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戦場にかける橋の舞台タイ・カンチャナブリーのクウェー川鉄橋へ!タイ国鉄で泰緬鉄道を走る

タイ旅行ライター吉田彩緒莉タイ大好きトラベルライター
写真手前が当時のままのクウェー川鉄橋。現役で鉄道が走っている

今年も8月15日がやってくる。日本人にとって、決して忘れてはならない日、終戦の日(終戦記念日)だ。
私はつい先日、数えきれないタイ旅行の中でも最も印象的な旅をすることができた。それが映画『戦場にかける橋』で世界的に知られたクウェー川鉄橋と、泰緬鉄道(たいめんてつどう)を走るタイ国鉄での旅だ。
この橋や鉄道は、旧日本軍が第二次世界大戦中に建設。今も日本から離れた異国の地で、現役で使われており、タイの地方都市の観光資源であり、そして地元の人の足として活躍している。

戦場にかける橋「クウェー川鉄橋」とは

日本はタイと第二次世界大戦中「日本国タイ国間同盟条約」を結んでいた。
かつてはタイに日本軍が駐留していた時代があり、同盟国だったのだ。タイ国鉄が運航する泰緬鉄道とその一部、クウェー川鉄橋は、今もその名残を残している。
泰緬鉄道とクウェー川鉄橋は旧日本軍がビルマ(現在のミャンマ―)攻略、イギリス植民地支配下のインド独立運動を支援する「インパール作戦」などのため、ビルマ方面への軍需物資の輸送を目的に作られた。

死の鉄道

泰緬鉄道の建設には多くの連合国軍捕虜、現地の労務者が動員され、多くの犠牲を出しており「死の鉄道」と呼ばれていた。通常の行程では5年かかると言われていた鉄道工事を、旧日本軍はスピード重視でたった1年4か月の突貫工事で完成させた。それはかなり無理のある労働を強いたことを意味する。
クウェー川鉄橋に近いカンチャナブリーの中心部には、多くの慰霊碑や墓地が並び、親族の慰霊に訪れる方もいる。

空爆があったことを示すオブジェの前を歩く観光客
空爆があったことを示すオブジェの前を歩く観光客

クウェー川鉄橋は第二次世界大戦も終わりに差し掛かる1945年4月、6月、空爆で損傷。日本の戦後賠償により破壊された部分が再建されたが、それ以外の場所は未だに建設当時そのままで、爆撃を受けても80年以上利用されているのだから、ある意味、本当によくできた鉄橋だと言わざるを得ない。

ちなみに泰緬鉄道はミャンマー側の鉄道は撤去されており、鉄道は途中で終っている。しかしタイ側は補修され、タイ国鉄が泰緬鉄道をそのまま利用。観光資源の一つとなっている。

祖父が見たかった景色が見たい

タイに70回近く通っている私だが、気後れして訪ねられない場所がクウェー川鉄橋だった。しかし一度は訪れなければならないと思い続けていた場所でもある。

個人的な事情だが、戦病死した祖父は旧日本軍の技師で、戦闘には出ないものの、基地の一部や軍に関わる建造物を設計していた。タイへの取材や旅行を重ねるにつれ、この橋の存在を知り「部隊は違うものの、同じく旧日本軍の技師が設計したであろうクウェー川鉄橋は、当時の祖父が興味を持っていたのではないか」と考えるようになっていた。
ただ、多くの犠牲を出した場所だから、そんなことを考えるのは不謹慎だと思ったこともある。しかし今はタイの観光資源となり地元に役立っていると言うこと、慰霊の気持ちでその場所を「訪れたい」と願うのであれば、許してもらえるような気がしていた。

その願いが叶ったのは、タイの国鉄をこよなく愛する、同じタイ好きの友人の「カンチャナブリーに行く?」という誘いの言葉からだった。

泰緬鉄道への旅のスタートはトンブリー駅(Thon Buri)

タイ・カンチャナブリーへ「戦場にかける橋」を見に行くツアーは、様々な旅行会社から数えきれないほど出ている。しかし、やはり自力で行ってみたいもの。友人とはバンコクのトンブリー駅(Thon Buri)で待ち合わせた。

