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ウクライナ戦「最後の攻防」 ウクライナ国防相は韓国へ、ロシア国防相は北朝鮮へ

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹大統領とゼレンスキー大統領(左)金総書記とプーチン大統領(大統領室と労働新聞)

 ウクライナに占拠されたクルスク州の一部地域の奪還を目指しているロシアのアンドレイ・ベロウソフ国防相が11月29日にロシア連邦軍事代表団を率いて北朝鮮を公式訪問した。電撃訪問だった。

 首脳クラスの公式訪問の場合、北朝鮮は必ず直前に予告する。例えば、昨年7月のショイグ前国防相の訪朝(25-27日)時には直前に朝鮮中央通信が「我が国の国防省の招請でショルグ国防相同志が率いるロシア連邦軍事代表団が祖国解放戦争勝利70周年に際して祝賀訪問する」と伝えていた。

 ラブロフ外相が昨年10月19日に訪朝した際も3日前(16日)に朝鮮中央通信を通じて「我が国の外務省の招請でラブロフ外相が10月18-19日まで我が国を公式訪問する」と予告していた。

 今朝の北朝鮮の報道によると、ベロウソフ国防相は昨日(30日)帰国した。ラブロフ外相と全く同じ日程の1泊2日だった。ちなみにショイグ前国防相の2泊3日の訪朝と比べると、滞在日が1日短い。のんびりできない事情でもあるのだろう。

 ショイグ前国防相は滞在期間中に金正恩(キム・ジョンウン)総書記に招かれ武装装備展示会場を訪れ、北朝鮮が開発したミサイルなど新型兵器を見て回った。今回、ベロウソフ国防相が1泊2日の滞在中に武装装備展示会を見て回ったとの報道は今のところない。

 今年の武力装備展示会(「国防発展―2024」)は金総書記が参席し、11月21日に開幕していた。ベロウソフ国防相の訪問目的が武器の支援要請ならば、訪朝を早め、この日に合わせても良かったはずだ。北朝鮮はこの1年間で固形燃料の中距離弾道ミサイルをはじめ無人機など様々な兵器を開発していたからだ。

 電撃訪問という点では前国防相のロシア連邦安全理事会セルゲイ・ショイグ書記長の9月13日の訪朝と同じケースだ。但し、この時は、ショイグ書記長は公式訪問ではなかった。招請先も国防省ではなく、明らかにされていなかった。おそらく、緊要が生じ、自ら出向いたのであろう。

 ショイグ書記長は平壌に到着すると、直ちに金総書記と会談し、その日の夜には帰国した。国家元首でもないのに異例にも金総書記が自分の車にショイグ氏を乗せ、平壌空港まで送迎していた。

 この時もショイグ書記長の訪朝目的は伏せられていた。プーチン大統領のメッセージを「金総書記に伝えた」とだけ報道されていた。しかし、到着した日に北朝鮮外務省対外政策室長が発表した談話から訪朝の目的をある程度窺い知ることができた。「NATOと代理勢力を反ロシア対決へ煽り立てる米国こそ欧州が直面した重大脅威である」と題する談話には以下のようなことが記述されていた。

 ①米国はロシアに戦略的敗北を与えようとする一念の下でウクライナに「エーブラムス」戦車、Fー16戦闘機、「ATACMS」長距離ミサイルをはじめとする殺人装備を系統的に渡しながら罪のない民間人被害と事態の長期化を招いている。

 ②米国は欧州地域にロシアを狙った長距離ミサイルを配備することを公約し、NATO主導の反ロシア戦争演習を次々と行ったのに続けてロシアの縦深地域に対するウクライナの長距離兵器使用禁止措置を解除する企図をさらけ出しながら欧州全域に残酷な戦乱をもたらしている。

 ③国際社会は自分らの覇権利益実現のために欧州の安保をそっくり質に置いて軍事的対決策動に狂奔している米国の無分別な振る舞いを許してはならず、団結した力で地域の平和と安定を守っていくべきであろう。

