差し押さえ危機の農場にキャバレーですと!? 崖っぷち酪農家の挑戦は、私たちに何を伝えるか。
リスクを取らなければ負けたまま。
行動を起こさなければ始まらない。
経営難で差し押さえの危機に直面した酪農家が、農場の納屋を改装してキャバレーの開業を目指す。フランスの田舎町で大胆な挑戦を成功させたダヴィッド・コーメット氏の実話をもとにした『ショータイム!』。のどかな田舎町にキャバレーを作るなんて住人の反対に遭いそうだし、そもそも農場キャバレーで披露されるパフォーマンスも素人レベルな気がする…。
しかし、この映画はそんな失礼な先入観を吹き飛ばし、元気をくれるのだ。ハートフルなドラマを撮ったジャン=ピエール・アメリス監督に話を聞いた。
実際のコーメット氏は家族の猛反対に遭ったそうだが、本作では昔気質の祖父以外は友人たちも協力的。元妻レティシア(ベランジェール・クリエフ)がダヴィッド(アルバン・イワノフ)とキャバレーの妖艶なアーティストのボニー(サブリナ・ウアザニ)との関係を気にしつつ、協力を申し出たりする人間関係も微笑ましい。
しかし、エンドロールに実際のコーメット氏と子供たちの姿が映し出されるように、実際のコーメット夫妻は円満だそう。この脚色にはフランスの酪農家に限らず、世界各国で食の生産者たちが直面する厳しい現実も映し出されている。
「実際のダヴィッドさんの人生をリスペクトしながら、主人公には私自身のパーソナルな思いを反映したと言えます。
農家のお嫁さんは非常に大変。1週間のうちの7日間まったく休みがないし、バカンスもいけない。もちろん経営やお金の問題にはいつも悩まされる。レティシアはそうした現実を映し出したキャラクターとして描いた面もある。
私は一見目立たない謙虚な人たちが、日常のヒーローであり、ヒロインだと思っていますし、これまでも一貫してそれを描いてきた。そして、人生でさまざまなことに傷ついたり、自分を見失ったりしているような人たちが、人との絆を取り戻していくという過程を描くのが好きなんですよね」
主人公のみならず登場人物の誰もに心惹かれるのは、監督のこの視線の賜物かも。
さらに、冒頭で触れたように、アーティストたちが繰り広げるパフォーマンスがこちらの先入観を吹き飛ばす魅力に溢れている。
クライマックスのショーのクオリティはもちろんのこと、ダヴィッドがアーティストたちをスカウトする過程や開業に向けての稽古風景まで見入ってしまうのだ。
「そもそも実際のダヴィッドさんのキャバレーが、素晴らしいパフォーマンスを提供しているんです。皆さん最初は、農場のキャバレーなんて大したことないだろうという先入観があるんですが、トゥールーズの彼の農場に行くと驚く。この作品自体が、そういう先入観を覆す物語。
ダンスシーンやショーを撮るのは楽しいの一言に尽きました。もちろん何度もリハーサルを重ねましたが、アーティスト役のキャストは才能豊かな人揃い。
たとえば、歌手ドミニク役のフィリップ・ベナムは、実際にフランスのキャバレーで非常に人気のある方ですし、ボニー役のサブリナ・ウアザニは実際にダンスもできる方。パフォーマンス経験のある人たちが揃ったからこそ可能だったんです」
奇跡のような実話の映画化だが、撮影中に監督自身が奇跡のようなマジックを感じた瞬間もあったそう。
「そういう意味では、子牛が生まれるシーンですね。脚本を書いている段階から子牛の誕生にアーティストがみんな立ち会っているシーンが頭にあって、撮れたらいいなと思っていたんですが、実現した。ダヴィッドが集めたアーティストたちは全員独り身で子供がいない。そうした人たちが、生命の誕生の場に立ち会うことによって感じる喜びや嬉しさを描けたんじゃないですかね」
本作が長編監督作13作目のアメリス監督。日本での劇場公開作は決して多くないが、本作を通して、日本の観客に伝わったらいいなと思うことを訊ねてみた。
「ずっと一人ぼっちで孤立したままでいるなと。その状態に甘んじているのではなくて、やっぱりリスクを取ることの大切さですかね。実際のダヴィッドさんも非常に大きなリスクを冒してキャバレーを開業した。リスクを取れば失うものもあるかもしれないけれど、リスクを取らなければ負けたまま。とにかく何か行動を起こさないと始まらない。それが一番訴えたいことです。
と同時に、人と一緒になって何かをやることの素晴らしさと、先入観や偏見を乗り越えること、そして信じることの大切さが届くといいですね」
(c)2021- ESCAZAL FILMS - TF1 STUDIO -APOLLO FILMS DISTRIBUTION - FRANCE3 CINEMA AUVERGNE - RHONE -ALPES CINEMA
『ショータイム!』
ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。全国順次公開。
配給:彩プロ