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【築地市場の豊洲移転問題】「11月移転は商人としてあるまじき」仲卸がアンケートに綴った延期を求める声

加藤順子ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士
今年4月に仲卸たちがアンケートに綴った

11月7日の豊洲新市場(江東区)開場を間近に控え、東京都の小池百合子知事は16日に築地市場(中央区)と新市場を併せて視察する。

これに先立ち小池知事は12日、市場関係者からのヒアリングを実施した。 都知事が移転賛成派と慎重派の双方から直接意見を聞いたのは、初めてのことだ。

都や市場団体は11月の市場移転に向けて準備を進めているが、実際に市場で働く仲卸業者たちからは土壌汚染や物流、交通の利便性等の課題が指摘され、移転日の変更を求める声が上がっている。

都は移転強行で生じる混乱と、延期で生じる混乱を両天秤に掛ける必要に迫られており、小池知事は視察後、移転のスケジュールについて「できるだけ早くに結論を出す」としている。

東京都はこれまで、業者全体への話し合いや情報提供などを行わない、移転慎重派からの知事宛の要望書を知事に渡さないなど、現場の声を真剣に受け止めてこなかった。移転までのスケジュールが3ヶ月を切ってもなおスケジュールの再考を求める声が止まないのは、現場で働く人と向き合い、山積みの課題を解決を図るための回路がほとんど存在していないからだ。

筆者の手元には、今年4月に水産仲卸業者の有志が行ったアンケートがある。

実施期間は4月9日から18日で、当時580社余りの水産仲卸から原則として無作為抽出で実施。回答は無記名式とした。アンケートは集計され、今年6月、卸売市場の開場認可を出す農水相に提出された。

アンケートの回答者244人のうち、<何が何でも11月7日に開場>と答えたのはわずか4.5パーセントの11人であったのに対し、<スケジュールを撤回し、延期>と答えたのは206人、84パーセントにも上った。

土壌汚染に対する不安も払拭されていない。

<食の安全・安心にかかわることであり、土壌汚染問題が解決するまで移転を凍結すべき>は、78.6パーセントの192人。<このまま移転はやむを得ない>としたのは9.4パーセントの23人だった。

自由記述欄や余白には、移転先の豊洲新市場への不安や、移転時期への思いがびっしり書き込まれている。以下に回答者の思いの一部を紹介する。

現場の声:新市場の設備やインフラについて

「全く騙された。(豊洲の)店舗は昭和10年に出来た現在の店舗より狭く、衛生基準を満たせず、現在使用できる設備も置けず、青果市場も道路で遮断されている等最悪の市場!」

「アクセスが悪い。車以外で市場に行くとき、<ゆりかもめ>のみ。台風などでストップしたときはどうすれいば良いか? 19年までバスもない市場に誰が来る?」

「すべての問題が未だ解決策が定まらない現状で11月には絶対に行けません。店舗の間口が1メートル40とは呆れ果ててものが言えません。物が置けない、お客様が入れない、店舗内の什器備品……?」

「今の豊洲の計画の広さで満足している仲卸はひとつもない! 店舗の2階部分が狭く、使えない店舗があるのは、明らかに東京都のミスであり、公共性・公益性を欠く。新たに設計から見直し、建て替えを望む!」

「氷屋がないことがおかしい」

「営業許可申請において、基準が飲食店や小売店となっている為、わざわざ必要性の低いシンクを2つも設置しなければならない。仲卸業者用の営業許可基準を新たに作るべき」

「お客の中に、『豊洲には仕入れに行けない』という人が50%います。交通の不便、駅から仲買の店まで遠い、時間がかかり仕込みができない等の理由です。私達仲卸もわざわざ狭く使い勝手の悪い市場になんか行きたくありません。私の仲間の中に移転を喜んでいる人は1人もいません。築地市場に出入りしている方々に再度調査していただければ答えは一つだと思います。問題の多い豊洲市場反対!!」

「店舗、事務所などの使用料が現時点で決まっていないことが信じられない。新たな設備投資など決められない状況で経営計画など立てられようはずは無い」

現場の声:移転スケジュールについて

「年末を間近にしてこの開場日はおかしい。(11月、12月にどれだけ冷凍在庫をかかえているか、本当にわかっているのか?)」

「(11月7日開場は)商人としてあるまじき事」

「築地市場水産仲卸のほとんどは、零細企業で、1年12ヶ月の内半分以上の月で赤字です。その赤字をうめる繁忙期を控えた11月7日の開場はあり得ません。4連休後の市場は注文の殺到と使い勝手のわからない新市場で大混乱を起こし、お客様には大迷惑をかけると思われます」

「2月ごろにしてほしい」

「東京都は何を考えているのかわかりません。11、12月というこの繁忙期に引越しなどできるわけがありません。どんな事があっても築地での営業を希望します」

現場の声:豊洲の土壌汚染の問題について

「地震はいつくるかわかりません。熊本のようなことが起きれば建物は壊れなくても土壌からの有害物質が出たら食べ物を扱う市場として閉鎖は止むを得ず、世界中からの笑われ者になります」