 ④我々は今後も帝国主義の覇権政策と強権を粉砕し、主権守護と公正な多極世界建設のために邁進しているロシア人民の正義の偉業を変わることなく支持、声援する。

 一言で言えば、ショイグ理事長は8月6日にロシアのクルスク州がウクライナ軍に侵攻されたのに加え、米国や英国がロシア本土を攻撃できる弾道ミサイル「ATAMCS」や巡航ミサイル「ストームシャドー」をウクライナに許与したことに対処するため北朝鮮に軍事支援を仰いだのであろう。金総書記がプーチン大統領の要請を受け、派兵を決定し、特殊部隊の第1陣(1500人)をロシアに送ったのはショイグ書記長の帰国から約2か月後の10月8日だった。

 今回のベロウソフ国防相の訪朝はウクライナのウメロフ国防相の訪韓(11月27―29日)への対抗である。同時にウクライナに肩入れしている韓国に対する牽制の性格も帯びているようだ。そのことはベロウソフ国防相がウメロフ国防相の訪韓と入れ替わって平壌を訪れたことからも明らかだ。

 北朝鮮の対露派兵以来、韓国に再三、軍事支援を要請していたウクライナのゼレンスキー大統領はウメロフ国防相を派遣し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に155mm砲弾から対砲兵レーダー、地対空迎撃ミサイル「天弓(チョングン)」など武器の供与を求めていた。

 韓国が承諾したのかは不明だ。というのも、韓国はウメロフ国防相がゼレンスキー大統領の特使であるにもかかわらず龍山の大統領室で行われた尹大統領との会見写真も公開せず、申源湜(シン・ウォンシク)国家安保室長、金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防部長官らとの相次ぐ会談も公にしていないからだ。

 記者会見もセットせず、ウメロフ国防相が29日に出国するまでの間、韓国滞在中にどこで何をしていたのか動静を全く明らかにしていなかった。北朝鮮とは異なり、異常なぐらい秘密主義に徹していた。

 プーチン大統領はウクライナと韓国の軍事提携を念頭に停戦を提唱しているトランプ次期大統領が大統領に正式に就任する来年1月25日までにクルスク州を占拠しているウクライナ軍を駆逐するため北朝鮮に更な兵器の供与と増派を求め、ベロウソフ国防相を急遽、平壌に派遣したものと推測される。

 それに対して金総書記はいずれも確約したものと思われる。そのことは北朝鮮の報道から垣間見ることができる。

 朝鮮中央通信によれば、金総書記はベロウソフ国防相との会談で「国家の主権と領土保全を守るロシアの政策を変わることなく支援支持する」と表明し、続いて開かれた露朝国防相会談では呂光鉄(ロ・グァンチョル)国防相が露朝包括的戦略パートナーシップ条約に基づき「両国軍隊間の戦闘的団結と戦略的・戦術的協同を強化していく」意向を表明していた。

 会談後に金総書記も出席して開かれた歓迎宴で呂国防相は初めて「戦友」という言葉を使い、「ロシアの軍隊と人民の正義の聖戦を全幅的に、最も強力に支持・声援するわが党と政府、共和国武力の確固不動の立場と意志」を披歴し、ベロウソフ国防相の今回の平壌訪問が「反帝・自主のための共同戦線の同じ塹壕で日増しに強固になっている両国軍隊の戦闘的友誼と団結を力強く示す重要な軍事的・政治的契機になるだろう」と述べていた。

 ベロウソフ国防相が答礼演説で「ロシアの軍隊と人民が帝国主義の覇権戦略に立ち向かって繰り広げる聖戦に対する朝鮮の党と政府の戦闘的連帯に心からの感謝を表明する」と述べたことはそのことを裏付けている。

 ベロウソフ国防相は来年5月にモスクワで開催される対ドイツ戦勝80周年軍事パレードに北朝鮮人民軍を招待していたが、ロシアはこの日までにウクライナ戦を決着付ける腹積もりのようだ。

 金総書記はショイグ理事長の訪朝から3週間後の10月2日にロシアに派遣している金英福(キム・ヨンボク)軍副総参謀長と李昌虎(リ・チャンホ)偵察総局長を伴って西部地区特殊作戦部隊の訓練基地を視察していたことから今回も増派を決定しているならば近々、増派部隊を視察するかもしれない。

(参考資料:「ノルマンディー上陸作戦」開始時の兵力の3分の1が投入されたロシアの「クルスク奪還作戦」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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