駅のホームは犬も入りたい放題だ
駅のホームは犬も入りたい放題だ

泰緬鉄道の中でもクウェー川鉄橋と共に有名なスポットである「タムクラセー桟道橋」(アルヒル桟道橋)をタイ国鉄で通るには、カンチャナブリー駅(Kanchanaburi)で降りるのではなく、カンチャナブリー駅からさらにミャンマー方面に向かうNAMTOK駅(ナムトック駅)を目指す必要がある。総乗車時間片道4時間30分~5時間(途中のカンチャナブリー駅で予想以上に長く停車したため結局5時間以上かかった)の旅だ。

ちなみに観光客はチケットは100バーツ。タイ人はかなり安いらしいし、国鉄無料の日、なんていう催しもあるのだとか。国鉄=税金なので文句はない。
時刻表を見ると予想ができるのだが、午前と午後に1本ずつ。それ以外にこの駅からのこの路線の列車はない。
明るいうちにクウェー川鉄橋を渡り、タムクラセー桟道橋のスリルを楽しむのなら、朝7時45分の電車しかないし、やろうと思えば日帰りで往復できる。しかし1日10時間各駅停車の列車に乗り続けるのは、よほどの鉄道好きでなければ厳しい。最低でも1泊2日の旅をおすすめする。

世界の車窓からそのもの。タイ国鉄の旅はお勧め

タイ国鉄内は、まるで『世界の車窓から』そのもの。あのテーマ曲が頭の中に流れてきて仕方がない。

リアル世界の車窓からの光景が広がる
リアル世界の車窓からの光景が広がる

あまりにもタイ国鉄5時間の旅が、思い出深く、楽しく、近くのタイ人家族たちとの交流が、マンガのようだったため、別の機会に紹介する予定だ。今回の記事はあくまでも、クウェー川鉄橋がメイン。

泰緬鉄道はとても長い鉄道だった

巨大な仏塔で知られるナコンパトム駅を過ぎて、しばらくいくと、Nong Pla Duk Junctionという小さな駅があり、そこから旧日本軍が作った80年前以上の歴史がある泰緬鉄道に入っていく。

戦争の悲しみを見守って来た戦場にかける橋を歩いて渡る

カンチャナブリー駅で20分ほど停車。第2のカオサンと言われるようなゲストハウスの並ぶお洒落な通りがあり、連合軍捕虜の墓地もある。カンチャナブリー駅では年齢に関係なく多くの欧米人が列車を降りた。
カンチャナブリー駅を出発した電車は、スピードを上げずゆっくりと次の駅「サパンクエーヤイ駅(Saphan Kwae Yai)」に停車。
この駅が「戦場にかける橋」ことクウェー川鉄橋を間近に見ることができる駅だ。

サパンクエーヤイ駅での下車は行きか帰りか旅のプランで決めること

驚くほど長い1日2本のナムトック駅行きの列車
驚くほど長い1日2本のナムトック駅行きの列車

これから先にあるリゾートホテルの多いサイヨ―クや、NAMTOK駅方面で泊まるなら、トンブリー駅朝発のこの下り列車ではサパンクエーヤイ駅で降りてはいけない。次の下り列車は16時頃まで来ないし、NAMTOK駅に着くのは18時をまわる。タムクラセー桟道橋方面からバンコクを目指す上り列車の場合は、サパンクエーヤイ駅で降りるとその日のうちに鉄道でバンコクには帰れない。ただ、バスターミナルまで行けば、バスでもバンコクには帰れるので、あなたの旅の計画に合わせて行きに下車するか、帰りに下車するか、決めておこう。
カンチャナブリーでは土日限定の水上マーケットもあるから、週末ならカンチャナブリー駅付近のホテルに泊まるのもありだ。

線路を歩いても怒られない!

