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高校3年、藤井棋聖(18)封じ手鮮烈、同飛車大学 王位戦第4局2日目始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月20日。福岡県福岡市・大濠公園能楽堂において第61期王位戦七番勝負第4局▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太棋聖(18歳)戦、2日目の対局が始まりました。

 昨日1日目は藤井挑戦者が42手目を封じて指し掛けとなりました。

 通常2通作られる封じ手は、本局では3通。これはチャリティを目的として木村王位が提案し、藤井挑戦者が同意して、第2局からおこなわれているものです。

 封じ手の記入には赤ペンが使われ、図面に矢印で記されます。もし2通の封じ手で違う手が書かれていたらどうなるのか、というのはよくある疑問です。

 駒で「成」「不成」の表記が必要な場合はそれを書きます。その点については、中原誠16世名人と米長邦雄永世棋聖がタイトル戦で当たり始めた若き頃に、以下のようなエピソードがあります。

米長さんが封じ手をするときに、「駒を成るときは、どう記入したらよいか」と聞かれたことがある。これでは、封じ手が封じ手にならないが、当然の一手だったので問題はなかった。

(『中原誠名局集』)

 もし昨日、藤井挑戦者が「駒が成る時はどう書けばいいですか?」と封じ手前に尋ねたとしたら、衝撃が走ったでしょう。それは△8七同飛成という「当然の一手」ではない、異次元の手を考えていることを意味するわけです。

 とはいえ、昨日の封じ手をするまでの時間を使い方だけを見ても、十分に△8七同飛成を考えていたであろうことが推測されます。

 8時45分頃、藤井挑戦者入室。下座に着いて信玄袋から扇子を取り出し、自身と盤の間に置きます。そしてペットボトルから冷たいお茶をグラスに注ぎました。

 続いて木村王位。前日に引き続いて、黒いスポーツ用のマスクをしています。

 両者、初期位置に駒を並べ終えたあと、記録係の池永天志四段が前日の棋譜を読み上げます。

「1日目の指し手を読み上げます。先手、木村王位▲2六歩。後手、藤井棋聖△8四歩。・・・」

 戦型は相掛かり。両者ともに積極的に動いて、初日から波乱含みの展開となりました。

 41手目。木村王位は▲8七銀と上がります。これは8六にいる藤井挑戦者の飛車を追った強い受け手です。常識的には、ここは飛車を逃げるしかないと思われるところ。しかし、他に違う手があるとすれば・・・。

「定刻になりました。封じ手を開封します」

 9時を待ってから立会人の中田功八段は立ち上がり、机とは反対側の位置に移動。封筒にはさみを入れます。

 はたして封じ手は何なのか。

 これほどドキドキしながら封じ手開封の瞬間を待つことは、かつてあったでしょうか。中田八段が広げた封じ手用紙には・・・!

 そこには多くの人が期待していたところに赤ペンで丸が書かれ、矢印が引かれていました。

「封じ手は藤井棋聖、△8七同飛成」

 中田八段が符号を読み上げます。中継画面の向こう側から喝采を叫んだ方も多いのではないでしょうか。「成」という選択があるので、用紙には符号でも「△8七同飛成」と記されています。

 カメラのシャッター音が鳴り響く中、藤井挑戦者はゆったりとした動作で銀を駒台に置き、飛車を成り込みました。

 何度か大きくうなずく木村王位。やはり覚悟はしていたのでしょう。

 なんという鮮烈な一手・・・! 満天下のファンが固唾をのんで見守る中、将棋界の若き天才は、またもや歴史に残る一手を放ちました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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