南北と中露が佐渡島の金山世界遺産登録阻止で「日本包囲」
新潟県・佐渡島の金山を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録する問題を巡って日韓が火花を散らしている。
韓国政府は「韓国人が戦時中に徴用されていた場所が世界遺産に登録されるのは容認できない」と日本に撤回を求めているが、日本は登録時期を「1603~1867年」の江戸時代に設定していることや強制連行を否認していることから韓国のクレームを受け付けない方針でいる。
今月1日に遺産登録を公式推薦した日本政府は早速、登録に向け、外務省アジア大洋州局長を務めた滝崎成樹官房副長官補をトップに外務省、文部科学省、文化庁などの局長級が参加するタスクフォース(作業部会)を設置し、すでに2度会合を開いている。事務方の専属チームも立ち上げたようだ。
対抗する韓国政府もまた、官民合同のタスクフォースを設置し、4日に初会議を開いていた。ユネスコの大使を団長に外交部、文化体育観光部、行政安全部、教育部、文化財庁、海外文化広報院、国家記録院など7つの部署の担当者に加え、強制動員被害者支援財団や東北アジア歴史財団、ユネスコ韓国委員会の3つの公共機関の長が参加していた。今後、民間から日韓関係や徴用工問題に精通している専門家ら10人も加わるようだ。
佐渡島の金山の登録は来年6月に開催される世界遺産委員会で可否が決まるが、それまでの間、イコモス(国際記念物遺跡会議)による佐渡への専門家派遣、現地調査、書類審査、報告書作成などの手続きを得なければならない。
登録は通常ではコンセンサス(全員一致)が基本である。イコモスが登録を勧告すれば、ほぼ例外なく登録されることになる。しかし、1か国でも反対する国があれば、世界遺産委員会での投票で決まる。世界遺産委員会のメンバーは21か国だが、3分の2の支持が得られれば、登録される。
韓国は文在寅(ムン・ジェイン)大統領までが岸田政権の登録推薦を「遺憾」と発言したことからも明らかなように推薦期間を江戸時代に限定していても「その後に強制労働が行われた歴史を隠すための戦略である」として、負の歴史に関して十分な説明をせず、登録をするのは「一部ではなく、全体の歴史を知らせる必要がある」とする世界遺産の根本的な趣旨に合わないと、阻止する構えだ。
(参考資料:韓国メディアが日本の佐渡金山世界遺産推薦を一斉に批判! 進歩・保守紙問わず「断固阻止」の論陣!)
これから日韓は「外交戦」を展開することになるが、近隣諸国の中国、ロシア、そして北朝鮮が早くも韓国の支持に回っていることから日本は序盤から不利な戦いを強いられることになりそうだ。
中国は2015年の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の時にも反対に回っていたが、今回もまた「強制労働は日本の軍国主義が対外侵略と植民地統治期間に犯した深刻な犯罪で、怒りを買うことになるだろう」(外交部報道官)と韓国の主張に同調し、批判の声を上げていた。
ユネスコにおける中国の影響力は無視できない。日本はユネスコへの拠出金(分担金)は加盟国の中では2番目に多く、10位の韓国を圧倒しているが、日本を上回っているのが他ならぬ中国である。ちなみに、中国は第44回世界遺産員会の議長国でもある。
ロシアも外務省報道官が一昨日(9日)の会見で「軍国日本は植民地にした領土の人たちに金鉱できつい労働をさせた」と述べた上で「ロシアは韓国側の反応を理解する」として、「政治化された事案はユネスコの議題から除外する必要がある」と強調していた。
世界遺産委員会の来年の開催地はロシアのカザン(6月19-30日)である。ロシアが次期議長国であることを考えると、これまた日本にとっては不利である。
そして、北朝鮮である。韓国とは冷却な関係が続いているが、対日批判では韓国よりも痛烈で、非妥協的ある。
北朝鮮は1月3日に韓国向け宣伝用ウェブサイト「わが民族同士」が韓国や日本の市民団体などによる批判を紹介する形でこの問題を初めて取り上げていたが、日本政府が1日に遺産登録を申請すると、4日後の5日に無所属紙「統一新報」を通じて「血涙と死の苦役の場を登録するのは人類に対するもう一つの犯罪だ」と主張し、推薦を非難していた。
さらに9日には外務省がホームページで「過酷な労働に倒れた朝鮮人民に対する耐え難い冒涜だ」と批判し、「佐渡島の金山は絶対に世界文化遺産になり得ない」として「日本の名誉は過去の侵略や犯罪を誠実に反省し謝罪することにある」と日本に注文を付けていた。
北朝鮮はユネスコの本部が置いてあるフランスとは国交はないが、ユネスコに代表部を置いている。
韓国と北朝鮮に中国とロシアが加わった「4か国連合」が佐渡島・金山の世界遺産登録の阻止に向け共闘するかどうかは不明だが、日本にとっては厳しい船出となったようだ。