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イ・ボミ独占インタビュー 山下美夢有が塗り替えた年間獲得賞金の記録に「こんなに早く抜かれるとは…」

金明昱スポーツライター
2022年シーズンを終えてインタビューに応じてくれたイ・ボミ(写真・筆者撮影)

 シーズンオフに入るとイ・ボミに話を聞くのが恒例で、これで何度目だろうか。2022年の女子ゴルフツアーを終えて韓国に帰国し、12月に入ってからはスポンサー関連の仕事のため、再び来日していた。

 真っ先に聞きたかったのは、今季の年間女王・山下美夢有の獲得賞金が2億3502万967円となり、2015年のイ・ボミ(2億3049万7057円)の記録を超えたことについてだ。

「大会の賞金額も試合数も毎年増えていますから、記録はいずれ抜かれるものと思っていました。正直、こんなに早く記録が抜かれるとは思っていませんでしたが(笑)」

 イ・ボミの正直な気持ちが垣間見えたが、それよりも拍手を送るべきなのは“山下の努力による結果”と話す。

「年間女王も賞金女王も過酷なツアーを戦い抜き、努力によって得た結果です。記録よりもそこを称えないといけないです。山下選手は身長が低いと言われていますが、それを補う高い精度のアイアンショットに加え、パッティングも強気。ミスしても焦ることないメンタルもいいですよね。これからも日本ツアーを引っ張っていく選手になると思います。さらに成長していくのが楽しみです」

 山下の成長を称える一方、自身のゴルフの話になると少し表情が曇る。今季はシードを持たないながらも主催者推薦などで14試合出場。富士通レディースでの9位が最高位で、予選落ちも多く思うような結果は残せなかった。

 イ・ボミが今季をこう振り返る。

「ゴルフをやりたい気持ちはあるんです。練習もトレーニングもして、悪い部分については修正も試みましたが、試合で結果が出ない。それがずっと続くので精神的にすごくしんどかった1年でした。この先、どうするか悩むのは当然のことで、所属先とも何度も話をしました。支えてくれている方がたくさんいて、ファンからも私がプレーする姿をもう少し見てみたいという声もたくさん聞き、またがんばってみようかなと思いました」

 昨季(2020-21)は、シードを落としてから“引退”もささやかれていたが、それについては否定。韓国ツアーの永久シードを持っていることもあり、「“引退”することはない」という。

 だが、韓国では夫のイ・ワン氏との生活もあり、いずれ日本ツアーを離れることになるのは時間の問題と、誰もが想像できるはずだ。ゴルフファンにとって気になるのは、それが「いつになるのか」だろう。

今季は限られた試合数の中、日本と韓国を行き来しながらのツアー参戦となった(写真・KLPGA)
今季は限られた試合数の中、日本と韓国を行き来しながらのツアー参戦となった(写真・KLPGA)

来年も推薦で日本ツアー参戦予定

 そもそも、いまゴルフとどう向き合っているのか。今もショットの安定感には波があり、以前も「長らくスランプの状態にある」と正直に話していた。

「それでも今季は終盤の富士通レディースで9位に入り、NOBUTA GROUP マスターズGC レディースも予選を通過(33位タイ)できました。11月に出場した韓国ツアーでも14位といい流れで終えられたので、もう少しがんばれば、来年はいい姿を見せられるかなと思っています」

 2023年も現役としてプレーを続けると心に決めていた。ただ、シードを持たないため、主催者推薦(最大8試合)でしか日本ツアーに出場できない。現状では「まだどの試合に出られるかは決まっていないですし、そもそも私を受け入れてくれる大会もほとんどないでしょう。それでも推薦をいただけるならありがたいこと」と話す。

 あくまでも勝手な予想だが、日本ツアーには所属先のNOBUTA GROUP マスターズGC レディースを含め4~5試合出られるのではないか。加えて、韓国のスポンサー関連で母国ツアーにも数試合は出るだろう。

 それならばもちろん結果が欲しいが、成績が出なければまた辛い気持ちにさせられるのもイ・ボミは知っている。輝かしい実績を持つトップアスリートも頂上で素晴らしい景色を眺めたあとは、いずれゆっくりと道を下っていくもの。

 今後の進退については言葉を濁していたが、成績が悪いままシーズンを終えることには少し後悔があるようにも感じられた。

笑顔で楽しくプレーする姿を見せたい

 2015、16年に2年連続賞金女王になったからこそ、どうすればその高みにいけるのかは痛いほど分かっている。練習や試合に挑む前の気力は20代のころと同じとはいかない。

「私が必死に努力せずに結果を出した選手ならどうでしょうか。実際に賞金女王になった時は、とてつもない努力をしてその成績を得たので、当時と同じことをやらなければ、結果は出せないと頭と体が覚えているんです」

12月は日本で仕事をこなし、来年1月からは新たな気持ちでゴルフに取り組む(写真・筆者撮影)
12月は日本で仕事をこなし、来年1月からは新たな気持ちでゴルフに取り組む(写真・筆者撮影)

 今季は30代のベテランの金田久美子や藤田さいきが11年ぶりの優勝を果たしたが、よほどの気力と向上心がなければ、勝つことは難しい。イ・ボミには家族との生活もあり「いずれ子どもも欲しい」と考えるのもごく自然なことだ。

 それに近年は日本の若手の成長ぶりを見ながら、「日本ツアーはもう完全に世代交代しました。私も下に譲る立場なのにまだ残っているんですから(笑)」と冗談めかしながらも、そうした現実を受けとめているようだった。

「今は結果で見せるよりも、見に来てくれるファンのためにがんばろうと思っています。私の成績が悪くて恥ずかしい思いをしても、応援してくれる人が今もたくさんいるので、笑顔で楽しくプレーする姿で期待に応えていきたいです。もちろんそこに結果がついてくれば最高です」

 何事もやってみないと分からない。勝てる可能性が1%でもあるならば、そこにトライするのがプロのアスリート。“消化試合”で終わらせては、また悔いが残るはずだ。

 2023年も限られた試合数となりそうだが、日本でプレーする予定があるのであればなおさら。イ・ボミの発奮を期待しつつ、女子ツアーのさらなる盛り上げに一役買ってもらいたいと思っている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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