Yahoo!ニュース

【U-20W杯】韓国はどうやって「大問題」を乗り越えてベスト4入りしたのか

ラウンド8 ナイジェリア戦の勝利に沸く韓国U-20代表(写真:ロイター/アフロ)

"大人"の試合にはなかなか出場できない。

だからといって"子ども"にも戻れない。

どの国の強化体制でも、U-20(20歳以下)代表というのはなかなか悩ましい世代ではないか。

そういった中、U-20ワールドカップ(W杯)アルゼンチン大会で韓国代表が2大会連続でベスト4進出を果たした。9日6時(日本時間)にイタリアと対戦する。前回2019年ポーランド大会での準優勝に続く「結果」だ。

何せ「ほとんどの選手が所属クラブで出場機会を得られていない」という状態で、この成績を残しているのだ。今回のメンバーリスト21人のうち、所属クラブでのレギュラーは2人だけだ。

では、今大会のベスト4入りはどうやって成し遂げたのか。

韓国での本大会での勝ち上がり

グループリーグ

5月23日 フランス   ◯2-1

5月26日 ホンジュラス △2-2

5月29日 ガンビア   △1-1

決勝トーナメント

6月2日 エクアドル  ◯2-3

6月5日 ナイジェリア ◯1-0

初戦のフランス戦勝利で勢いづいた。続くホンジュラス戦での引き分けは躓きにも見えたが、フランスの失速などもあり2戦終了時点でラウンド16進出を決めた。第3戦ガンビア戦は双方が勝ち上がりを決めた状態で「流した」というところ。

ラウンド16のエクアドル戦では終盤に詰め寄られたものの3ゴールを決め比較的余裕のある戦いで勝利。続くナイジェリア戦は延長5分のセンターバック、チェ・ソギョン(壇国大)のゴールで辛勝。2大会連続でのベスト4入りを決めた。準決勝の相手はイタリア。試合開始時間は日本時間の9日朝6時。

フランス戦"MVP"は「所属クラブでは"Bチーム" 4部で3試合」 

大会を報じる韓国メディアの記事を眺めていると、こんな見出しが飛び込んできた。

「U-20代表 孤軍奮闘…サッカー界は恥ずかしくないのか」

厳しい声を上げるのは「スポーツ京郷」のキム・セフン記者だ。筆者の取材にこう答えた。

「今回の韓国U-20代表は、基本的には個々人の技術レベルはよいものがあります。ただし、実戦経験は不足しており、ゲーム体力も弱いんですよ」

記事の中ではこう記した。

「今大会の韓国U-20代表メンバー21人のうち、19人がプロ。しかし、彼らの合計のリーグ戦出場時間はわずか35試合。同ゴール数は0だ」

「21人のうち、(所属クラブの)トップチームでレギュラーを取っている選手はペ・ジュノ(テジョン・ハナ・7試合)、ドイツ3部リーグのイ・ジハン(フライブルク・14試合)がいる程度」

ラウンド16エクアドル戦にて
ラウンド16エクアドル戦にて写真:ロイター/アフロ

ちなみに今回の日本は「余裕」でその数を超えていた。メディアに「すでにJリーグでも活躍する選手」として紹介される選手は7人いて、リーグ戦合計出場試合数は42。松木玖生(FC東京)、高井幸大(川崎フロンターレ)らはJ1でレギュラーを獲得している。

一方韓国は、大会初戦でフランスに2-1で勝利し勢いに乗ったが、ここで活躍した2人は「Kリーグ1(1部)経験がほとんどない」状態なのだという。

「フランス戦でイ・スンウォン(江原/Kリーグ1)は1ゴール1アシストを記録。また決勝ゴールはイ・ウンジュン(金泉尚武/Kリーグ2)が決めた。前者は韓国の名門クラブ、高校で育った選手だが、今季Kリーグ1での出場試合数はゼロ。江原ではBチームに所属しており、4部リーグで3試合(1アシスト)という状態。後者もまた名門チームで育成世代を過ごしたが、今季は2部で3試合(1アシスト)にとどまっている」

なぜこういったことになるのか。キム記者は記事でこう続ける。

「彼らに出場の機会を与えるシステムが不足している。20歳以下の選手がプロの1部または2部で直接レギュラーとしてプレーすることは難しい。それは韓国だけでなく、他の国、ほとんどのヨーロッパの国々も同じこと。しかし、ヨーロッパの多くの国々は若い選手を戦略的に育てる。彼らを下部リーグにレンタル移籍させるほか、様々な方法で実戦経験を継続的に提供する。自分よりも経験豊富で困難な相手と対峙(たいじ)し、限界状況で戦うことは、実戦のみが提供できる貴重な経験。韓国の有望な若手選手たちもこのように実戦経験を十分に積まなければ、成長できずに消えてしまうだろう」

ナイジェリア戦でプレーするDFペ・ソジュン。彼もまた所属チームで出場機会に恵まれない
ナイジェリア戦でプレーするDFペ・ソジュン。彼もまた所属チームで出場機会に恵まれない写真:ロイター/アフロ

大転換期での「功績」

韓国サッカー界はいま、大きな転換期にある。今回のU-20代表はその「渦中」にあるといえる。

2010年、李明博政権が行った「勉強もするスポーツ育成政策」から10年余り。現場では体罰や厳しい言葉で追い込む指導を排除し、合理的な指導を志す。育成の制度でもKリーグクラブの下部組織の充実・拡張を図っている。

