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英国で世界初のドローン配達、Amazonが実際の動画を公開

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
写真出典:米Amazon.com

米アマゾン・ドットコムは12月14日、ドローン(小型無人機)を使った配送システムの実験の一環として、一部の顧客を対象にした商品配達を開始したと発表した。

数カ月以内に数十世帯に拡大

アマゾンが同日公開したビデオにはその様子が映し出されている。

まず、顧客が自宅でタブレット端末をタップして商品を注文する。するとアマゾンの配送センターでドローンに商品が格納され、その後、台車に乗ったドローンが専用の離陸スペースに移動する。最後にオペレーターがコンピュータ画面をクリックすると、ドローンが飛び立つ。

その後ドローンはGPS(衛星利用測位システム)を使って飛行し、顧客宅の庭にある目印地点に着陸。荷物を下ろして、再び離陸し、配送センターに帰る。

実験が行われたのは12月7日。場所は英国ロンドンから約100キロメートル離れたケンブリッジシャーの町。このビデオはシミュレーションなどではなく、実際に行われた配送オペレーションの場面だとアマゾンは説明している。

米ニューヨーク・タイムズによると、今後はアマゾンのドローン実験施設があるケンブリッジの近くに住む2世帯も対象に加えて実験を行い、それが成功すれば、数カ月以内にも規模を数十世帯に増やす計画という。

米国で立ちはだかる規制の壁

アマゾンが「Prime Air」と呼ぶ、ドローン配送システムの構想を発表したのは今から3年前。その後同社は米国でシステムの開発を行い、商用ドローン屋外テストの許可を米連邦航空局(FAA)に申請したり、飛行区分に関する提言を行ったりしてきた。

だが、今年6月にFAAが発表した商用小型ドローンの運用規則では、飛行が許されるのは操縦者の視界の範囲内に限られ、1人が同時に複数のドローンを操縦することを禁じている。

また飛行時間帯は日の出30分前から日の入り後30分まで。高度は400フィート(約122メートル)以下で、時速は100マイル(約160km)まで。さらに地上にいる、ドローン飛行に直接関係のない人の上を飛ぶことを禁止している。

こうした規制の下では、アマゾンが描く「Prime Air」は実現しない。そこで同社は7月に英国政府と提携。それ以来英国でドローンの飛行実験を行っていた。

アマゾンは英政府との提携により同国で次ぎの3つが可能になった。

(1)農村や郊外における、操縦者の視界を越える範囲の飛行実験

(2)障害物感知・自動回避機能の実験

(3)1人の操縦者が複数のドローンを操縦する実験

一方で英国運輸省民間航空局(Civil Aviation Authority:CAA)は、これらアマゾンの実験結果を今後の規制策定のための情報として利用したい考え。双方は互いの利益が合致するウィンウィンの関係ということのようだ。

配達は30分以内

今回のアマゾンの発表によると、同社は英国で日中の時間帯にドローンを飛行させる許可を得ている。

現在のところ風が弱く、視界が良い日に限られ、雨や雪の日は飛行していないが、今後データを収集し、安全性が確保できれば、飛行条件を緩めるとしている。

Prime Airでは、1回の飛行に積み込める荷物の重さは5ポンド(約2.27キログラム)まで。これを注文から30分以内に配達することを目指している。

米ウォールストリート・ジャーナルによると、アマゾンの広報担当者は、「当社で販売される商品の87%は重さが5ポンド以下で、大きさもドローンで十分運べる小さなものだ」と話している。

JBpress:2016年12月16日号に掲載/原題「アマゾンのドローン実験、ついに顧客に商品配達開始 構想発表から3年、「Prime Air」が実証実験段階」)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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