日本では考えられない光景
日本では考えられない光景

駅のホームが低くて驚く人も多いだろう。何とタイは国鉄の線路の上を誰が歩いても違法ではない。映画『スタンド・バイ・ミー』のように、線路の上を歩けてしまう。そして爆弾のオブジェは、過去に実際に連合軍がこの橋を破壊するために爆撃した位置でもある。そのため、駅から見て手前の橋は、日本の戦後補償により再建された部分だ。

線路の上を歩けるなんて日本では考えられない使われ方
線路の上を歩けるなんて日本では考えられない使われ方

橋の上部構造がまっすぐな部分が再建された橋の部分。

ここに再建した企業名も刻まれている。

爆撃にも負けず、80年以上現役の当時のままの「戦場にかける橋」

ここから先は、橋の上部構造がアーチ型になっている。この部分こそ、2度の爆撃を受けてもびくともしなかった、当時のままのクウェー川鉄橋だ。

2度の爆撃を受けてもびくともしないクウェー川鉄橋
2度の爆撃を受けてもびくともしないクウェー川鉄橋

ただただ、目を見張った。何と強く、何と堂々とした、そして不思議な美しさを感じさせる橋なのだろう。重い鉄橋の部品を何人もの人が命を削るような苦しみの中組み立てたに違いない。訪れた日は40度を超える暑さで、熱風が肺に入り、内臓まで焼けてしまいそうな天候だった。きっと同じような日もあったことだろう。どんな思いで作り上げたのだろう。複雑な思いが交差する。

平和を願ってのことだろうか。汚れた縫いぐるみがポツンと置き去りに。無邪気な表情が不思議でここだけが異空間のようだ。

泰緬鉄道を列車に乗って「戦場にかける橋」を渡る

ここまで来てクウェー川鉄橋を徒歩で渡り、バンコクに戻ることもできるが、それだとかなりもったいない。別の記事で紹介するが、この橋の向こうにはまだタムクラセー桟道橋を走るスリルや、タイ人に人気の滝、川に浮かぶホテルが人気のクウェー川上流など秘境感と冒険感がいっぱいのエリア。

せっかくならネイチャーリゾートに泊まって、1泊2日の旅が良い。
その場合は、バンコクからの下り列車(つまり行き)でサパンクエーヤイ駅で降りず、そのまま列車に乗っていよう。また、バンコクへの上り列車(つまり帰り)でサパンクエーヤイ駅で降りる場合、橋の上を列車で渡ってからサパンクエーヤイ駅に到着するので、私は断然帰りにこの駅で降りることを推薦したい。その後はバスターミナルに行き、バスでバンコク南バスターミナルに戻れば、鉄道より早くバンコクに戻れる。

ギリギリすれすれで列車を待つ人たち!

列車でクウェー川鉄橋を渡ると、待避所で列車を間近で見ようと、観光客が待ちわびている。
日本でこんなことをしたら、数時間以上、電車のダイヤが乱れるだろう。しかしクウェー川鉄橋では普通のことらしい。ただ、列車通過中の事故はタイ政府は一切責任を取らないと明記してある。ここで待つ人々は自己責任だ。

列車通過中の事故はタイ政府は一切責任を取らないと明記してある。接触しないよう十分気を付けて
列車通過中の事故はタイ政府は一切責任を取らないと明記してある。接触しないよう十分気を付けて

戦場にかける橋は「世界中の人が手を振り合う橋」になっていた

反対側の車窓には、老舗の水上レストランがある。クウェー川鉄橋を1日2回しか走らないタイ国鉄の雄姿を一目見ようと待ち構えている人たちが、写真を撮ったり、笑顔で手を振ってくれる。

このレストランにいる人は、行きも帰りも欧米人が多かった。連合軍捕虜の親族慰霊の旅なのかもしれない。年齢層の高いグループとも目が合ったが、やはり飛び切りの笑顔で手を振ってくれる。

老舗の水上レストラン
老舗の水上レストラン

約80年前と同じ場所なのに、こんなにも異なる光景がある。本当に不思議な場所だ。この光景を亡くなった方たちも見ているかもしれない。
戦争の勝ち負けや第二次世界大戦の真実と虚偽の境目、多くの国と人との間で意見が分かれるそれらを除いて、この地がどの国の人も笑顔で手を振ってくれる場所になったことを安堵しつつ見守ってくれている人々もいるのではないだろうか。