志向するサッカースタイルにも変化が生じている。育成世代のスペインとの提携から、技術をしっかり育む方針を打ち立てた。その集大成の一つとして2022年W杯カタール大会でのベスト16入りがあった。ポルトガル人のパウロ・ベント監督の下「ビルドアップ」を標ぼうしてそれを成し遂げたのだ(本大会では直接的にそれが功を奏した場面はあまりなかったが)。

一方でスタイルの変化により国内では「かつての強さが失われつつある」という評価も聞こえる。Jリーグの強化部からも韓国の大学選手について「かつてのようなパワーがなくなり、魅力に欠ける面もある」との指摘がある。

実際に日本との対決でも劣勢に立たされている。3年のA代表から年齢別代表、大学選抜の日韓戦の成績は日本の6戦全勝で、トータルスコアは「18-0」。直接対決では日本が圧勝する時代が来たのだ。

Kリーグに目を向けても「激動」の時代だ。

Kリーグに2部が誕生したのはJリーグから遅れること4年、2013年からだ。18歳の時点で1部のクラブに直行できるようなタレントが武者修行に出るためのレンタル移籍もなかなか進まない。かつて韓国の選手代理人から「自分たち(ウリ)」と「他所(ナム)」の区別がはっきりとしている国柄にあって、なかなか受け入れにくい制度、という話を聞いたことがある。

Kリーグが管轄するのは2部まで。多くのKリーグクラブはセカンドチームを協会管轄の3部や4部に昇格させ若い選手に実戦機会を積ませようとしているが、いかんせん相手はプロ・アマ混在の状況だ。

一方、大学サッカーは急激に衰退している。一時は若い有望選手が18歳・19歳(つまり大学1年・2年)で出場機会を失わないため大学に進学し、3年・4年で中退してプロに進むという方法が多く取られた。結果、3年・4年で残った選手は「プロに行けなかった選手」とみなされ、権威自体がかなり落ちてしまった。すると「1年・2年だけ在籍」という選手も減る「空洞化」が起きている。実際に今大会のメンバー中、大学選手は2人のみだ。

Jリーグで特別指定選手制度が普及したり、あるいは大学サッカー自体の底上げで再び選手の供給源となったりしている点と比べると大きな違いだ。

監督は「選手たちが普段出てない状況」を逆利用

では今回の韓国U-20代表はこういったマイナス要素を払拭(ふっしょく)し、どうやってベスト4入りを果たしたのか。

まず、かつてベガルタ仙台でもプレーしたキム・ウンジュン監督が選手たちにこういった声がけをしているのだという。

キム・ウンジュン監督
キム・ウンジュン監督写真:ロイター/アフロ

「これまで所属クラブであまり出場する機会がなかったよね? だから、ファンたちは君たちがどんな選手なのか、よく知らない。その悔しさを、必死なプレーで打開して自分たちがどんな選手なのかを世界中に見せてくれ」

また、出場機会の少なさから全般的にゲーム体力に欠ける選手たちには「徹底した戦術トレーニング」を施した。

「すべてのラインの選手たちが『中盤で組織的にボールを奪う』守備の練習を徹底してやっています。その後のカウンターにも力を入れている。やや弱い守備ラインをカバーするための処方、という考え方もできます。さらにもうひとつ、セットプレーには熱心にトレーニングしてきた成果として、今大会での8得点のうち4得点がセットプレーから生まれています」

こういったトレーニングに、選手たちは意欲的に取り組んでいるという。

「これまであまり所属クラブで試合に出られない欲求不満を発散しているんですよ」

キム記者はこの他の要素として「(大会が行われている)アルゼンチンでよい宿泊施設とトレーニング場を得ている(2部クラブ、アトレティコ・ミトレの練習場)」点を挙げる。これは2021年の東京五輪代表時代に共に仕事をしたキム・ハクボム氏(当時は監督)のサポートによるもの。同氏はアルゼンチンに深い縁を持っているのだという。

彼らの成果を「称賛だけ」で終わらせるなと警告

18歳・19歳の若い選手たちの所属チームでの出場機会確保。

それは選手たちが競争を勝ち抜くべきものなのか、はたまた制度で考えるべきか。「レンタル」や「特別指定選手」の有無は、日本よりも色濃い「自分たち」と「他人」を区別する韓国文化の影響もあるか。

はたまた育成システムや方針の大転換で"弱っている"ようにも見えるなか、メンタル面でぐっと引き締め、一定の結果を残せることこそ「韓国の強み」か。

いずれにせよ、キム記者は冒頭の「U-20代表 孤軍奮闘…サッカー界は恥ずかしくないのか」の記事の結びでこう強く指摘している。

「大韓サッカー協会、Kリーグ連盟、大学サッカー、高校サッカーの関係者は、この大会の成績とは関係なく、彼らが韓国に帰国した後も持続的にプレーできる環境を整える必要がある。彼らが成果を上げたことを「奇跡」として称賛して終わり、とすべきではない。それはサッカー界の義務を欺き、責任を逃れようとすることと同じだ」

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

吉崎エイジーニョの最近の記事