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ガキっぽいけど楽しげな男子の友情に、女子はいつも入れてもらえない。

渥美志保映画ライター

さて今回は【月イチ邦画】『セトウツミ』をご紹介します。『まほろ駅前多田便利軒』の大森立嗣監督の新作で、主演は若手実力派、『MOZU』の池松壮亮と、『ディストラクション・ベイビーズ』の菅田将暉、と聞いただけで「面白いに違いない!」と思えるこの作品、実は高校生を演じる二人が放課後に川っぺりで座ってグダグダと喋るだけ、という映画なのですが……どんな感じっていうのを、まずはこちらで。

面白いですねー。主人公は同じ高校に通う内海想(池松)と瀬戸小吉(菅田)。別にものすごーく仲がいい友達、というわけじゃないのですが、放課後の1時間半を毎日川っぺりのこの場所でグダグダとダベって過ごす仲間です。同じクラスですらない二人は、似たところがないどころか、ありとあらゆることが正反対。お金持ちの息子である内海は頭が良くて理屈っぽい“突っ込み”型のこじらせ系。もろ大阪の庶民という感じの家庭に生まれた瀬戸は、頭はそれほど良くない元サッカー部で、“ボケ”型のわかりやすいお調子者。映画はこの二人が過ごす8つの放課後を、季節ごとの短編にして描いてゆきます。

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当然のことながら作品の面白さは池松&菅田の会話にかかっているわけですが、このふたりがもう上手すぎ。テンポといい間といい絶妙です。大森監督は「掛け合い漫才にならないように」と注意しながら演技させたそうですが、それ大正解。もしそうなっていたら飽きちゃうところですが、思ったことは全部そのまま口に出して何一つ後を引かない愛すべきバカ=瀬戸と、クールな顔してらそんな瀬戸を結構好きなこじらせ=内海という、ふたりのキャラの違いでうまく緩急をつけ、「ダレず疲れず飽きず」の会話で観客を上手くひきつけます。

会話の脚本もすごく上手い。相手の話の本筋とは違うところをきっかけに全く違う話にジャンプする、散漫で断片的で何ひとつ完結しない若い子の会話がリアルに再現されているんですが、その中にふたりの境遇が何気なく差し挟まれていきます。どっちの家庭もそれなりの問題を抱えているし、高校生らしい焦りや行き詰まり感も端々に感じさせるのですが、ふたりともそこには突っ込んでいきません。だから決してウェットにはならないんだけど、彼らの人生の痛みは遠くのほうでチクっと観客の胸を刺します。

そうした状況がなんとなくわかったところで描かれる第4話――これは物語的には「第0話」で高校に入ったばかりの二人の出会いを描いたもの――が、映画全体をすごーく締めています。ここまで瀬戸の“愛すべきバカキャラ”、「菅田君かわい~!」で引っ張ってきた物語は、ここで内海の抱える鬱屈へと舵を切ります。

周囲のすべてをバカにしていたこじらせ内海は、いろんな人に「(面白くないのは)参加してへんからや」と言われることにうんざりしているのですが、そこに「期待の新人」と言われながらサッカー部をやめるハメになった瀬戸が現れます。共通点がないと思っていた二人は、“いわゆる青春”に参加しないという点ですごく結びついているんですね。彼らの青春はまるで不発に終わる花火のようなしょぼさなんですが、それでも出来上がってゆく二人の関係、特にしまいには瀬戸の駄々に付き合ってらしからぬ行動を取り始める内海の変貌がおかしくて可愛くて、まるで恋人同士っていう感じ。中条あやみ演じる、瀬戸の憧れの人にして内海を思うマドンナ「樫村さん」が、二人の仲良しぶりにイライラするのもおかしいんですが、こういう女子お断りの男子同士の友情って、実は女子の大好物なんですよね~。

瀬戸のアホな格好を、しまいいは内海がするハメに
瀬戸のアホな格好を、しまいいは内海がするハメに

第4話のラストで、川っぺリの階段に座る瀬戸の隣に、内海が初めて自ら座る場面がすごく象徴的なのは、二人が全然別の方向を向いていること。たまたまこの時代に出会い、たまたまやることがなく、たまたま同じ場所に座っただけのふたりは、高校を出たら全然別の人生を歩むことは明白です。「いつまでも夏休みが続けばいいのに」という内海の言葉が切ないのは、そうした無邪気な時代の終わりを内海自身が知っているから。喜びにも悲しみにも熱くなれない世代の諦念をそこに感じてしまうのは、私が彼らよりもずっと無邪気な時代を生きた世代だからなのかもしれません。

特報は全部で3本。番外編みたいな感じでお楽しみください~。

『セトウツミ』

7月2日公開

公式サイト

(C)此元和津也(別冊少年チャンピオン)2013 (C)2016 映画「セトウツミ」製作委員会

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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