見え始めた「攻めの廃線」のほころび 夕張だけじゃない!10月1日道内各地で相次ぐバス路線の廃止・減便
2023年10月1日から北海道内各地でバスドライバー不足などを理由にした路線バスの廃止・減便が実施される。加えて北海道では2019年のJR石勝線夕張支線の「攻めの廃線」以降、鉄道路線の廃止も相次いでおり、鉄道廃止後のバス路線の確保もままならない状態となっていることがどんどん明るみに出てきており、交通崩壊の危機を迎えている。ガソリン価格も高騰を続ける中で、近い将来、北海道での交通手段は自家用車一択となりかねない事態を招いており、道民の生活や経済活動への影響が危惧される。
「攻めの廃線」から4年で交通崩壊危機の夕張市
夕鉄バスは、2023年9月末をもって夕張市内と札幌近郊を除くすべてのバス路線を廃止する。廃止対象となる路線は、新札幌駅前を発着する3路線で、栗山駅前を経由して新夕張駅前に向かう3往復と栗山駅前折り返しの4往復、南清水沢の「りすた」に向かう急行便5往復だ。
夕鉄バスの公式発表によると、バスドライバー不足と利用者の減少が廃止の理由とのことで、10月1日以降は、夕鉄バスは夕張市と市外を結ぶ路線が消滅し、北海道中央バスが運行する高速ゆうばり号3往復のみが夕張市と市外とを結ぶ唯一のバス路線となる。
夕張市は、JR石勝線夕張支線の「攻めの廃線」により夕張市内のバス路線を拡充し、鉄道時代よりも便利になったということがことさらに主張されたが、すでにバスドライバーの高齢化と人手不足の問題を抱えていた夕鉄バスにとっては鉄道路線の廃止によるバス路線の増便は相当な負担になっていたことが推測される。こうしたことから夕鉄バスは、「攻めの廃線」によって増便した夕張市内のバス路線を維持するためのドライバーを確保するために、それ以外の路線を切らざるを得ない状況まで追い込まれていたと考えられる。
なお、夕張市は鉄道の廃止と引き換えに持続可能な交通体系を再構築するための費用としてJR北海道から7億5千万円を受け取っており、その後、南清水沢地区に約10億6000万円の費用を投じて公共交通結節点「りすた」を建設し2020年に開業した。しかし、10月1日以降は「りすた」を発着する札幌方面の路線バスは全廃となり、交通結節点としての役割はわずか3年で終了することになる。
都市間高速バス「高速はこだて号」も便数半減
影響が及ぶのは地方の路線バスだけではない。北海道中央バスなど4社が札幌―函館間で共同運行する都市間高速バス「高速はこだて号」も10月1日以降、1日8往復から4往復に減便され夜行便は廃止される。これまでは北海道中央バス、北都交通、函館バス、道南バスの4社による共同運行が行われてきたが、こちらも各社のドライバー不足が原因で、道南バスは共同運行から撤退する。札幌―函館間については、観光需要が回復してきている中での減便ということで、需要があってもバスの運行自体が難しくなっている現状が垣間見える。
都市間を結ぶバスは、この他にも道北バスの旭川―名寄間を結ぶ路線も10月1日以降、1日12往復から7往復に減便される。道北バスについてはこの他に、旭川駅前から石北本線の愛別駅前を結ぶ愛別線も廃止される。
JR標津線などの鉄道廃止代替バスの廃止も相次ぐ
1989年に廃止されたJR北海道・標津線の廃止代替バスが2023年10月1日に廃止される。今回、廃止となるのは根室交通が運行する厚床駅前―中標津バスターミナル間の約50kmだ。
旧JR標津線は、釧網本線の標茶―根室標津間69.4kmの本線と根室本線の厚床―中標津間47.5の支線から成り立つ路線で、根釧原野の林産資源や鉱産資源の開発を目的に建設され、1937年に全通した。しかし、1980年に成立した国鉄再建法では、第2次特定地方交通線に指定され、国鉄分割民営化後の1989年に全線が廃止。廃止後は、標茶―根室標津間は阿寒バスの標津標茶線に、厚床―中標津間は根室交通の中標津線に引き継がれた。
今回廃止となるのは、旧JR標津線の支線に当たる厚床―中標津間約50kmの路線バスであるが、2025年3月末には、旧JR標津線の本線に当たる標茶―西春別間約20kmの路線バスも廃止となる予定だ。
このほか、JR標津線と同じ1989年に廃止されたJR天北線の廃止代替バスについても10月1日から音威子府―浜頓別間の約60kmが廃止される。
見え始めた「攻めの廃線」のほころび
北海道内の相次ぐバス路線の廃止・減便により「攻めの廃線」のほころびが見え始めている。2023年3月末で廃止された留萌本線ではその翌月に鉄道代替バスとされた沿岸バス留萌旭川線が存廃協議を行っていることを公表。
さらに、廃止の方針を決めた北海道新幹線「並行在来線」の長万部ー小樽間についても、地元バス会社からは「ドライバーも整備士もいないのに鉄道代替バスの引き受けをできるわけがない」という声があがっており、鉄道を廃止した際の代替バスの確保すらままならないことが表面化。交通崩壊の流れが加速している。
(了)