Yahoo!ニュース

Web会議で離婚⁈離婚調停のオンライン化について弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:イメージマート)

1 離婚調停のオンライン化とは

離婚や相続など家族に関する問題の解決を図る家事調停において、オンラインで手続きを行う「Web会議システム」が、東京、大阪、名古屋、福岡の全国4家庭裁判所で試験的に始まりました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211203/k10013372031000.html

なお、政府は、離婚調停に必要な「意思確認」をweb会議でも可能にする方針を固め、家事事件手続法改正案を3月上旬にも通常国会に提出するとのことです。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220125-OYT1T50286/

2021年の司法統計によると、同年度に全国の家庭裁判所で行われた家事調停は13万件余り

実際に、家庭裁判所の受付は開始時間になると列ができることもありますし、混み合うためなかなか調停期日が入らないということも珍しくありません。

家事調停は、最近特に増えている印象があります。

では、オンライン化で従来の離婚調停はどのように変わるのでしょうか?

私も訴訟ではWeb会議を何度も経験していますし、電話会議で離婚調停を行ったことは数えきれないほどあります。その経験をふまえて、離婚調停のオンライン化について解説します。

2 オンライン化のメリット

従来、離婚調停では、当事者や弁護士が裁判所に出掛けて行き、調停委員と膝をつき合わせて話し合いをしてきました。

写真:イメージマート

しかしながら、昨今のコロナ禍の中では、裁判所はパーテーションの設置や換気等に配慮してくれていると言っても、待合室ではかなり密な状態で長時間待機することもままありました。

この点、オンライン化が進めば、上記のような感染症の拡大リスクはぐっと減るので、当事者の方の安全確保や安心感にもつながります。

最近、事務所で行った電話会議でも部屋には私と依頼者との2人だけで、コロナ禍でも密にならず、安心して調停に臨むことができました。

また、2019年3月には、東京家裁で、離婚調停中だった米国籍の夫が日本人の妻を刃物で殺傷する事件が発生しました。

写真:アフロ

DVが絡んでいるケースは、裁判所も待合室の階を替えるなどの配慮をしてくれますが、裁判所の前で待ち伏せされたり、最寄の駅やロビー、エレベーターで相手に偶然会う危険はないとは言えません。実際に同じエレベーターになって生きた心地がしなかったと言っていた方もいます。

また、調停の前日は心配で夜も眠れないという方もいらっしゃいます。

この点、Web会議になれば、裁判所で接触する可能性はなくなりますので、待ち伏せをされるという不安も払拭されると思います。

調停は、裁判所の調停室で行われますが、ある意味「密室」です。

弁護士を雇わず1人で出席した場合、言いたいことも言えず、雰囲気にのまれてしまったという方も多いです。

この点、Web会議だと密室感や威圧感は軽減されるでしょう。

2回目の電話会議から当事務所に離婚調停をご依頼された方は、1回目に裁判所に行った時は緊張のあまり言いたいことも言えなかったけれど、2回目は電話会議になり、裁判所ではない場所で、直接の対面ではない話し合いだったので、密室感や威圧感は全く感じなかったと仰っていました。

時間や経済面でのメリットも大きいです。

写真:イメージマート

離婚調停は、原則として「相手方の住所地」を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

当事者にとっては遠方の裁判所への出廷は時間的に負担ですし、弁護士をつけた場合は出張費用がかかるなど金銭面での負担もばかになりません。

この点、Web会議では、時間や金銭面の負担は大きく軽減されるでしょう。

ご主人が東京に単身赴任されている依頼者の方で、電話会議だけで、結局は一度も東京の家庭裁判所に行かずに調停が成立した方もおられます。

ただ、上記のようなメリットがあると期待されている反面、Web会議にはデメリットもあります。

3 オンライン化のデメリット

まず、問題視されているのが、本人ではない第三者によるなりすましや、弁護士ではない第三者の同席、録音や録画による情報漏洩の危険(SNSにアップするなど)があるということです。

写真:アフロ

自宅でリモート会議に参加されたことがある方ならおわかりになると思いますが、Web会議では、本人確認や本人以外の第三者が同席していないかどうかの確認には限界があると言わざるを得ません。

また、調停で話し合った内容についてもこっそりと録音や録画をされていれば、常に漏洩の危険があります。

離婚調停では感情的な争いになることも多く、相手が腹立ちまぎれにネットにアップするといったことも起こりかねません。

IT弱者や貧困層にはどう対応するのかと言った問題もあります。

調停は費用が安く、誰でも利用できることがメリットでしたが、Web会議になると 少なくとも通信機器を確保する必要があります。

インターネット環境を確保できない人はWeb会議を利用できないのです。

実際に離婚問題を解決するにあたり、当事者が裁判所にわざわざ出廷することで解決できているという側面があります。

写真:イメージマート

私も何度も経験していますが、裁判所の厳粛な雰囲気の中、裁判官や調停委員に直接説得されて、解決に同意したというケースは多いものです。

もう裁判所には行きたくないとか、何度も調停室と待合室を往復して疲れた、今日で終わりにしたいという心理も働きます。

実際に調停委員の方の中には、直接会って話をしないと人となりがわからないという方もいらっしゃいました。

Web会議になると、上記のメリットが失われてしまうかもしれません。

4 今後の展望について

離婚調停におけるweb会議は、時代の流れから避けられませんし、自宅で参加できるとなると、一般の方が調停を利用しやすくなることは明らかです。

現在、一部で試験的に行われているWeb会議によって、デメリットに対して対策や改善が加えられるでしょう。

何と言っても、Web会議は時間的にも経済的にも節約になりますし、離婚という感情的にこじれがちな場面において当事者の安全を図ることができます。

離婚調停が一般的に浸透し、裁判所に対するハードルが低くなり、より一層使いやすい制度になることを期待します。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

後藤千絵の最近の記事