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日ハムの本拠地エスコンで試合後に「売り子BAR」登場へ 風営法違反になる?【追記あり】

前田恒彦元特捜部主任検事
(提供:イメージマート)

 北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールド北海道」で試合後に販売数上位の売り子を集めた「売り子BAR」が登場するという。気になるのは風俗営業法による規制との関係だ。

どのようなイベント?

 球団の公式ツイッターによると、7月28日の試合後から「売り子BAR」と銘打った期間限定のイベントを行うという。

 この告知によると、「普段会話できない彼女たちとゆっくりおしゃべりを楽しんでみては」「試合中は大忙しでなかなかゆっくり会話することができない彼女たちと試合後に祝勝会、反省会」とのことだから、球場内でビールを売り買いする際のごく簡単な言葉のやり取りではなく、客一人一人と時間をかけた長めの会話を予定しているイベントだと読める。

 しかも、売り子には男性もいるが、「彼女たちと…」という言い回しからすると、販売数上位の女性の売り子だけが客と対応する模様だ。

風営法の規制内容は?

 もっとも、風営法は、「設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」を「風俗営業」の一つとし、公安委員会の営業許可を義務付けている。無許可営業の場合、最高で懲役2年、罰金だと200万円以下に処され、両者が併科されることもある。

 では、「接待」とはどのような行為を意味するのか。風営法では「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」と定義されている。食品衛生法の「飲食店」としての許可に基づいて営業されているものの、実際には女性スタッフが客と長めの会話を楽しげに交わすガールズバーなどでもよく問題となる話だ。

 警察庁が全国の警察に示した通達では、特定の客や客のグループに対し、単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービスなどを行うことだとされている。カウンター越しか否かや客の隣に座っているか否かを問わない。今回の「売り子BAR」の場合、売り子によるショーや歌、ダンス、客とのゲームなどは予定されていないようだから、もっぱら会話などの状況が重要となる。

 先ほどの通達によると、アウトとセーフの区別は次のようなものだ。

・特定少数の客の近くにはべり、継続して会話の相手となったり、ビールなどを提供したりするとアウト。

・社交儀礼上の握手の範囲を超え、客の手を握ったり、身体を密着させたりするとアウト。

・カウンター内で単に客の注文に応じてビールなどを提供したり、提供された客が速やかにその場から立ち去ったりし、その際に社交儀礼上のあいさつを交わしたり、若干の世間話をしたりする程度であればセーフ。

 また、「風俗営業」となる前提として「設備を設けて」という点も重要だ。「設備」には建物だけでなく備品なども広く含まれるが、屋台やビールブースで客に立ったまま飲んだり食べたりさせるだけであれば対象外となる。ただし、そうした屋台形式であっても、テーブルや椅子などを用意し、飲食をさせるとアウトだ。

 このように、今回の「売り子BAR」の実際の運営形態がこれらの問題をクリアしているものであれば、風営法違反にはあたらない。一方、クリアできていない場合には、風営法の営業許可をとるか、内容を変更する必要がある。とはいえ、エスコンフィールドは風営法の保全対象施設である高校と隣接しているので、距離規制との関係で申請しても許可が下りないのではないか。

ファンの思いは?

 そうすると、景品表示法の「優良誤認」の問題も生じるだろう。実際にはクラフトビールのイベントのようにビールブースで次から次へとビールを注いで客に渡し、受け取ったら流れ作業のように客をブースから移動させ、ごく短時間の世間話を交わしたりする程度であれば、「普段会話できない彼女たちとゆっくりおしゃべりを楽しんでみては」というサービスのうたい文句と大きく異なるわけで、客を惑わす広告にほかならないからだ。

 このイベントの情報が公開されるや、ファンの間で様々な意見が示された。球団や売り子の売上向上につながるとか、帰路の混雑緩和になるといった歓迎の声も出ているものの、球場はガールズバーやキャバクラではないとか、世界一のボールパークが目指す方向性とかけ離れているとか、勝利こそが最大のファンサービスだといった批判的な意見が大勢を占めている。

 試合中ですら学生バイトの売り子に粘着している客がいるのに、ますます勘違し、それこそ一線を越える者まで出てくるのではないかといった不安の声も目立つ。エスコンに限らず、球場には売り子に対する痴漢や盗撮めあての客もやってきている。現に逮捕されたり、書類送検された例もある。

 球団はこうしたファンの声をどう受け止めるだろうか。(了)

【追記】

 ファンの声を受け、球団は公式ホームページのイベント告知を更新し、「売り子BAR」「普段会話できない彼女たちとゆっくりおしゃべりを楽しんでみては」「試合中は大忙しでなかなかゆっくり会話することができない彼女たちと試合後に祝勝会、反省会」といった記載や関連する写真を全て削除した。

 その上で「試合後に『ドリンクステーション』登場」「7月28日(金)の試合後から、1塁側Coca-Colaゲートに『ドリンクステーション』が登場します!バス待ちの待ち時間が長いときなど、列が解消するまで少し飲んでいくのはいかがでしょうか。最後の一杯をお楽しみください♪」といった記載に訂正した。

 なお、末尾には「先日公開いたしました本ニュースにおきまして、お客様に誤解を招く表現がありました。試合終了後、シャトルバスをお待ちのお客様に、観戦後、ドリンクを飲みながら球場内でお待ちいただける場をご提供する主旨での表現でした。お詫び申し上げるとともに、訂正いたしましたことをお知らせいたします」という一文が添えられている。

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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