新戦力とのコンビネーションに期待。強豪2カ国相手に菅澤ゴールが生む不敗神話は続くか
【アジア競技大会金メダルの原動力に】
なでしこジャパンに頼もしいストライカーが帰ってきた。4月1日からのヨーロッパ遠征で、日本(FIFAランク7位)はフランス(同4位/4日)、ドイツ(同2位/9日)と対戦する。この遠征に臨むメンバーに、FW菅澤優衣香が選出された。
3月のアメリカ遠征は参加しておらず、代表戦は昨年11月のノルウェー戦以来となる。
菅澤は今回選ばれた6名のFWで唯一、W杯出場経験がある。ケガなどでメンバーを外れた時期もあるが、高倉ジャパンでは常連組の一人で、重要な大会では勝利に貢献してきた。
「代表は、結果がすべてだと思います」
折に触れて、菅澤はそう言ってきた。その言葉には、様々な葛藤を乗り越えてきた重みがある。
昨年4月のW杯アジア予選と8月のアジア競技大会では、主力として2つのタイトルに貢献。特に、アジア競技大会での活躍ぶりは記憶に新しい。日本はアジアの強豪国を相手に1点差の接戦で勝ち抜いたが、菅澤は準決勝の韓国戦(○2-1)と決勝の中国戦(○1-0)で、日本を勝利に導くゴールを決めている。
体格やサッカースタイルが近いアジア各国との戦いは、互いに良さを消し合う試合になることが多い。そんな中で、菅澤の168cmの高さと強さが日本に精度の高いカウンターアタックをもたらし、優勝の原動力になった。
世界に目を転じれば、180cm台の屈強なディフェンダーもいる。そういった選手たちが持つ独特の間合いやリーチを肌で知っているからこそ、武器であるヘディングの質を上げ、シュートエリアを広げるイメージを高めてきた。
「アジアでは通用しても、ヨーロッパやアメリカ相手になると自分の身長(168cm)は小さい方ですから、飛ぶタイミングもうまく変化させていきたいし、ミドルシュートも武器として持ちたいですね」(菅澤)
【国内では安定したパフォーマンス】
国内での実績は申し分ない。特にここ数年は安定した得点力を見せており、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに所属していた2014、15シーズンに2年連続で得点王に輝き、浦和レッズレディースに移籍した17年以降も、得点ランキングは常に3位以内をキープしてきた。
普段は朗(ほが)らかで親しみやすい性格だが、赤いユニフォームを着て浦和のピッチに立つ菅澤は、サバンナのライオンのように、周囲を圧倒するオーラを放つ。
今シーズンはリーグ開幕から3試合にフル出場して2ゴールを決め、得点ランキングでは3位(4月2日現在)に入っている。
昨年の浦和は菅澤をターゲットにしたシンプルな攻撃が多く、そこを抑えられると攻め手を欠く傾向が見られたが、今年は森栄次新監督の下でポゼッションを強化しており、菅澤も周囲との連係の中でプレーしやすそうに見える。
決定的に違うのは、周囲の選手との距離感だ。
「去年は最終ラインとトップの距離感が遠かったんですが、今年はチーム全体で(DF、MF、FWの)3ラインをコンパクトにできていてタイミングを合わせやすく、セカンド(のサポート)もきてくれるのでやりやすさを感じています」(菅澤)
コンパクトな守備や攻守の切り替え、テンポの良いパスワークを大切にしている点では代表と共通点が多く、リーグ戦での好パフォーマンスを代表でも期待したい。
【新たな攻撃のオプションは見られるか】
現在、代表のFWは新戦力が次々に台頭してくる最激戦区だが、新戦力とのコンビネーションは、ヨーロッパ遠征で楽しみなポイントの一つだ。ポストプレーを得意とする菅澤と、FW植木理子、FW宮澤ひなた、FW遠藤純ら、スピードのあるサイドアタッカーとの組み合わせがハマれば魅力的な攻撃につながるだろう。新たな攻撃パターンが生まれれば、従来の4-4-2や4-2-3-1に加えて、4-3-3などのオプションが試される可能性もある。
菅澤は2015年の女子W杯で7試合中3試合に出場し、準優勝の歓喜と悔しさを味わった。グループステージ第2戦のカメルーン戦で、MF宮間あやのクロスをファーサイドから頭で叩き込んだ迫力満点のゴールは忘れられない。
同じ舞台にもう一度立つために、日々研鑽を積んできた。
「まずはメンバーに入ることが目標です。そのためにはケガをしないこと。一つひとつクリアしていって、入ることができたら、チームでW杯優勝することが目標ですね。そのために、自分ができることを精一杯やるだけです」(菅澤)
柔和な表情の瞳の奥に、ストライカーらしい鋭い光が宿っていた。
選ばれれば、自身2度目のW杯を28歳という成熟した年齢で迎えることになる。新たなスタートラインに立つべく、今回の遠征でしっかりとアピールしたいところだ。
最後に、興味深いデータを紹介したい。菅澤が2010年から2018年までに出場した代表戦は60試合。そのうち、菅澤がゴールを決めた14試合(計17ゴール)で、日本は13勝1分と一度も負けていない。不敗神話は継続するか?合わせて注目してみたいと思う。