うんこ芸術作家と平安の女流作家・紫式部の微妙な関係
昆虫界の「うんこ芸術作家」の筆頭格と言えば、ムラサキシキブ(紫式部)の木にいるイチモンジカメノコハムシだろう。このハムシの幼虫は、ムラサキシキブの葉をもりもり食べて、もりもり糞をし、その糞と自らの脱皮殻で異様な芸術作品を作り上げる。
幼虫は平時には、この作品を背負うような形で身を隠すのだが、その習性を知っている虫好きは、簡単に擬態を見破ってしまう。幼虫は、危険を感じると、この作品を振り上げて威嚇姿勢をとるが、その際には幼虫本体の姿が丸見えになってしまうので、かえって敵に捕食されやすくなるのではないかと心配になる。
振り上げられた作品は、大写しにすると、まるで不動明王の背後で燃え盛る火炎のように見える。どうすれば、自分の糞でこれほど見事な作品を作り上げられるのだろうか。じっくりと時間をかけて観察すれば、その製作過程が分かるのだろうが、残念ながら「貧乏暇なし」の昆虫記者には、そんな時間的余裕はない。暇な人は是非観察してほしいが、それほど暇な人はめったにいない。
ムラサキシキブは、かつてはムラサキシキミと呼ばれたが、紫色の実が美しいので、「源氏物語」で知られる平安時代の女流作家「紫式部」に例えられ、シキミがシキブに変わったという。
美しき女流作家(本当に美人だったどうかは定かでない)の名を冠したムラサキシキブと、うんこ芸術作家が密接な関係になったのは、運命のいたずらだろうか。ムラサキシキブの実を愛でる際には是非、紫式部の美貌を想像しながら、イチモンジカメノコハムシの幼虫の芸術作品を探してほしい。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)