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OPECプラス会合に不透明感、トランプ大統領の脅しは通じるか?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

原油価格を下支えするためのサウジアラビア、ロシア、米国を中心とした主要産油国の調整が難航している。4月9日に石油輸出国機構(OPEC)プラス会合、10日に20カ国・地域(G20)エネルギー相が開催され、世界経済や金融市場を不安定化させる一因になっている過剰な原油安を是正するための協議が行われる予定になっているが、その直前になっても基本合意に到達できていない。

論点の一つが、OPECプラスの協調減産に対して米国やカナダ、ブラジル、ノルウェーなど、その枠組みに入っていない主要産油国からも協力を得られるかになっている。新型コロナウイルスの影響で原油需要が大きく落ち込む中、減産対応が必要なことは全ての産油国が理解している。一方で、自国の減産に他産油国が「ただ乗り(フリーライド)」して、自国の生産・販売シェアを喪失することに対する警戒感も強く、サウジアラビアとロシアは協調減産再開の条件として、他産油国の協力を掲げている模様だ。

しかし、米政府は反トラスト法の存在を理由に、民間石油会社が原油価格押し上げを目的に協調減産を行うことはできないとしており、未だに合意点を見出すことができていない。カナダやノルウェーなどは協調減産への参加に一定の理解を示しているが、シェールオイル産業を抱える米国抜きで協調減産を合意するのか、それとも協議を破たんさせるのか、延長するのか、難しい判断を迫られている。

米国サイドも何も行動を起こしていない訳ではない。例えば、米エネルギー省(DOE)は、米産油量が一時的に日量200万バレル減少するとの見通しを示している。すなわち、協調減産はできないが、自主的な減産は行われているとのロジックをOPECプラスに提示した格好になっている。ただ、これは需要の減退や原油安でシェールオイル生産が落ち込んでいる結果であり、ロシア大統領府のペスコフ報道官は協調減産と認めることはできないと一蹴している。

トランプ米大統領も、「米石油会社は既に減産している」として、米国のフリーライド論に反発しているが、サウジアラビアやロシアを納得させるだけのロジックを提示できていない。「OPECとロシアが減産しないのであれば多くのオプションがある」と、制裁関税などの脅しで対応しているのみである。

米下院共和党議員団は、サウジアラビアのムハンマド皇太子への書簡で、サウジアラビアが「人為的なエネルギー危機」の終息に向けて行動しなければ、両国の経済的・軍事的な協力が危うくなるとも警告している。あくまでも圧力でこの問題を乗り切ることができると考えている模様だが、サウジアラビア政府は何ら態度表明を行っていない。

イランのザンギャネ石油相は、事前の合意ができていないのであればOPECプラス会合の開催に反対すると発言している。合意形成が進んでいないのであれば、OPECプラス会合の日程を延期する選択肢が望ましいのだろうが、TV会談の形になることもあり、ギリギリのタイミングまで調整が続けられることになる。

今週のNY原油市場では、協調減産合意への期待と警戒とが交錯しており、明確な価格トレンドを打ち出せていない。ただ、9日のOPECプラス会合でどのような結論を示すのかは、原油価格はもちろん、世界経済や金融市場にも大きな影響を及ぼすことになる。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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