アップル、モバイル決済サービスを拡大へ、5億人超の利用者アカウントを活用
米アップルが、スマートフォン「アイフォーン(iPhone)」などを使ったモバイル決済のサービスを拡大しようとしていると海外メディアが報じている。
米ウォールストリート・ジャーナルによると、同社のインターネットソフトウエア&サービス担当上級バイスプレジデントのエディー・キュー氏が、ここ最近モバイル決済業界の幹部と会い、新しい決済システムの展開について協議した。
またアップルで長らくオンラインストアを担当していた幹部、ジェニファー・ベイリー氏がこのほど決済ビジネス開発の担当者になった。アップルはこれに先立ち、業界で有名な5人以上の幹部に接触し、この役職について打診していた。
こうした動きはアップルが、同社製端末を利用した新決済システムの準備を進めていることを示しているとウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
現時点ではアップル取り扱い商品のみが対象
アップルでは現在、デジタル音楽や映画、アプリ、電子書籍などのコンテンツを「アイチューンズストア(iTunes Store)」で販売しているが、これらは主に「Apple ID」と呼ぶ同社の顧客アカウントに紐付けられたクレジットカードで決済している。
このほか同社は、直営の実店舗で、顧客がアイフォーンで商品パッケージのバーコードをスキャンすると、Apple ID に登録したクレジットカードで決済できるという仕組みをアクセサリー商品に導入している。これは同社が2011年に始めた「イージーペイ(EasyPay)」というセルフチェックアウトサービス。客はレジや店員を介すことなく自分で支払いを済ませられる。
だが、これらのモバイル決済はいずれも対象が同社の販売する製品に限られ、例えば衣料品の代金やタクシーの料金など、他社が取り扱う物品やサービスについては Apple ID で決済する仕組みがない。
ウォールストリート・ジャーナルの報道によると、アップルはほかの小売業者も利用できる大規模なモバイル決済プラットフォームを計画しているもようだ。
アイチューンズストアの登録ユーザー数は5億7500万人。また同社は過去5年間に約3億7500万台のアイフォーンを販売しており、2010年の初代機投入以来、約1億5500万台の「アイパッド(iPad)」を販売している。
米フォーレスターリサーチによると、アップルはこれらを活かすことができるが、まだ全体を結び付けるに至っていない「決済業界の眠れる巨人」。その可能性はとてつもなく大きいという。
店舗での買い物が便利になる「iBeacon」
そうした中、米アップルインサイダーは、アップルが最新のモバイル基本ソフト(OS)「iOS 7」に組み込んだ「アイビーコン(iBeacon)」という無線データ転送機能が新たなモバイル決済の基盤になりそうだと伝えている。
アイビーコンとは近距離無線通信規格ブルートゥース(Bluetooth)の省電力版である「ブルートゥース・ロー・エナジー(Bluetooth Low Energy)」を利用するデータ送受信機能。
例えば顧客が店に入ると、地図などの店内情報や、割り引きクーポンなどを受け取れる。またある商品に近づくと、その商品の写真、動画、価格、評価、ソーシャルメディアの情報などをスマートフォンに表示する。
店側はセンサー端末をあちらこちらに設置しておけば、細かな商品情報や特典を顧客に提供できるほか、店内の顧客の行動パターンを把握でき、マーケティングに利用できるという。
昨年12月の米テッククランチの報道によると、アップルはこのアイビーコンのサービスを米国254カ所の直営店で展開している。また米百貨店大手のメーシーズやJ.C.ペニーでもこの技術を使ったサービスの実験を行っている。
なお前述のアップルインサイダーは、アップルがモバイル決済技術に関する様々な特許を申請しており、最近のものには、安全な非接触決済システムに関する技術があると伝えている。
(JBpress:2014年1月28日号に掲載)