「春節こそ故郷の味を……」 新型コロナで帰省できない中国人が気づいたこと
今日は中国の春節(旧正月)で元日(中国語で初一という)に当たる。春節といえば、帰省して家族とともにお正月を迎えるのが中国人の習わしだが、今年は新型コロナの影響で、政府により「帰省自粛」を呼び掛けられ、PCR検査の陰性証明などを求められた結果、最終的に帰省を断念した人が多かった。家族を重視する中国人の伝統としては“異例の事態”だ。
そんな、お正月を一人で過ごさなければならない人のために、今年、都市部のスーパーでは1人用の年越し料理セットや故郷の味セットが販売されるという試みがなされた。
年越し料理とは、中国語で「年夜飯(ニエンイエファン)」と呼ばれるもので、大みそかの夜、食卓に並べるご馳走のことだ。近年、中国人のライフスタイルは大きく変化しているが、それでも、これを食べることを重視する中国人はとても多く、大みそかに一家揃って「年夜飯」を食べ、中国の紅白歌合戦のような「春節聯歓晩会」という特別番組を見ることが定番だ。
「年夜飯」のメニューは地方によってさまざまで、日本の「おせち料理」のように細かな決まりや形式はない。一般的には餃子(昔のお金の形をしているので縁起がいいといわれる)を食べることが最も多いといわれており、一家総出で餃子を包む人が多いが、近年は餃子だけにこだわらず、ほかに魚料理(中国語で「魚」は「余」と同じ発音で「余裕がある」というよい意味につながる)やエビやカニなどを使った海鮮料理、肉料理、野菜料理、家族が好きな料理、スープなどを10品ほど並べる。
この料理作りのため「大みそかは朝から年夜飯づくりで、クタクタになってしまう」という母親も多い。そういう意味では、かつての日本人と同じだ。私が参加している中国のSNSでも、多くの中国人がおいしそうな年夜飯の写真を投稿し、一家だんらんを楽しんでいた。
しかし、一人で年夜飯を食べなければならない中国人はどうしたのか?
故郷に帰れないからこそ、故郷を想う
中国のサイトを見ると「今年の年夜飯、一体、一人で何を食べるべきだというのか?」「一人の年越し、さて、どうする!?」「一人で食べる年夜飯のおススメメニュー」といったタイトルの記事がいくつもあり、記事にはこんなことが書いてあった。
友人の家に行って、とにかく、誰かと一緒に過ごしましょう。
デリバリーで料理を注文して食べましょう。
自分で簡単な麺料理でも作って食べましょう。
オンラインで家族の顔を見ながら料理を食べ、一緒に食べているような気分になりましょう。
どれも味気ないものだが、「コロナ禍で今年は特別な年だ」と中国人自身が自覚しており、やむを得ない。中国の有名な火鍋チェーン店では、家族とオンラインで一緒に火鍋を食べている気分になれるよう、少人数でも火鍋を楽しめるセットを発売したという報道もあった。中国ではコロナ禍でも、日本のように「オンライン飲み会」をやる人は多くはなかったが、さすがに一人で過ごす春節は「オンラインでもいいから、一緒に食事を……」と切実に思う人もいたようだ。
とくに一人で過ごす中国人がこの時期に求めるものは、やはり「故郷の味」だ。
前述したように、スーパーには、以前はなかった「故郷の味セット」というレトルト食品が並べられた。価格は100元(約1600円)前後のもので、温めるだけでOKというパックだ。中国の報道によると、売上高は前年の5倍になっているというが、ネットの声を拾ってみると「本場と違ってあまり美味しくないので、これなら食べないほうがまし」という厳しい意見や、「こういうものでも、やはり、少しでも故郷の味がするので、買って食べてみたい」という意見があり、賛否両論だった。
中国は広大なだけあって、各地方には、それぞれ独特の食べ物があり、日本ではほとんど知られていないものもある。昨年、新型コロナで話題となった武漢には、他の都市ではほとんど食べられない「熱乾麺」という地元の名物料理があるし、雲南省には「過橋米線」というコメで作った麺料理があり、これらの料理は、北京や上海などでは、専門店以外ではほとんど見かけない。その地方ならではの独特な料理だ。
それにもちろん、母親が作った料理はオンリーワンの特別なものだ。母親の料理はスーパーでは売っていないし、デリバリーもできない。近年では「結婚を強く勧められたり、日常生活について干渉されて面倒くさいから、お正月に故郷に帰りたくない」という若者が多かったが、コロナ禍でいざ「帰省できない」となってみると、やはり故郷は恋しいものだ。
新型コロナによって、日本でも「今まで当たり前だと思っていたことが幸せだった」と気がついた人が多かったが、コロナ禍の中国でも、今、同じように実感している人は多いに違いない。