新型コロナの大量減便で在庫のANA国際線機内食の通信販売が人気。フードロスも解消で、新たな収益源に?
新型コロナウイルス感染者拡大による緊急事態宣言や入国制限などにより、自由に移動ができなくなったことで過去に類を見ない大量減便が長期化している航空業界。
新型コロナウイルスの第3波、更には変異種が発見されたことなどもあり、2021年1月末までの外国人の新規入国が制限されるなど、2021年のスタートも航空業界にとっては厳しいスタートになる中で、各航空会社では「非航空事業」、いわゆる航空会社のノウハウを最大限活用して自社の飛行機を飛ばす以外での収入増を目指した取り組みが行われている。12月に入り、ANAが国際線機内食の通信販売を開始し、想像を大きく超える人気となっている。
国際線の旅客数は4月~10月で前年比96.2%減
ANAでは国際線においては各国の入国制限が強化された4月以降、9割前後の便が運休しており、ANA(全日本空輸)の国際線旅客数(4月~10月)は、前年比で3.8%(96.2%減)まで落ち込んだ。10月の1ヶ月だけ見ても前年比4.2%(95.8%減)と落ち込みが続いている。国内線の旅客数も4月~10月で前年比21.9%(78.1%減)となっている。
非航空事業の強化を目指すANA
ANAホールディングスの片野坂真哉社長は、10月27日のANAグループの新しいビジネスモデルへの変革を柱にした事業構造改革を発表した際に「コロナの影響により、人々の意識や行動が変容し、航空需要の量と質が大きく変化していく。こうした社会の変化に機敏に対応し、感染症の再来にも耐えられるよう強靱なANAグループに生まれ変わる」という強い意気込みを語った。
「航空事業」と「非航空事業」の両輪での変革を目指す方針を明らかにし、「非航空事業」の1つとしてスタートしたのが、12月11日に販売開始となったANA国際線エコノミークラスの機内食(メインディッシュ)を冷凍で自宅に配送してくれる通信販売だ。
国際線エコノミークラスの機内食を家庭で味わえる
機内食をアレンジして空港周辺のレストランなどで提供されるケースはこれまでもあるが、今回は実際にANA国際線エコノミークラスの機内で提供の機内食をそのまま自宅で食べられるというのがキーポイントであり、航空会社でしか販売できない強みがある。
ANAではお客様から機内で提供される機内食やワインなどを販売して欲しいという声が多く寄せられていたなか、自宅で少しでも海外旅行気分を味わってもらうべく、機内食の販売を12月11日よりANAの公式ECサイトなどでの通信販売を開始した。
近年、エコノミークラスの機内食を強化している航空会社も多くあるなかで、ANAでは2013年からは「機内食総選挙」という形で「お客様と共に創る機内食」をコンセプトに機内食メニューの一部をお客様からの投票で決定する取り組みも実施している。
1月末の賞味期限の機内食を12食入り7200円で販売
12月11日からANAが販売したのは「和食」「洋食」「お子様向け」の3種類。それぞれ3種類の機内食が4食ずつ入っており(合計12食)、最初に発売したものは賞味期限が2021年1月末に迫っていることもあり送料込みで各7200円の特別価格で販売した。1食あたり600円という計算になる(2回目以降は賞味期限に余裕があることから通常価格の9000円で販売。1食あたり750円)。
冷凍で配送され、電子レンジで解凍・加熱して食べる
筆者は知人と一緒に購入して分ける形で「洋食」「和食」「お子様向け」の3種類を発売開始の12月11日に注文したが、翌日には「洋食」「和食」が完売になっているほどの人気となった。リアルな機内食が自宅で食べられるというコンセプトが評価された形だ。
「洋食」は
・ビーフハンバーグステーキデミグラスソース
・ビーフシチュー&とろとろ玉子のオムライス
・タンドリーチキン風サフランライス添え
「和食」は
・チキン南蛮丼
・紅鮭の彩御飯
・牛すき焼き丼
という組み合わせになっていた。
注文後、冷凍されたクール便で配送され、箱に入った形で届けられた。到着後すぐに冷凍庫に入れることになる。気になるのが調理方法であるが、機内では機内のスチームオーブンで温められた後にお客様に提供される形になるが、自宅では食べる24時間前に冷凍庫から冷蔵庫に移して自然解凍(冷蔵解凍)とした後、蓋のまま電子レンジで500Wで3分間加熱することを推奨している。時間がない場合は電子レンジの解凍モード(200W)で5分間かけて解凍したのち、通常モード(500W)で3分30秒を加熱することでも食べられる。