「土壌汚染の為、将来的に市場で働く人に健康上の問題を重要視し、できれば再度築地再整備を今からでも検討してほしい。東京都の体質を根本から改良して安全な場所にて営業したい」

「土壌汚染についても、完全とは思えず、大地震等で液状化現象が起き、汚染物質の情報等により、水道管より汚染される事が心配です。水が汚染されれば、市場機能は完全に崩壊する」

「土壌の安全について、東京都がきちんと責任を約束してほしい」

「移転はやむを得ないかもしれないが、土壌汚染によって、今後、自然災害による土壌汚染にあった時に、国か東京都か区または誰が責任を取りどのような営業の保障をするかを書面にて約束をしてほしい」

「豊洲市場が安全地ならオリンピック選手村を造って下さい」

現場の声:東京都の一方的な移転の進め方について

「東京都はオリンピックを優先させ、2号線を完成させるため、急ぎ移転を進めている。<世界に冠たる築地市場>の仲卸人、買出人の意見を聞こうともしない」

「豊洲市場は問題がありすぎ! たった2ヶ月のオリンピックと世界の築地市場とどっちが大事なのか? 豊洲に移転するにしても、問題すべてが解決してから移転すべきではないのか?」

「働く私達の意見は、全く聞いてもらえないのでしょうか? 現場にいる私達は、言いなりにならないといけないのでしょうか? 移転先に移ってしまってからこんなはずではなかったと声をあげても、誰も聞いても救ってくれもしないと思う」

「オリンピックの為に急かされて移転をするような信じられない事自体、とてもおかしいと思います。私たちは何も移転完全反対とは言っていないです。自分達の仕事場なので、安全で不安のない事が保障されるのであるならば、私たちは行きます。ただ、今まで東京都が行っているのは、体裁だけ整えて安心だ、安全だという事ばかり。メッキが剥がれるような事がなければいいのだが。土壌汚染問題をふくめて、都合の悪い事をかくさないで開示してほしい」

「土地の汚染、海水の汚染、建物の床荷重、店舗の造作等、新市場のすべてにおかしな所や不明な所がありすぎる。だれのためのゴリ押しなのか謎」

「今回の移転については、河岸に働く人々の意見や要望が反映されておらず、移転の日程も東京都側の一方的な決定だと思います。まして、土壌汚染の問題が解決していないのに、移転を決行しようとするのは言語道断であり、誰の為に移転をするのか疑問であります。今後も築地での営業を希望する声が多い中、なぜそこまで移転を急ぐのか憤りさえ覚えます。

そして移転をするのであれば、河岸で働く人々の意見を最大限取り入れ、河岸で働く人々のメリットを最大限に尊重し、河岸で働く人々が納得した上で行かれるのが正当であると思います。 」

「市場担当東京都職員は、市場についての知識があまりにもお粗末。少しでも勉強してから移転計画をして欲しかった」

「今回の移転はあまりにも無計画な事が多く、私たち仲卸の経営をないがしろにしている。お客様のための市場という認識がなく、東京都の一方的な考えで進行している。このままでは大変なことになります」

「移転に関し、仲卸業者からあがった意見や要望が反映されていると思えません。もっと実際に豊洲で働く業者の声を聞いていただきたい」

「オリンピックの為に移転をするのはどうでしょうか? 罰あたりだ!! 何を考えているのですか。腹の虫がおさまらないです。ムカムカしてくる。市場の人は無責任だ」

現場の声:予定通りの豊洲移転を求める

「いまさら計画変更されても困る」

「もう準備している」

「決定した事だから(何が何でも11月7日に開場して欲しい)」

「さっさと行きたい」

「今は豊洲での営業を考えるべき。二者択一の時期は過ぎています」

アンケートには、このまま豊洲移転を進めるよう求める声もわずかにあるが、綴られた声のほとんどが移転の延期や凍結を切望している。都に対して「現場の意見を聞いて欲しい」という不満が非常に多いのも特徴的だ。

これまで都側に検討されることはなかったこうした生の声を、小池知事はどこまで都政改革に生かせるか。豊洲移転を目前にしながら現実的な課題は山積したままで、11月の移転は延期の1択の様相になりつつある。スケジュール通りか移転かだけでなく、小池知事の今後の検討の進め方にも着目したい。

ジャーナリスト、フォトグラファー、気象予報士

近年は、引き出し屋と社会的養護を取材。その他、学校安全、災害・防災、科学コミュニケーション、ソーシャルデザインが主なテーマ。災害が起きても現場に足を運べず、スタジオから伝えるばかりだった気象キャスター時代を省みて、取材者に。主な共著は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、『下流中年』(SB新書)等。

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