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独立リーグからメジャーへ。元ドラ1、北方悠誠(栃木ゴールデンブレーブス)、移籍前インタビュー

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ドジャースとの契約を間近に控えていた北方悠誠(栃木ゴールデンブレーブス)

 先日来報道されていた元横浜ベイスターズのドラ1・北方悠誠投手のロサンゼルス・ドジャースとのマイナー契約が正式に結ばれることになった。北方は2011年秋のドラフトで1位指名を受け、佐賀県の唐津商業高校から横浜ベイスターズ(現DeNA)に入団。しかし、一軍登板することなく3年で自由契約を申し渡される。そのオフにNPB合同トライアウトを受け、その速球に目を付けたソフトバンクが翌春のキャンプでのテストを経て獲得したものの、ここでも制球難は解消されず、3軍での登板のみで2度目の戦力外通告を受けた。

 そして、2015年からは独立リーグでプレーを始めたが、ここでも実に3度の事実上の戦力外通告を受け、今シーズンはルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスで開幕を迎えていた。

 今シーズンはリリーフとしてここまで9試合に登板、9イニングで奪三振13、与四死球10で1勝2セーブ、防御率2.00という成績。四球はやはり多いものの、ドジャースのスカウトの前で100マイル(161キロ)をたたき出していた。

 ゴールデンウィーク中の5月2日、対茨城アストロプラネッツ戦後にインタビューを行ったので、ここでその詳細を発表する。

ゴールデンウィーク中の試合後、インタビューに応じてくれた北方投手(茨城・岩井球場)
ゴールデンウィーク中の試合後、インタビューに応じてくれた北方投手(茨城・岩井球場)

――紆余曲折を経て、現在独立リーグでプレーということですけど、プロ(NPB)入りした時の自分の未来像というのはどんな感じだったんでしょうか?

「正直、自分ではプロで活躍するものだと思っていました。けれども、実際プロに入ってみたら、右も左もわからなかったですし、慣れていくのに時間がかかったと思います」

――そうですか。高校の時から野球雑誌にも取り上げられていたほどの注目株でドラフト1位入団、そこからNPBから離れることになったんですけれども、その原因は自分の中で一番はなんだったんだと思いますか?

「やっぱり、実力不足、技術不足だったと思います」

――でも、ドラフト1位でしたよね。実力はプロの基準をクリアしていたんじゃないですか?

「プロ入り時にはクリアしていたんだと思いますが、どんどん調子を悪くしていったような感じですね」

――その調子が悪くなるっていうのは…

「やっぱり、結果を求めていくにつれて、なんて言うんですかね。自分(の思うプレー)とのギャップが生じて結果が出なくなっていったっていうか…」

――プロ入りの時はやはり1位入団ですから、未来予想図は広がっていたと思うんですよ。それが「あれっ?」って感じ始めたのはいつ頃なんでしょうか?

「そうですね。3年目ですね。DeNAをクビになった年です」

――その年はもうシーズン初めから調子が悪かったんでしょうか。

「いえ、あの年はキャンプも一軍で、今年はいくぞって感じだったんですけど、求められるところを意識しすぎてと言いますか…。コントロールだったんですけど、それを意識しすぎて、チャンスを逃していった感じですね」

――それは、高校レベルのコントロールではプロで通じなかったのか、プロ入り後にコントロールを崩していったのかどちらだったんですか?

「プロに入ってストライクゾーンが狭くなったのはあったと思います」

――やっぱり狭いんですか?よく聞きますけど。

「全然違いますね」

――どれくらい違うんですか?

「だいたい高校だったら、バッターボックスのラインくらいまでとるんですけど、プロはベースの上をきちんととりますから」

――その部分って、プロに入ってすぐ気づいたんでしょうか?

「いえ。すぐには気づきませんでした。1年くらいたってからですね」

――ということは、プロ入りして投げてみてすぐに「ストライクゾーンがからいな」という風には思わなかったんですね。

「そういう風には思わなかったです」

――それが、だんだんボールが多くなってきて自分でも気になってきて、バランスも悪くなってきて、ゾーンも気になってきたということですか。

「そうですね」

――じゃあ、制球力自体は高校時とそんなに変わらなかったんでしょうか。それがメンタル的に追い込まれて悪くなっていったというか。

「うーん。高校の時より悪くなったと思います」

――今、阪神の藤浪投手が制球難をよく言われていますよね。同じような感じなんでしょうか。

「そうですね。そこ(コントロール)ばかり言われるとそうなりますね。高校の時はがむしゃらに投げていたんですけど、それが消えていってしまって、小さくなってしまいました」

――よくそういうピッチャーに対して、「気にせずに投げればいいじゃん」っていう声があがりますよね。でもやはりそういうわけにはいかない?