私も両方でトライしてみたが、自然解凍してから加熱した方が全体がムラなく温まる感じがしたが、少し長めに加熱するのであれば電子レンジでの解凍・加熱でも特に問題はなかった。
成人男性には1個だと少なく感じるが、ランチボックス代わりにも
実際に調理して感じたことは、容器のまま電子レンジに入れられるということで、手間無く簡単に加熱することができるのは楽だった。元々機内食の分量はそれほど多くないので、小腹が空いた時などに重宝すると思ったほか、シールで蓋もしっかり固定されているので、会社で電子レンジが使える環境であれば、機内食をランチボックス代わりにして、ランチのお弁当として食べるという活用方法もあるだろうと思った。
実際に食べてみた印象としては、いつもANA国際線機内で食べている機内食そのままであった。機内と異なる印象としては、機内食の分量は、地上で食べる場合には成人男性では量が少なく感じることから、1人で2個もしくは2人で3個くらいが丁度よいのでないかという声が実際に食べた人からは聞かれた。
ビーフシチュー、タンドリーチキン、牛すき焼などが高評価。気圧を考慮した濃いめの味付けに
筆者は知人を含めて複数人で全種類を食べてみたが、「ビーフシチュー&とろとろ玉子のオムライス」「タンドリーチキン風サフランライス添え」「牛すき焼き丼」が特に美味しいという声が上がった。機内食が自宅で食べられるということ自体が不思議であり、「ステイホーム」で自宅での食事が増えているなかで、いつもと違った食卓になっていたことを筆者自身も感じた。
一般的に機内食は、高い高度で飛行している機内では気圧の関係で人間の味覚が変わることから濃いめの味付けになっており、今回注文した機内食も濃いめの味付けになっている。これがビールやお酒、ワインなどのアルコール類などとの相性も良く、機内食をおつまみ代わりにしても面白いという声もあった。
フードロスの解消にもなる。ビジネスクラスやファーストクラスの機内食も販売して欲しいという声も
今回の機内食販売は、新たな「非航空事業」としての側面を持つだけでなく、近年社会問題となっている「フードロス」を削減する大きな役目も果たすことになる。ANAではエコノミークラスの機内食は製造後に冷凍保存され、飛行機に搭載する前に解凍する形となるが、通常のレストランや食堂などと異なり、長距離フライトで機内食が不足する「欠品」というのは許されず、ある程度の余裕を持つべく多めに製造しなければならない。
賞味期限が過ぎてしまえば当然廃棄しなければならなくなるが、今回のように冷凍という形で機内で提供している機内食をそのまま通信販売できる仕組みを構築したことで、通常価格で販売する機内食と価格を下げて販売する賞味期限が近い機内食に分けて販売することで、フードロスを無くし、更に人気機内食は通信販売用に多く製造することで新たな収益を生み出すことができることになる。購入者からはビジネスクラスやファーストクラスで提供する機内食の一部も販売して欲しいという声もあり、ANAの機内食外販ビジネスに期待する声も多い。
JAL(日本航空)でも、国際線ラウンジで提供されているラウンジのビーフカレーを8月から販売して人気を集めた(現在は販売終了。1キロ入り×2袋で6000円での販売だった)。またANAでは、ラウンジで提供する「オリジナルチキンカレー」(3キロ入りで4500円)を現在も販売している。
アレンジせずにそのまま販売したのが成功要因?
今回、ANA国際線エコノミークラスの機内食は、12月11日発売の12食入り7200円に加えて、12月22日発売の9000円(12食入り)の「メインデイッシュまんぷく3種」も発売直後の完売したことは、ANA社内でも驚きの声で受け止められている。
機内食という、海外旅行での旅のテンションを上げる1つの要素になっている食事を地上で楽しみたいという需要が想定以上にあったことを意味しており、今回の成功要因としては、機内食をアレンジするのではなく、機内と全く同じものを販売したことが大きいだろう。
バラエティに富んでいる機内食が新ビジネスに発展する可能性
航空会社でしか販売できない強みを活かし、コンパクトなパッケージ、盛り付け方法、品質管理などの機内食ノウハウを地上でも活かすことで、今、各航空会社で強化している「非航空事業」での収益強化にも繋がる。
更にはチャイルドミールだけでなく、宗教に対応したスペシャルミール、アレルゲン対応をはじめ健康に配慮したスペシャルミール、ベジタリアンミールなどの製造も行っており、こういった特別食を地上で販売するのも面白いだろう。今後、伸びしろが期待できる機内食ビジネス、2021年はどんな機内食が販売されるのか楽しみだ。