泰緬鉄道の旅はクウェー川鉄橋以外にも見どころがたくさんある。戦争で亡くなった方々を偲ぶ場所でありつつも、カンチャナブリー県は自然を満喫するために、多くのタイ人や外国人観光客が訪れるネイチャーリゾートの顔も持っている。
現在は旅行者の笑顔を多数乗せて走る、現役で使われている旧日本軍の戦争遺構があることを、ぜひ知っていただきたい。タイのこの地のために役に立っていることで、少なからず「良かった」と思えるはずだ。
泰緬鉄道最大の見どころ「アルヒル(タムクラセー桟道橋)」や、泰緬鉄道の今の終点の駅については、こちらの記事に詳しく紹介している。合わせて読んでいただきたい。

カンチャナブリー方面へのタイ国鉄の旅・注意事項

最後にタイ国鉄の旅で絶対に注意しておきたいことを書き留めておく。

エアコンがないので酷暑は避けよう

トンブリー駅からカンチャナブリー駅を通り、ナムトック駅まで行く列車にはエアコン付きの車両がなかった。タイが最も暑くなる3月後半から5月中旬はおすすめしない。私は4月末に乗って、上りの列車で熱中症になりかけた。

扇風機の風があたる、窓が全開になる席を取ろう

GWなどの都合上、どうしても酷暑に鉄道の旅をする人もいると思う。その場合、早めに車両に乗り、窓が全開で開けられるボックス席進行方向の窓側をキープ(窓が壊れて開かない場合も多い。進行方向なら風が入りやすい)。扇風機の風が確実にあたる席を確保すべき。

トイレはタイ式、紙ナシ

トイレは意外にも清掃が行き届いているものの、タイ式(日本の和式に近い)、紙ナシ。所謂ボットン式で停車中に行くのは極力避けた方が良いだろう。まあ、走っていても同じだが気持ちの問題で。
クウェー川鉄橋を歩く場合、当然線路付近は歩かない方が良い。とんでもない落し物がある場合もなくはないのだ!

日程が短い場合は日帰りツアーもたくさんある

「タイの鉄道の旅って旅情があるから試してみたいけど、時間がないなあ」という人は多い。その場合、観光列車を使ったツアーや、片道バスなど様々なツアーもある。自力で列車で行くのが一番楽しいが、時間と体力が必要なので、無理は禁物だ。

慰霊の気持ちを忘れずに

この路線は観光列車となっているが、クウェー川鉄橋付近には連合軍捕虜の墓地や、泰緬鉄道の歴史博物館が多い。観光客同士で笑顔で手を振り合える場所に変わってはいるものの、日本人はここではアウェイ感は否めない。特に欧米人の方などは、例え笑顔であっても親族の慰霊に訪れている人もいる。
鉄道に乗っている間は、旅行者として普通に楽しんでもいいが、クウェー川鉄橋で下車する場合、無駄にはしゃぎすぎることは控えよう。
とはいえ必要以上にしんみりすることはない。慰霊の気持ちを忘れずに、常識ある行動さえ取っていれば、旅人同士の笑顔の挨拶も一層暖かく感じられるはずだ。

クウェー川鉄橋
所在地:Maenam Khwae Road Tha Makham Mueang Kanchanaburi Kanchanaburi 71000
アクセス:バンコクトンブリー駅から国鉄で「サパンクエーヤイ駅(Saphan Kwae Yai)」へ(カンチャナブリー駅での一時停車入れて約3時間~3時間30分)。またはバンコク南バスターミナルからカンチャナブリーバスターミナルまで3時間

タイ大好きトラベルライター

タイ旅行・タイエンタメ関連ライター。25年前タイにはまり「住んだら飽きるかも?」と1年住んで、ますますハマってしまいタイ大好き病が悪化。タイ関連記事は旅行、映画、ホテル、タイ芸能人・文化人インタビューなど多媒体&多岐に渡る。個性あるタイのホテルが大好きで泊まり歩く日々。特に好きな都市はチェンマイ、チェンライ、カオラック、バンコク、ホアヒン。ライター・編集者歴30年。大手音楽事務所宣伝部を経て某バンドの会報ディレクション、映画情報誌・旅行誌・インバウンドサイト・旅行サイトなど多くの編集部で執筆・編集を行ってきたライター・編集ひと筋のヒト。

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