスベガスではザ・ベネチアンに次ぐ室数を誇る。同ガーデン・アリーナは16,800人のキャパだから、チケットを手にした幸運なファンは、単純に見て残り1万人が他のホテルに宿泊することになる。

ザ・ストリップ通り(ラスベガス・ブルーバード)をはさんでMGMと向かい合うニューヨーク・ニューヨーク・ホテルは通常料金99ドルが土曜日199ドルに上がるが、5月2日は425ドル(約5万円)にアップ。その向かい側のエクスカリバーは土曜日価格159ドルが当日は349ドル(約4万2千円)。ザ・ストリップをやや北へ向かったサーカス・サーカスは土曜日99ドルが199ドル(約2万4千円)と報じられる。試合が近づくにつれ、値段が軒並み上昇するのは必至で予約も困難になるにだろう。いずれにせよ、ラスベガスに莫大な経済効果をもたらすはずだ。

これまでメイウェザー、パッキアオの試合に付き物だったプロモーション・ツアーは、発表が遅れたことで縮小される見込み。ニューヨークとロサンゼルス、あるいはそのどちらかで3月上旬ドカンと盛大に開催される予定だ。現時点でも決戦まで2ヵ月少々しかなく、そうしないとトレーニングに支障をきたすというのが理由。13年のメイウェザーvsサウル“カネロ”アルバレス戦で全米11都市をサーキットしたのとは対照的。大掛かりなツアーを組まなくても2人のネームバリューだけで十分、人気は高揚するに違いない。

ギャンブラーも過熱

ラスベガスといえばギャンブル。試合のスケールに合わせてギャンブラーたちの賭け金も天井知らずの様相を呈すると推測される。MGMの重役によると、「メイウェザーvsマイダナ戦は6ケタの半ば(日本円で5千万から6千万円)が最高だったものが、今度は7ケタ(1億円以上)になるはず。千ドル(約12万円)以下の賭けもマイダナ戦より4倍から5倍の金額を投じる人が多くなるだろう。パッキアオを応援するフィリピン人コミュニティーから大金が動くこともあるかもしれない」との話。試合締結前3-1だった賭け率は若干接近を見せているようだが、メイウェザー優位に変わりない。

ふられたカーンは恨み節

さて関係者や選手は、このボクシング史上最高にリッチでイベント性のある一騎打ちをどう見ているのか。発表直後のコメントを拾ってみよう。

メイウェザーのツイートから3時間後、ESPN2の定期ファイト「フライデー・ナイト・ファイト」の名物解説者でトレーナーのテディ・アトラスはメイウェザーが有利だと主張。「フロイドが面と向かった時、大柄で優位だ。彼は“負け方”を知らない。いつでも自信はとても重要な要素だ。この試合は6年前に実現すべきだった。以来パッキアオは失神ノックアウト負けを食らった。そのトラウマがまだ存在する。フロイドの仕事は幽霊のようにそれを呼び起こすことだ。パッキアオのハートに残像を戻すのだ。ザ・マネーマン(メイウェザー)はディフェンスが秀逸。疲れを知らないアグレッシブなパッキアオにはアドバンテージとなるだろう」

試合が決定し張り切っているのは選手ばかりではない。パッキアオの名参謀で殿堂入りトレーナーのフレディ・ローチは難攻不落のメイウェザーに初黒星をつけると意気込む。「フロイドはAサイド(主役)であることを享受している。5月2日、マニーは脇役。彼もそれを歓迎している。それが我々を奮い立たせる」。普通ならパッキアオが手数でプレスをかけ、メイウェザーが迎え撃つ展開が予想される。もし、その戦法が機能しない場合、どんな作戦変更をパッキアオとローチが実行できるかが勝負のカギのような気がする。

選手ではメイウェザーを追跡するも今回もエスケープされ、ならばとパッキアオ戦へも食指を伸ばしたアミール・カーンが地元英国メディア(メール・オンライン)にスピーク・アウトした。「試合を通じて2つぐらいいいラウンドがあるんじゃないかな。パッキアオはスピードもパワーも兼備しているから序盤、メイウェザーにトラブルを与えるかもしれない。でも次第にメイウェザーが的確なブローでペースを握り、パッキアオにフラストレーションを植え付けるのでは?2人がピークだった4年前に対戦していれば、もっと印象的なファイトになっただろう。ファンが期待する攻防とはならず、後半両者はアウトボクシングを選択し、ダルファイトになる可能性も考えられる。マニーはその気がないだろうが、メイウェザーは凡戦で勝つのが得意だからね」。大魚2匹を逃した恨み節と言ったら、カーンに酷だろうか。

一方メイウェザーの叔父でチーフトレーナーを長年務め、現在もアシスタントコーチのロジャー・メイウェザーは甥っ子がパッキアオを木っ端微塵に粉砕すると説く。以前ラスベガスで私が会った時は、かなりパックマンを警戒する発言をしていただけに意外な印象。ロジャーが知り合いの記者に語ったコメントはきわどい表現でパッキアオを一刀両断している。その根拠はパッキアオがこれまでコット、マルガリート、デラホーヤといった相手と自分に有利な体重設定で戦い、勝利を収めたことを挙げる。さすがに今回その恩恵はない。147ポンド(ウェルター級リミット)なら、ノックアウトで勝てると力説。現在チーフトレーナーのフロイド・メイウェザー父(ロジャーの兄)も息子のKO勝利をを予測する。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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