種子島宇宙センターに姿を現した新型ロケット「H3」
2021年度に1号機の打ち上げを予定している新型ロケット、「H3」がJAXA 種子島宇宙センターの射点に姿を現した。2021年3月17日~18日の日程で、JAXAと三菱重工業は衛星を搭載して打ち上げる前に完成した機体を射点に立てて推進剤を充填し、エンジン点火直前までのリハーサルを行う「極低温点検」を実施している。17日朝は土砂降りの雨という悪条件ながら、H3は無事に組み立て棟から射点への移動を終えた。
H3は、JAXAと三菱重工業が2021年度からの運用開始を目指して開発を進める新型液体ロケット。2段式で全長63メートル、高度500キロメートルのSSO(太陽同期)軌道に4トン以上の打ち上げ能力を持つ。新型エンジンLE-9を第1段に2式備え、固体ロケットブースター2本/4本、またはLE-9を3式と固体ロケットブースターなしの3形態がある。2014年に開発を開始し、エンジン、機体ともに新型のロケット開発はおよそ20年ぶりとなる。開発当初の目標では、2020年度中に試験機1号機に地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」を搭載し初打ち上げを行う予定だったが、2020年10月にエンジンの不具合から打ち上げ時期の延期が発表されていた。
2021年1月、三菱重工の工場で1号機の機体が完成、1月末には種子島に輸送され、JAXA種子島宇宙センターで機体の組み立て、衛星を搭載するフェアリング部分や固体ロケットブースターの取り付けなどが行われた。3月に実施される極低温点検は、H3-22Lと呼ばれる第1段エンジン2式、固体ロケットブースター2本、長型フェアリングの組み合わせで行われる。
2日間で行われる点検作業では、機体と射点設備を組み合わせ、打上げまでの作業や手順を実際の打ち上げを模擬して確認する。ロケット全体を整備組み立て棟(VAB)から射点まで移動させ、電気ケーブルや配管を接続し、推進薬などの充填を行って天候の観測と飛行プログラムへの反映、カウントダウンの機能などの作業が行われる。打ち上げカウントダウンは2回あり、1回目ではLE-9エンジン着火直前(X-6.9秒)までの確認を行う。2回目では、1号機の衛星とは異なるタイプの衛星に合わせて2段推進薬を減らした状態にして再カウントダウンを行う。ロケットと追尾局との通信も本番同様に行われる。
実際の試験機1号機打ち上げでは、衛星に合わせてフェアリングが塗装を施していない黒い試験用のタイプから、塗装された短いタイプに変えられる。今回の点検は、フェアリング放てき試験で使われた通称「黒フェアリング」を取り付けられた珍しい姿が見られるチャンスとなった。また、外見からは判別できないが、LE-9エンジンも試験用のものとなっており、今後行われる1段実機型タンクステージ燃焼試験の際に実際の打ち上げと同じフライト用のエンジンが取り付けられる。
3月中に3回の延期を経て17日早朝に実施された機体の移動では、夜明け前から降り出した雨が激しくなり、土砂降りの中となった。移動発射台(ML5)に搭載された500トン近いロケットは、17日6時51分から7時36分まで45分かけてゆっくりと、VABから第2射点までの移動を終えた。17日日中は機体移動開始後の天候条件である1時間に15ミリ以下とはいえ、夜明け前に1時間近く屋外で待った後に見えた新型ロケットの姿はことのほか印象的だった。
この後、3月17日午後から18日にかけては、射点のロケットへ推進剤の充填や2回のカウントダウン作業が実施される予定だ。