「今はそういう気持ちで投げているんですけど、当時は、結果もありますし。いろんなことが重なって…」

――それはもう練習の時点でうまく投げられないということなんでしょうか?あるいはマウンド上で制球が悪くなるということなんでしょうか?

「マウンドでですね」

――いわゆるイップスっていうことでしょうか?

「いえ、僕の中ではイップスというより、フォームを乱したという方が正しいかなと思います。指先の感覚はあったんで」

――ではキャッチボールができないなんてことはなかったんですね。

「はい、フォームが崩れて、同じところでボールを離せていないという感じでした」

――それで、ソフトバンクへ移籍して、そこでも戦力外になりましたが、それでも、ご自分ではまだできると思ったので独立リーグに進んだ…。

「はい、自信があったんで。野球続けたかったんで」

――しかし、独立リーグでも頻繁にチームをかわっていますね。

「一番最初のチームの群馬ダイヤモンドペガサスはクビになったんですけど、次の四国アイランドリーグplusの愛媛マンダリンパイレーツでは野手転向を告げられたんです。でもピッチャーを続けたかったんで、去年はBCリーグに戻って信濃グランセローズでプレーしました。でもシーズン後、来年は練習生契約だと言われたんで、移籍することにしました。僕には時間がないんで。シーズン前半で結果を出して、スカウトに見てもらわないとダメだって思っていたので、前から声をかけてもらっていた栃木にお世話になることにしました」

――メジャーからもスカウトが来ていると聞いたんですが、アメリカでプレーは考えているんでしょうか?

「はい。上のレベルでできるんだったらどこでも行きたいです」

――それで今年はだいぶ調子が良くなってきたと聞いていますが。球速も伸びたんですね。

「そうです。去年も159キロ出たんですけど、今年はコンスタントに150キロ代後半出ています」

――それはなにかあったんですか?

「投げていて年々自信がついてきたし、今年は出番が多いというのもあります。いいところで使っていただいてますし。去年は投げさせてもらえない時期がありましたから」

――それはやっぱり信頼されているっていうところから自信が湧いてきたってことでしょうか?

「そうですね。あとは冬場しっかりやってきたってことも自信になりました。基本、休むことなくトレーニングを続けてきました。正月だけは5日ほど帰りましたが、あとはずっと栃木に残ってやってました。チームのトレーナーと相談して、自分でトレーニングを続けてきました」

――とくに気をつけたことと、ポイントとかはあったんでしょうか?

「いえそれはないです。とにかくさぼらずにやろうと。シーズン入ってから後悔したくなかったんで。続けたことが自信につながっているんだと思います」

――今はもうストライクゾーンが怖いとか気になるということは?

「なにも気にならないです。逆にストライクゾーンを広く使えていると思います。ファールを打たせたりもできているんで」

――そうなると、今までストライクとるのに汲々としていた自分に言いたいこととかはありますか。

「いえ、そういう自分があったから今があるんじゃないかと思います」

――今はもう上のレベルでやっていきたいという思いでしょうか?

「そうですね。今ここでしっかり結果を残して、上に進みたいと思います」

――仮にメジャー球団から声がかかったら行きますか?

「もちろんです。とにかく上のレベルでやりたいですから。後悔のないようにやりたいです」

試合中、チームメイトをベンチ前で出迎える北方
試合中、チームメイトをベンチ前で出迎える北方

 ちなみに私の手元には、彼がドラフト指名直後に残したサインボールがある。野球ライターの集まりでいただいたものなのだが、今改めて見ると、まだ高校生だった北方は、白球に丁寧な文字で高校名と自分の名を書いている。インタビューの際、この話をすると彼は懐かしそうに照れ笑いを浮かべた。インタビュー後、今一度サインをもらうと、プロ選手らしい崩し字になっていた。アメリカでは、彼はどんなサインをファンにするのだろうか。ベースボールカードにペンを走らせ、横文字の「KITAGATA」の筆記体を残す彼の姿が今から目に浮かぶ。

プロ入り前の北方のサインボール。高校生らしさがにじみ出ている
プロ入り前の北方のサインボール。高校生らしさがにじみ出ている

 北方は渡米の準備などで5月中は日本で調整。月末30日に所属球団である栃木ゴールデンブレーブスの監督・寺内崇幸、球団代表とともに球団事務所で移籍記者会見に臨む。

(写真はすべて筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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