「iPhone」には医学に役立つ機能が盛りだくさん、世界中のiPhone利用し患者データ集める試み
米アップルは、「iPhone」を使って医学・医療の研究を支援する仕組みを用意すると、発表した。これは同社が3月9日に米サンフランシスコで開催したイベントで「Apple Watch」の詳細情報と併せて明らかにしたもの。
「数億台のiPhoneを医学研究に活用する」
同社によると、現在の医学・医療の研究調査は、広範におよぶ患者のデータを集めるのが困難という状況にある。
そうした中、iPhoneは世界中で数億台が利用されている。
iPhoneを持つ世界中の患者に協力してもらい、これまでとは比較にならない規模のデータを集めることができれば、医師や科学者の研究に役立ち、医学の進歩に貢献できるとしている。
アップルはこれを実現するために、「ResearchKit(リサーチキット)」と呼ぶ、ソフトウエアツールを今年4月に公開する。
医学・医療機関などはこれを使って、患者の活動や症状、健康状態を測定・調査するiPhone用アプリを作成できるようになる。
世界最大規模のパーキンソン病調査
アップルは、すでに複数の医学・医療機関と協力しており、前述のイベント当日にiPhone向けアプリを公開した。その中には、米ロチェスター大学と米国の生物工学研究所、セージ・バイオネットワークスが開発した「mPower」と呼ぶパーキンソン病研究のアプリがある。
このアプリは、記憶ゲームや、指のタッピング運動テスト、発話テスト、歩行・バランステストなどを通じて患者から身体活動のデータを収集する。
例えば指のタッピングテストでは、iPhoneの画面上で2本の指をできるだけ速く交互にタップする動作を20秒間続ける。発話テストでは、iPhoneに向かって「アーー」という声をできるだけ長く出す。歩行・バランステストでは、iPhoneを持って20歩歩く。
こうしたデータは、iPhoneに備わるマイクや、加速度センサー、ジャイロスコープ、GPSセンサーを使って記録する。
これらをほかの参加患者のものと組み合わせることで、パーキンソン病の調査は世界最大かつ最も包括的なものになると、アップルは説明している。
なお同社によると、これらのデータを同社が見ることはないという。またユーザーはどの研究に参加するか、データがどのように共有されるかを自分の意思で決められるという。
医療分野のクラウドソーシング
このほか、ResearchKitは、すでにiPhoneに備わる、医療・健康管理用の各種アプリを連携させる仕組み「HealthKit(ヘルスキット)」からもデータを得ることができる。これにより、体重、血圧、血糖値、ぜんそく用吸入器の使用といった、各種医療機器からのデータも活用できる。
アップルはこのほかの医学・医療機関とも協力しており、すでに、ぜんそく、乳がん、心血管疾患、糖尿病の研究調査用iPhoneアプリも開発。これらも9日のイベント当日に米国で公開を始めた。
米テッククランチの報道によると、アップルは研究機関などがら現在の医学研究における課題について学んだという。
その最大の難題は、調査対象者の募集。これまでは、紙のチラシを大学のキャンパスなどで配り、参加を募るという方法がとられてきた。だがこの方法ではサンプルとなるデータが少なく、地域も限定されるため、世界の患者を対象とする研究には適さないという。
米メディアによると、この取り組みは、医療分野のクラウドソーシングと言えるという。またテッククランチの記事は、これはアップルによる勇猛果敢な取り組みだと伝えている。
ResearchKitを成功させるには、しばらく時間がかかるだろうが、もし多くの科学者が採用すれば、医学分野の大規模研究が、これまにないほど容易になると、記事は指摘している。
(JBpress:2015年3月11日号に掲載)