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『夕刊フジ』部数減→休刊の原因に「駅売店の減少」 残る駅売店でも新聞の扱いは悪化

小林拓矢フリーライター
かつては駅の売店に多くの夕刊紙が並んでいた(写真:アフロ)

 産経新聞社は10月1日、『夕刊フジ』を来年1月末で休刊することを発表した。購読機会の減少や原材料費、輸送コストの増加を理由にしている。

 コロナ禍で帰宅時に読む人が減ったということも、理由として述べている。

 夕刊紙は、厳しい状況に追いやられている。部数減などがひどく、値上げも行われた。

 しかしかつては、夕刊紙は売れていた。どこで、売れていたのだろう?

駅の売店で夕刊紙は売れていた

 夕刊紙は、鉄道の駅に売店があったからこそ成り立ったビジネスである。ホームに何か所も売店があり、朝は『日本経済新聞』を中心に多くの一般紙やスポーツ紙が積まれ、夕方は『東京スポーツ』『日刊ゲンダイ』『夕刊フジ』といった夕刊紙がタケノコのように高く伸びていた。以前は『内外タイムス』という新聞もあった。

 多くの人は、硬貨で夕刊紙を買っていた。店員に硬貨と新聞を示し、店員が硬貨を受け取ればそれで買うことができた。

 速報性を大切にする夕刊紙は、早い時間の版が午後になるかならないかのころに店に並び、夕方には最終版が都心の駅に並ぶようになっていた。

 夕刊紙を運ぶために、新聞を担いで電車に乗っている人もいた。

 夕刊紙の存在は、駅やその売店とともにあるものだった。

新宿駅でも新聞を扱う売店は減った
新宿駅でも新聞を扱う売店は減った写真:イメージマート

駅売店で交通系ICカードが使えるようになると……

 駅の売店で交通系ICカードが使えるようになり、端末が設けられると、購入にひと手間かかるようになった。売店で何かを買うのに、時間が必要になってきた。レジを通し、レシートが出るようになった。新聞を買う際のスピード感が、なくなっていった。

Suicaで支払いをする人も増えた
Suicaで支払いをする人も増えた写真:アフロ

 それ以前から、多くの人は携帯電話でニュースを見るようになった。スマートフォンが普及すると、ニュースアプリなどを使用し、またSNSを見る人も多くなる。この記事をスマートフォンでお読みの方も多いだろう。

 そういう状況になると、夕刊紙の売れ行きは悪くなる。

 その一方、鉄道会社は駅の売店を多角化しようとしていく。これまでは新聞・雑誌やたばこ、飲み物などを売っていた売店しかなかったものが、いろんな店を出すようになっていく。また既存の売店も、コンビニのようにおにぎりやサンドイッチなども売るようになる。駅構内に喫煙所がなくなり、たばこも売れなくなる。たばこは販売をやめたところも多い。

 駅構内の売店をとりまく状況が、大きく変わったのだ。

夕刊紙が手に入りにくくなった

 そういった状況の中で、地下鉄の駅などでは駅の売店を閉鎖していくところも現れた。大きな駅でも、ホーム上の売店を減らし、飲料の自動販売機に置き換えるところも増えた。新聞の自動販売機が置かれることはほとんどなかった。

 夕刊紙が積まれ、その見出しを目にする機会というのも大きく減った。

 しかも現在、地下鉄と地上の鉄道は、相互直通運転をすることが多くなった。オフィス街の売店のない駅から地下鉄に乗り、そのまま地上のJRや私鉄に乗っていくと、下車駅まで売店がなく、夕刊紙を見ることがないというのが、普通にあるようになった。手元のスマートフォンにはいろんな情報が流れてくる。近年では動画を観ている人も多い。もちろん、ターミナル駅で乗り換えることもない。

相互直通運転だとターミナル駅での乗り換えも不要になる
相互直通運転だとターミナル駅での乗り換えも不要になる写真:イメージマート

 駅構内の売店が置かれた状況が変わるにつれ、夕刊紙には不利なことばかりになった。

 夕刊紙に早版と遅版があるということも、なくなってしまった。

 夕刊紙は、駅の売店とともにあるメディアだった。駅の売店のありようが変わり、新聞の扱いが悪くなると、その影響を大きく受ける。その結果として『夕刊フジ』の休刊となった。

『夕刊フジ』休刊の一因として、鉄道駅の売店の変化というのもある。そしてその影響は、残る『東京スポーツ』『日刊ゲンダイ』にも関係しているのではないだろうか。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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