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灼熱地獄が出現する ロサンゼルスで猛火 気温上昇は産業革命前の1.5度を上回る

木村正人在英国際ジャーナリスト
猛威をふるうロサンゼルスの山火事(写真:ロイター/アフロ)

■「原爆が落とされた」

[ロンドン発]米カリフォルニア州ロサンゼルス郡保安官が「まるでこの地域に原爆が落とされたようだ」と嘆く猛火が街を焼き尽くす中、2024年は史上最も暑い年になり、世界の平均気温が産業革命前に比べて摂氏1.5度以上上昇した最初の年になったことが報告された。

英インペリアル・カレッジ・ロンドンのアポストロス・ヴルガラキス教授(地球気候・環境変動学)は「この地域で最も火災が少ないとされる季節に起きた山火事の規模は前例のないものだ。気候変動でカリフォルニアの火災シーズンは拡大している」と指摘する。

「米西部は降水量の減少とともに温暖化が進行している地域だ。この傾向は今後さらに悪化すると予想される。高温で乾燥したサンタアナ風が事態を悪化させている。温暖化で植生がさらに乾燥し、延焼が早くなり、山火事はより激しくなっている」(ヴルガラキス教授)

■異常火災は今世紀末までに50%増加

英国生態学・水文学センターで山火事を研究するマリア・ルシア・フェレイラ・バルボサ博士は「ロサンゼルスの火災を気候変動と関連付けるのは時期尚早だが、温暖化はより長期にわたる乾燥状態をもたらし、山火事の延焼を悪化させる」と解説する。

異常火災は世界的に2030年までに最大14%、50年までに30%、今世紀末までに50%増加すると予測されている。昨年のエルニーニョによる大雨が植生の成長を促し、その後、長期間にわたって乾燥し、「悪魔の風」サンタアナ風が山火事を拡大させる絶好の条件を作り出した。

欧州のコペルニクス気候サービスによると、2024年の世界平均気温は産業革命前の気温を1.6度上回った。23年に記録した最高気温を0.12度更新し、過去10年が最も暖かい10年となった。主な原因は言うまでもなく人類が排出した二酸化炭素などの温室効果ガスだ。

■2030年代初頭には長期的に1.5度を上回る

この上昇傾向が続くと2030年代初頭には気温上昇が長期的にパリ協定の基準値である1.5度を上回る恐れが高い。猛烈な熱波、海面上昇、野生生物の損失といった気候変動リスクは1.5度よりも2度上昇の方がはるかに高くなる。

パリ協定は「世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準に比べて2度より十分に低く抑え、1.5度に抑える努力を追求する」ことを目標に掲げた。23年、アラブ首長国連邦(UAE)での国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では「化石燃料からの脱却」で合意した

しかし温暖化懐疑主義者のドナルド・トランプ次期米大統領はパリ協定から再離脱し、化石燃料開発を後押しする方針だ。35年までに温室効果ガス排出量を1990年比で81%削減すると宣言した同盟国の英国にまで化石燃料の利用・開発を継続するよう圧力をかけている。

■「リアルタイムの気候の崩壊だ」

石炭や石油、ガスを燃やし続ければ世界の気温上昇は3度や4度になる恐れもある。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は新年のメッセージで「私たちはこの10年、命がけで暑さに耐えてきた。これはリアルタイムの気候の崩壊だ」と訴えている。

「私たちはこの破滅への道から抜け出さなければならない。2025年、世界の各国は温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、再生可能な未来への移行を支援することで世界をより安全な道へと導かなければならない。それが不可欠であり、可能なのだ」(グテーレス事務総長)

米ウォール街はトランプノミクス2.0に関するエコノミストの暗い予測を一蹴し、今年、市場を10%程度上昇させることに賭ける。気候変動対策の旗手だった欧州でも温暖化懐疑主義者の極右が台頭する。世界が化石燃料を燃やし続ければ、灼熱地獄が出現する恐れがある。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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