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「267億円の男」ネイマールの移籍で弾けたバブル。冬の移籍市場閉鎖と「消極的なマーケットの情況」

森田泰史スポーツライター
パリSGでプレーするネイマール(写真:ロイター/アフロ)

2021年の冬の移籍市場が閉鎖しようとしている。

日本では、久保建英の移籍が話題を呼んだ。ビジャレアルへのレンタル期間が1年から半年に短縮され、久保は今季終了時までのレンタルで新天地ヘタフェに向かった。

リーガエスパニョーラおいては、アレッハンドロ・ゴメス(セビージャ)、カルロス・フェルナンデス(レアル・ソシエダ)の移籍がトピックスになった。また、ルカ・ヨヴィッチ(フランクフルト)、マルティン・ウーデゴール(アーセナル)が出場機会を求めて国外挑戦に出た。

「あの」移籍から、およそ3年半が経過した。状況はすっかり変わってしまったようだ。

ヘタフェに移籍した久保
ヘタフェに移籍した久保写真:なかしまだいすけ/アフロ

そう、それは歴史に残る大型移籍だった。

2017年の7月22日のスペイン『スポルト』紙で、その移籍は大々的に報じられている。「史上最大の移籍になる」と銘打たれた表紙を飾ったのは、ネイマール・ジュニオールである。

そして、移籍は成立した。2億2200万ユーロ(約267億円)の契約解除金がパリ・サンジェルマン側から支払われ、ネイマールはバルセロナを去っていった。

ネイマールのお披露目にて
ネイマールのお披露目にて写真:ロイター/アフロ

ネイマールの移籍で、端的にいえば市場は「壊れて」しまった。キリアン・ムバッペ(移籍金1億8000万ユーロ/約216億円)、ウスマン・デンベレ(1億500万ユーロ/約126億円)、フィリペ・コウチーニョ(1億2000万ユーロ/約144億円)、クリスティアーノ・ロナウド(1億ユーロ/約120億円)、エデン・アザール(1億ユーロ/約120億円)、ジョアン・フェリックス(1億2700万ユーロ/約152億円)、アントワーヌ・グリーズマン(契約解除金1億2000万ユーロ/約144億円)と次々にビッグディールが実現した。

ネイマールの移籍前、1億ユーロ以上の移籍金で移籍したのはガレス・ベイルとポール・ポグバの2選手だけだった。2013年夏、レアル・マドリーが移籍金1億ユーロ(約120億円)をトッテナムに支払い、ベイルを獲得。2016年夏には、マンチェスター・ユナイテッドがポグバ獲得に際してユヴェントスに移籍金1億500万ユーロ(約126億円)を支払っている。

筆者作成
筆者作成

■弾けたバブル

「一人の選手獲得に1億ユーロをつぎ込むなんて、誰も想像していなかった。私とて、同じだよ」とはアトレティコ・マドリーのエンリケ・セレソ会長の弁だ。

「だが状況は変化する。以前であれば、我々の収益は5000万ユーロ(約60億円)だった。それが、いまや4億ユーロ(約480億円)だ。その違いが、我々に1億2700万ユーロ(約152億円)の補強を行うリスクを許容させた」

「2年前だったら、我々がジョアン・フェリックス獲得に1億ユーロ(約120億円)以上を投じると言ったら、鼻で笑われただろう。確かにリスクはある。だが20歳を迎えたばかりの選手だ。若ければ若いほど、後々、調整できる可能性がある」

「現在、フェルナンド・トーレスのような選手をカンテラから発掘するのは非常に難しい。メッシやクリスティアーノのような選手も見つからないだろう」

2010年のFIFAバロンドール授賞式
2010年のFIFAバロンドール授賞式写真:ロイター/アフロ

2010年のバロンドール(当時FIFAバロンドール)の授賞式を思い起こしてみる。

リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデス。最終候補に残った3選手だ。最終的には、メッシが受賞を果たしたが、重要なのはそこではない。

メッシ、イニエスタ、シャビは、いずれもバルセロナのカンテラ出身選手だった。バルセロナからすれば、移籍金ゼロでバロンドール候補になるような選手を獲得したようなものである。現在のマーケットの状況で、この3選手のいずれかを獲得しようとしたとすれば、1億ユーロ(約120億円)では済まないだろう。

「ベストはメッシだ。だがイニエスタやシャビが受賞してもおかしくはない。選ぶのは私ではないので、そういう意味では幸運だと思う。ただ、誰が受賞したとしても、チームメートは自分のことのように喜ぶはずだ。バルサはすべての人を向上させるという私の理念を強化してくれる出来事だ」

「ただ、この選手たちは最高の世代だろう。こういったことは繰り返されない。これはバルセロナの成功であり、スペインの成功だ。スペインのフットボール界は誇るべきだ。シャビとイニエスタは当然ながら、メッシもここで選手として形成されたんだ」

バロンドール授賞式前のジョゼップ・グアルディオラ監督の言葉だ。希代の指揮官は実感し、予期していたのかも知れない。カンテラから逸材を発掘する難しさと、その後のバルセロナの苦しみを。

アトレティコが獲得したジョアン・フェリックス
アトレティコが獲得したジョアン・フェリックス写真:ロイター/アフロ

2020年夏の移籍市場で一人の選手に1億ユーロ以上が投じられることはなかった。チェルシーの大型補強が話題を呼んだが、カイ・ハーバーツの獲得資金は8000万ユーロ(約96億円)だった。

ネイマールの移籍で弾けたバブルは、パンデミックの影響で終息の時を迎えようとしている。この数年が異常だったわけで、その間に移籍したビッグプレーヤーと将来有望な選手は多大な重圧という十字架を背負う羽目になった。

いま、それはなくなろうとしている。フットボール界のニューノーマルに、選手も、クラブも、適応しなければならない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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