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「絶対に要らない」。サッカーで数々の実績を残す「ペナルティ」ヒデが“しごき”を完全否定する理由

中西正男芸能記者
サッカーへの思いを綴った著書を出した「ペナルティ」のヒデさん

 市立船橋高校サッカー部時代に全国サッカー選手権準優勝、インターハイ優勝などを経験し専修大学卒業後は横浜フリューゲルスから誘いを受けるもお笑いの道を選んだ「ペナルティ」のヒデさん(52)。サッカーへの思いを綴った著書「なぜ、僕らはこんなにもサッカーが好きなのだろう」を3月2日に上梓しました。自身は厳しい指導の中、選手としての時間を過ごしましたが、今思う“しごき”の意味とは。

努力や汗は裏切らない

 ずっとサッカーをやってきたので、いつかはサッカーに関する本は出しておきたい。その思いがあったところ、去年ありがたいご縁をいただきまして。

 本を書くにあたり、改めてサッカーへの思いを見つめ直す機会にもなったんですけど、つくづく僕の土台はサッカーで作られているんだなと痛感しました。

 サッカーとお笑い。やっていること、世の中から見えている部分は全然違うんですけど、根っこは一緒というか。それも感じましたね。

 例えば、舞台に出るまでの生みの作業。ネタを考える。ネタ合わせをする。ここがサッカーでいうとトレーニングにあたるわけで、どちらもそこをサボったヤツは舞台、ピッチに立てない。ヘトヘトだけどもう一本走る。結果が出なくてくじけそうになるけど、もう一本ネタを作る。その積み重ねがあると、脚光を浴びる確率が高くなる。言葉にするときれい事みたいになってしまいますけど、本当にその通りだなと。努力や汗は裏切らない。

 少なくとも、僕はそう信じてやってきましたし、ピン芸人ではなくコンビというチームプレーを選んだのもサッカーに起因しているだろうし、コントのスタイルとしてもスタイリッシュなコントというより、走り回って必死になる泥くさいコントをやるのも相方のプレースタイルそのまま。支えてくださるファンがいらっしゃって、スポンサーがいてくださる。サッカーからの学びがどこまでも今の仕事に通じているなと我がことながら感じています。

しごきの意味

 本を書くにあたり、これまでのお付き合いを駆使していろいろな選手や関係者の方にもお話をうかがいました。

 そのお話を聞く中で、自分のこれまでを振り返り、一つ考えたのが“しごき”の意味でした。

 厳しいなんてもんじゃない練習に耐えた。倒れる、命が尽きるという思いが何度も頭をよぎりつつも、そこで倒れずにやってきた。

 だからこそ、サッカーではレギュラーになれたのかもしれないし、今の仕事においても「いくらしんどいロケでも、あれよりは楽だよな」と忍耐の最大値が上がったということはあると思います。

 もう限界だけど、ここでやらなかったらもっとつらいしごきがある。そう思って、限界の先の力を呼び起こしてもう一本ダッシュができた。そういうこともありました。

 でも、今の時代でのしごき。僕は絶対にダメだと思っています。絶対に要らないと思っています。

 当時はそれが当たり前だったので、まさに否応なく受け入れるしかなかった。自分の意志ではなく、システムと環境でやらざるを得なかった。

 ただ、特に今回本を出すにあたっていろいろな人と話をする中で思ったのが、そうやって環境で与えられたことだけをやると、イマジネーションが止まってしまうんです。環境から押し付けられることを受け入れちゃう。そのイマジネーションでは世界と戦えない。それがハッキリ分かりました。

 お笑いで考えると、イジリというのは当然その芸人の特性に合わせたイジリをするわけで、その結果、イジられた人間がウケて得をする。表面的には攻撃的なことであっても、根底には愛しかないわけです。ただ、集団全体に同一のイジリをするというのは意味をなさない。なんのことか分からない。一人一人を見ても、番組全体を見ても、何の得も、成長もない。

 もちろん、高いレベルで戦おうとすればするほど、自分に厳しくないといけません。甘ったるいことを言うヤツとか自らを律する心のないヤツは端からスパイクを脱ぐべきだとも思います。そこがないとまず話にならない。

 ただ、無駄の多い、可能性も狭めかねないかつてのシステムは、もう自分たちで終わりにしたい。息子や若い世代には自分が経験させたことを経験させたくない。

 「あの時はアレをやったけど、今から思うとアレ以外の方法が正解だったよな」

 その考えを導き出す。吸収と排除の仕組みにおいては意味のあることだったと思うんですけど、もうなくてもいいものだろうなと。

 実際、今はそれをやらなくなっても、否、やらなくなったからこそ、ちゃんと世界と戦えてますもんね。シンプルに、それが答えなんだろうなと。

 本を書いてみて、今一度サッカーへの思いを整理する中で、また学びをいただいたとも思っています。

 ただ、タイトルにもしている「なぜ、僕らはこんなにもサッカーが好きなのだろう」への答えは未だに出てません。やっぱり簡単じゃないというか、それだけ奥深いものなのかもしれませんね。あとは、そこをもう少し引っ張って、この本の第二弾を出せればというそろばんもあるのかもしれませんけど(笑)。

(撮影・中西正男)

■ヒデ

1971年4月7日生まれ。千葉県出身。本名・中川秀樹。市立船橋高校サッカー部時代には全国サッカー選手権準優勝、インターハイ優勝などを経験する。高校卒業後は専修大学へ進学。大学卒業時、横浜フリューゲルスから誘いを受けるもお笑いの道へ。高校サッカー部の後輩の脇田寧人(ワッキー)と94年に「ペナルティ」を結成する。著書「なぜ、僕らはこんなにもサッカーが好きなのだろう」が発売中。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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