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外国人の子どもの高校進学率60%に留まる事態も-格差是正願い、支援者らが入試制度調査

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
外国人の子ども達の高校進学を支援するメリットは、地域に還元される可能性が高い(写真:アフロ)

住んでいる場所で、高校進学できるかどうか、の分かれ目が・・・

日本人の子どもの高校進学率が毎年100%に近い現在において、国内に暮らす外国人の子どもの高校進学率は、場合によっては60%前後に留まるような状況が続いており、国の有識者会議などでも課題の一つとして挙げられています。

外国人の子どもや中国帰国生徒等が日本国内の公立高校への進学を希望する場合、利用可能な制度は2種類あります。

特定の高校に外国人などを対象とした「特別入学枠」を設け、推薦入試のように面接や作文などで学力検査を行う制度の他、一般入試を受ける際に、試験問題へのルビ振りや、試験時間の延長など「入試特別措置」として配慮を受ける事のできる制度です。

これらの制度は都道府県や政令指定都市がそれぞれに定めていますが、ある地域では、日本での在住期間が7年以下の外国籍の子どもであれば利用できるこれらの制度が、他の地域では来日後3年未満が条件となっていたり、あるいは、このような特別な措置自体を設けていない地域もあるなど、バラつきが目立ちます。

全国の支援者・研究者らが、各地の外国人利用可能な特別入試制度を調査・とりまとめ

こうした現状を少しでも改善することができるよう、支援者や当事者(およびその保護者)、行政が参考にできる情報源として、この外国人特別入試制度に関する都道府県間の違いが一覧にまとめられ、公開されました。

ウェブサイトに、調査の結果が一覧でまとめられている
ウェブサイトに、調査の結果が一覧でまとめられている

(画像出典元:「 同声・同気 :《 旧 》中国帰国者定着促進センター」 高校入試特別措置調査ページ

この一覧を作成したのは、「外国人生徒・中国帰国生徒等の高校入試を応援する有志の会」で、今年度は全国各地で外国人や外国にルーツを持つ子どもを支援する団体や研究者などが、都道府県と政令指定都市ごとに担当を分担し、それぞれの教育委員会へ問い合わせた情報を元に集約されました。

現在、各都道府県教育委員会による外国籍の高校進学希望者を対象とした特別入試制度の有無や内容については各都道府県ホームページなどにも記載されていますが、有志の会では、「各地の事情を知る支援者の方などが直接教育委員会へ問い合わせをすることで、高校入学後に外国籍や日本語がまだ上手でない生徒に対しどのような支援があるかなど、より詳細な情報を手に入れることができるようになった」と言います。

ウェブサイト上では、一覧にまとめられた表の地域名をクリックする事で、より詳細な情報を確認する事ができます。リンクは、一覧表ページに飛びます

特別入試制度もたない自治体も―地域格差はっきり

有志の会世話人でまとめ係を務めた、愛知淑徳大学の小島祥美文学部教育学科准教授の分析によると、調査対象となった47都道府県および政令指定都市、合計60地域の内、外国人の生徒と中国帰国生徒等に対する、特別入学枠と入試特別措置の制度を全日制・定時制すべてに備えていた地域は神奈川県や山梨県、鹿児島県などの6地域に留まった一方で、いずれの制度も設けていない地域が3地域あることがわかりました。(小島氏が取りまとめた「2016年調査の概要」書は同サイト内にも掲載)

分析を行った小島准教授は、

「2010年度からいわゆる高校無償化制度(高等学校等就学支援金制度)が開始したことからも、日本社会では「高卒」が必須になっていると考えられます。このようななかで、都道府県や政令都市などの自治体によって、外国人生徒の公立高校入試にかかわる受験方法や入学枠の扱いが異なることは、たいへんおかしいことです。

そもそもの「受験資格」も、自治体によって異なるという実態は、直ぐにでも見直すべきです。」(小島氏によるコメント)

と述べ、さらに、

「加えて、日本語指導が必要な外国人生徒は日本人生徒と異なる試験方法で入学しているにもかかわらず、入学後は日本人生徒と同様に扱われ、入学試験にふさわしい対応を行っていない自治体もあります。このような自治体間の格差は、外国人生徒のその後の進路や進学に大きく影響するため、改善を強く求めます。」

と、高校入学後の支援を含めた、自治体間格差是正の重要性を指摘しています。

外国人の子どもに対する高校入試特別措置はなぜ必要なのか

今、全国の公立小・中・高校などの学校には、日本語がわからない子どもが37,000人在籍しています。

こうした子ども達が、日本語の日常会話がスムーズにできるまでに1年~2年近くの時間が必要だと言われおり、また、学校の勉強についていく日本語の力を身につけるためには、さらに5年以上の年月が必要とされています。

たとえば中学1年生の時に来日した子どもの場合でも、中学3年生までの間に日本語ネイティブの受験生と同じ問題を日本語で理解して答えることは困難で、いくら出身国で優秀な成績を修めてきた子どもであっても、制度上の配慮がなければ、本来のその子の能力に見合う高校への進学が難しくなってしまうのです。

また、出身国で義務教育相当の9年間の教育を終えて来日した15才以上の子ども・若者の場合、高校進学を目的として公的な日本語支援を受けることができず、また、ボランティア等による支援も限定的であるため、特別入学枠で英語や母語で試験を受けることができたり、一般入試を受ける際のルビ振りなど、特別な配慮がない状況では、ほぼ高校進学への道は閉ざされてしまうことになります。

高校進学を支援する現場で、入試に備えて学ぶ外国ルーツの子ども達
高校進学を支援する現場で、入試に備えて学ぶ外国ルーツの子ども達

特別措置は、グローカル人材の卵を育てる制度に

大学レベルで日本にやってくる留学生とは異なり、義務教育年齢または高校への進学を希望する年齢でやってくる外国人の子ども・若者らは、その保護者や家族が日本国内で生活基盤を築いているため、家族が暮らしている地域を「日本の地元」として暮らし、教育を終えた後も引き続きその地域へ定着する傾向にあります。

また、幼少期を超えて来日した外国人の子ども・若者の多くは母語がある程度確立され、さらに一定程度の教育を修了した段階で来日するため、日本国内で高校に進学し、教育がある程度継続されれば、比較的短期間の内に、バイリンガル・バイカルチャーとして海外と日本とをつなぐことのできるポテンシャルを有しています。

今後、外国人観光客の増加や外国人生活者の受入れへの対応という点からも、外国人の子ども達に対する高校入試段階での特別な制度を設ける事や、進学後のサポート体制を整備する事のメリットは国内の、その地域に還元される可能性が高く、「グローカル人材」育成のひとつとして、自治体が積極的に推進していける戦略の一つでもあります。

最後に、この制度が見落としていること

こうした自治体における高校入試の際の特別な制度は、原則として「外国籍の子ども」を対象としていますが、国際化が進んだ現在では、日本国籍を持つ外国にルーツを持つ子どもたちが増加しており、こうした子ども達が既存の、いわゆる「帰国子女」を対象とした入試制度に該当しないケースも少なくありません。

これまでのように「外国籍の子ども」のための特別な配慮ではなく、言語状況や生育暦など、国籍を問わず、多様なバックグラウンドを持つ子どものための枠組みとして、改正や拡充を進めることで、多様性を力に変える新しい時代にふさわしい制度になればと期待しています。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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