ショック!ノルウェー人が大好きな暖かいウールは、環境に最も悪影響なファッション素材?
長く寒い冬が続く雪国ノルウェー。ぽかぽかと暖かいウール素材の服は、この地では昔から人気がある。
冷気に肺を慣れさせるために、赤ちゃんの頃から外で長時間を過ごすことが推奨されているほど。ウール素材の衣服は、この国の人々にとって欠かせないものだ。
研究者クレップ氏によると、クローゼットにあるウール素材の服の割合が英国では0%に対し、ノルウェーでは60%。
一方、環境問題に熱心とされるノルウェー人は矛盾を抱えている。
1人当たり359着の服を所有
ノルウェーの服の消費傾向について調べたレポートによると、ノルウェー人は1人当たり359着の服をクローゼットに所有しており、そのう5着に1着は、「一度も、もしくはほとんど使用されることがない」という。359着の服には、靴下、下着、民族衣装やウェディングドレスも含まれる。
環境団体「未来は私たちの手に」の代表ヘルムスタ氏は、ノルウェー国営放送局に対して、ノルウェーの衣服の消費量は80万台の車からの排出ガスに比例すると語る。
また、毛皮産業撲滅に対する世論の動きは、年を追うごとに活発化している。だが、今でもノルウェーで販売されている、機能性の高い冬のコートに限って、毛皮がついていることが多い。
ネガティブなイメージがないはずのウールだったが?
その流れのなかで、「ウール」にはネガティブなイメージを持っている人は少ないだろう。ウールに限っては、ノルウェー人はクオリティにこだわるので、長期的に使用できるものを選ぶ。
だが、環境団体「未来は私たちの手に」が5月に発表した結果は、ウールを愛するノルウェー人を仰天させるものだった。どの素材よりも、ウール素材の服が、製造過程で最も多くの二酸化炭素を排出しているというのだ。
同団体による、各素材が使用された1着から排出される二酸化炭素は以下の通り。
- ウール 23,4kg
- アクリル 19.8kg
- ビスコース 16kg
- コットン 14,9kg
- ナイロン 13,3kg
- ポリエステル 11,9kg
- ポリウレタン 11,2kg
- リネン 9kg
「では、どうすればよいのか?」と思うのだが、同団体は、下記を推奨する。
- 新しい服をできるだけ買わない
- 服を無償提供する、交換する、古着を着る
- 服のダメージは裁縫などで手直しする
- できるだけ服を洗濯しない
ノルウェー人以上に服にこだわりが強く、夏は暑い気温で汗をかいた服を頻繁に洗濯したい日本人にとっては、なんだか難しい提案だ。
これには、ファッション研究家などが反対の声をあげている。現地の研究サイトでは、子どもの頃からアウトドアやトレーニングには、ウールは欠かせない存在であり、「国民の健康」の視点を、同団体は忘れていると批判する。
団体のヘルムスタ氏は、草だけを食べるわけではないヒツジ、色を染める過程、羊毛に付着するラノリンという油分を化学薬品で処理する過程など、複数の段階で温室効果ガスがでると指摘。
ウールやコットンのナチュラルな素材は、結果として簡単に、ポリエステルなどよりも化学物質が付着すると指摘する。「“ナチュラル”というものやウールが、ほかの合成素材よりも、環境によいという主張は間違い」だそうだ。
両者の議論は研究サイトでその後も続いている。
ノルウェーの環境団体や「緑の環境党」などの政党は、ファッション業界には恐らくあまり好かれていないだろう。
環境のために、「消費生活をやめ、できるだけ服を買わずに、古着を、服の譲り合いを」という主張が定番だが、このライフスタイルは誰もが好むわけではない。
「未来は私たちの手に」環境団体に、以下の質問をしたところ、同団体ホーコン・リンダル氏からメールで回答をいただいた。
- ウールの購入をできるだけやめようと、人々に訴えているのですか?
「私たちが言いたいことは、3つあります。1点目は、服の消費量は減らされるべきであるということ。これは最も有効な環境対策です。2点目は、服の各素材が、それぞれどのような環境効果を持ってるか、消費者に情報を伝えること。3点目は、できるだけ環境を考慮した服を生産するように、産業界に働きかけることです」。
- 政治家にウールの件で動いてもらいたいと考えていますか?
「政治家ができる最も重要なことは、人々ができるだけ長期的に服を使用しやすい環境を整えることです。例えば、修理された服は税制優遇対象などにするなど」。
- 新しいものを買うよりは、ヴィンテージであれば、毛皮やウールはよいのですか?
「私たちはリサイクルを最も推奨します」。
「最も大事なことは、人々が服を多く買いすぎないこと。それと比較すると、ウールや素材については我々はそこまでこだわっていません。流行に左右されずに、長期的に使える高品質のものを選ぶことが重要です」。
服を買うことが好きな筆者としては、悩んでしまう提案だ。毛皮のように、ウールも大きな社会議論となるだろうか。
北欧の激安ファッション批判ドキュメンタリー、第二弾がスタート。標的はあの大手企業
ノルウェーは「ファッションショー」にこだわる必要があるのか?
ノルウェーファッションの課題 作り手を悩ませる、安全路線思考とEU非加盟国であるが故のデメリット
Photo&Text: Asaki Abumi