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薄い大気層の中に私たちの生活の全てがある 水平方向より鉛直方向の気圧差がはるかに大きい

饒村曜気象予報士
船舶の気圧計(ペイレスイメージズ/アフロ)

 人類が地球上で生活できるのは、地球に大気があるからです。大気の中で生きている私たちにとって、生活のすべては大気と密接な関係を持っています。

 気圧は大気の圧力のことで、空の遠く果てにある大気の上端から気圧を観測している高さまでの空間にある大気の重さである、ということもできます。

薄い大気層

 地球大気は地表に近い下層ほど空気は圧縮されていて密度が大きく、上層ほど空気は膨張して密度が小さくなっています。このため、高度が高くなるにつれ、それより上にある空気の量が少なくなります。

 どの位の割合かというと、約5キロ上昇するごとに気圧は約半分になります。

 たとえば上空5キロでは2分の1気圧、10キロでは4分の1気圧、15キロでは8分の1気圧と指数関数的に気圧が少なくなります(図1)。

図1 高度による気圧の変化
図1 高度による気圧の変化

 つまり、地球をとりまく空気の8分の7は、地表から15キロまでにあり、私たちが毎日気にかけている雨や雲も、地上からI5キロあたりまでで起こっている現象です。

 地球を直径1メートルの地球儀であると仮定すると、15キロの高さはたった1ミリの厚さに過ぎません。

鉛直方向の気圧差

 地表付近で、空気の密度と地球重力の加速度をもとに計算すると、高度が10m上下すると、約1ヘクトパスカル変化します。

 詳しく計算すると、気温が0度のときは、1.27ヘクトパスカル、気温が30度のときは1.14ヘクトパスカル変化します。温度が低い空気は、温度が高い空気に比べて密度が大きいので、上下するときの気圧差は若干大きくなります。

 いずれにしても、私たちのビルの出入りなどで鉛直方向に移動し、簡単に数ヘクトパスカルの変化を経験しています。

水平方向の気圧差

 冬には、シベリア大陸に1070ヘクトパスカル以上の高気圧が出現することがあり、日本の東海上で発達した低気圧との間に100へクトパスカルの気圧差となることがあります(図2)。

図2 西高東低の冬型の気圧配置の天気図(平成30年1月3日21時)
図2 西高東低の冬型の気圧配置の天気図(平成30年1月3日21時)

 「西高東低の気圧配置」と呼ばれる冬型の気圧配置で、日本付近は等圧線が混んで強い風が吹き、強い寒気が南下しますが、この100ヘクトパスカルの気圧差があるといっても、水平方向に4000キロ離れての気圧差です。

 割合を計算すると、1ヘクトパスカルの変化は、水平方向に40キロ離れることに相当します。

 つまり、鉛直方向に10メートルで経験する変化は、水平方向の気圧差が大きい場合であっても、40キロも移動しないと経験できない変化です。

 地球の大きさから見ると、空気の層は非常に薄いのですが、この中に私たちの生活のほとんどすべてが存在しています。

  

図1の出典:饒村曜(2015)、ここがでる!気象予報士完全合格教本(改訂3版)、新星出版社。

図2の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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