F12016年総合優勝ニコ・ロスベルク現役引退本当の理由 キャリアよりも大切にしたいこと
2016年のF1総合優勝を遂げたニコ・ロスベルク(メルセデスベンツ)はタイトル初獲得から5日後の12月2日に現役引退を表明し、世界中のファンを驚かせた。
11月28日、2016年F1世界チャンピオンタイトルを手にしたロスベルクは、「父(ケケ・ロスベルク・1982年のF1チャンピオン)と同じ世界王者になりたい」と言う子どもの頃からの夢を達成した。そしてF1参戦11年目でレーサー現役生活にピリオドを打った。
2018年までの契約を解消してまでもロスベルクが大切にしたいこととは何だったのだろうか。
優勝の栄冠は妻と娘に捧げたい
ドイツモータースポーツのインタビュー(12月8日)によると、ロスベルクは「今回のチャンピオンタイトルは妻と娘に捧げたい」と胸のうちを明かした。
「僕が優勝できたのは、ひとえに妻ヴィヴィアンと家族の限りない支援があったから。連日、練習や海外レースで不在が多かった。特に、今年はヴィヴィアンにすべてを任せ、僕は今まで以上にレースに没頭した。
家族生活のなかでも諦めなければならない事がたくさんあった。多くの犠牲の上でこの栄冠を勝ち取った。ヴィヴィアンには言葉でいいつくせないほど感謝している。引退理由は家族への愛といってもいい」とロスベルクは本心をほのめかした。
優勝後、ロスベルクがドイツ国内ではじめて訪問した都市は出身地ウィースバーデン(ヘッセン州・州都)だった。同市スヴェン・ゲーリヒ市長は、フェイスブックでロスベルクにウィースバーデンへ来て欲しいとメッセージを送った。
これに対しロスベルクは、招待を快諾したものの、「市長がフェイスブックを通して打診?もしかしたら、いたずらか冗談?」と一瞬思い、自ら市長へ電話を入れ確認したという。
ゲーリヒ市長も、「本当にロスベルクがウィースバーデンに来てくれるのか。間違いなのでは?」と、疑心暗鬼だったと打ち明けた。
11月30日ウィースバーデン入りしたロスベルクは、会見でこう語った。
「チャンピオンになったことで頂点に立てた。だが、僕はもっともっと優勝したいというタイプではない。引退は自分の直感に従った決断。これからは夫として父(2015年誕生の娘)として、家族との時間を大切にしたい」ときっぱり言い張るロスベルクだ。
「娘が生まれて、僕の人生観は変わった。初めて父親になって、今までとは全く違った視点で物事を見るようになった。家族を持ったことで、人生で本当に重要なのは何かを考えさせられた」
と同時に、ロスベルクはウィースバーデンの会見会場ホテル・ナッサウアホフに駆けつけた彼の両親にも「これまで僕を支えてくれて、本当に有難う、ママとパパのおかげで総合優勝が現実のものとなった」と感謝の言葉を述べた。
「アブダビの最終レースは僕のキャリアの中で一番困難なレースだった。二度と同じレースは走りたくないくらいだ。レースは、最後の二周が勝敗の分け目だった。
この一年間積み重ねてきたこと、家族はもちろんのことチームやファンの支援が実を結ぶか、あるいはすべてが泡となって消え去ってしまうのか、僕はこの二周にすべてをかけた。総合優勝が確実になった瞬間は、言葉では言い表せないほど感動的だった」
批判するニキ・ラウダ
メルセデス・ベンツでロスベルクを支えてきたニキ・ラウダも突然の引退表明に驚いた一人だ。
「引退の意向は聞いていたが、発表のタイミングが悪い。僕に何の予告もなかったし、優勝後まもなく引退表明するとは想像もしなかった。二コの契約は2018年まである。僕だったらクリスマスまで引退発言は控えていた」と批判的なラウダだ。
ロスベルクのメンターとして支援してきただけに、ラウダはショックを隠せない。
これに対してロスベルクは「ニキはなぜ批判しているのか、よくわからない。きっと誤解があるに違いない。引退決断についてはまずチームシェフのトト・ウォルフに報告した。
僕自身は、ニキの言うようにクリスマスが終わるまで時間を置いて発表したかった。でも、チームの今後を思うと後継者探しや組織内での対応もあることだし、引退発表を先送りすることは出来なかった。チームを配慮したからこそ、アブダビ最終レースの後でというタイミングで発表した」
その後、ロスベルクは「ニキの批判について、メディアの伝えたことはほんのごく一部。僕はニキと時間をかけて充分話しあった」とも説明した。
引退は勇気ある決断
同じドイツ出身F1レーサーのセバスチャン・フェッテル(29歳)は、ロスベルクの引退表明に対し、こんな感想を寄せている。
「人生は一度だけ。自分の人生をどう過ごすのかは本人が決めることだ。二コの決断に尊敬するのみ」
また、フェッテルは自身が2010年初の総合優勝を遂げた時、ロスベルクとは違う思いだったと当時を振り返る。
「僕はあの頃、もっともっと走りたいという気持ちで一杯だった。僕はレース出場が大好きだし、チーム全体との連携(レッドブル・2009年ー2014年)もすべて上手くいっていた。二コの引退発言は、勇気ある決断。世界チャンピオンになったからには、引き続きレーサーとして活躍する方が簡単だったと思うから」
ロスベルクF1復帰はあるのか
父親ケケ・ロスベルクは1982年のF1チャンピオン。今回総合優勝を遂げた息子の快挙に、「自分が優勝したときよりも嬉しい」と、熱く語った。
「ここまで来るのに長い道のりだった。この勝利はニコのキャリア上での重要なマイルストーン」と、父親は息子の将来を楽しみにしていた。
息子二コの引退表明を両親がどう受け止めたのかはいまのところ不明だ。
ニキ・ラウダは、ロスベルクの電撃引退を批判していたが、実はF1レーサーだったラウダ自身も1979年に引退した。当時、ラウダは「サーキットをぐるぐる回るのは飽きた」と漏らした。そのラウダも引退から2年半後に現役復帰した。
「復帰はありえない」と断言するロスベルクは、「何らかの形でスポーツに関わる仕事をしたい」と言う。これが現時点での正直な気持ちのようだ。
「とにかく今は、家族との時間を満喫してほしい。しかし、数年後にはF1 レーサーとして復帰することもあるかもしれない」と言う声もドイツスポーツ業界ではあがっている。
お金では買えない大切なもの
どんなスポーツでも危険はつきものだ。まして時速300キロメートル以上で走行するF1レーサーはいつも大きなリスクに直面している。それを影で支えてきたロズベルクの妻ヴィヴィアンは毎回どんな思いでレースが無事に終わるのを心待ちにしていたか。
ロスベルクのメルセデスベンツとの契約は2018年までだった。ひとシーズン2200万ユーロ、2018年まで4400万ユーロ(52億8000万円・1ユーロ120円で換算)の契約金が懐に入るはずだった。
だが、お金では買えないものもある。大金を棒に振ってでも、妻と娘との時間を大切にしたいと考えたロスベルクは引退し、家族を選んだ。
ドイツのクリスマス(24日から26日)は家族が集まる特別なイベント。今年のクリスマスは、ロスベルクもスケジュールを気にすることなく、家族や大切な人たちと特別な時間を過ごすに違いない。