キーワードは「奪う」。池田太監督率いるなでしこジャパンが目指すサッカーとは?
【合宿で示された新生チームのコンセプト】
池田太(いけだ・ふとし)監督を迎えた新生なでしこジャパンが、その輪郭を示した。10月18日(月)から千葉県で行われた初合宿で、チームのコンセプトが示された。
その熱心さから“熱男”の異名をとる池田監督が、選手たちに積極的なチャレンジを促しながら求めていたのは、攻守にアグレッシブなサッカー。守備では、相手陣内の高い位置からハイプレスを仕掛け、攻撃では、ボール保持をベースとしながら、奪った瞬間にゴールに直結する縦へのアクションを増やす。ゴールへの意識を高く持ち、シュートレンジを広げることも強調されたようだ。
このチームが目指すのは、2023年の女子W杯オーストラリア/ニュージーランド大会と、2024年のパリ五輪。次のW杯では、出場国がこれまでの「24」から「32」に拡大される。欧州や北米を中心に強豪国がレベルアップしており、アジア全体のランキングが相対的に下がっているが、ここで置いていかれるわけにはいかない。
それにアジアで勝てなければ、世界に挑むことはできない。来年1月に、W杯のアジア予選を兼ねたアジアカップがインドで開催されるが、同大会2連覇中の日本(FIFAランキング13位)としては18位の韓国、32位のベトナム、46位のミャンマーと同組に入ったグループリーグからその力を見せつけたいところだろう。
では、組織的かつ強度の高い守備で相手にパスを繋がせず、攻撃では個の強さも押し出してくる強豪国に対して、日本はどう戦っていったら良いのだろうか。直近の国際大会から見えてくる強豪国の戦い方の傾向について、「高い位置からプレスをかけることが多くなった」と分析する池田監督は言う。
「プレッシングをかいくぐっていく力をつけないといけないし、守備では、相手陣内でボールを奪う回数を増やしていきたいと思います」
池田監督が攻守のキーワードとして挙げているのは、「奪う」ことだ。なでしこジャパンは“パスサッカー”というイメージがあるが、もはや、そう簡単にボールを持たせてはもらえない。だからこそ、まずは前線からのハイプレスと、強度の高い球際のアプローチで、ボールを奪いにいく。池田監督は、“なでしこジャパンらしさ”を育てつつ、最大限に生かして真っ向勝負を挑もうとしているのかもしれない。
最終ラインの要となるセンターバックのDF南萌華(三菱重工浦和レッズレディース)は、「失った瞬間に2、3人でボールを奪い返す意識は、今回の合宿から意識が変わりました」と語る。
一方、攻撃では「ゴールを奪う」ために、素早い切り替えと、縦への意識を強調した。まず相手の高いラインの背後を狙い、それによって相手がラインを下げれば、中盤から厚みのある攻撃を仕掛けるーーというように、優先順位を明確にすることで、全員がフィニッシュまでのイメージをしっかりと連動させていく。
初日のミーティングでは、男子プレミアリーグの映像も使ってコンセプトを共有したというが、その意識づけは練習にもよく表れており、FW陣が積極的に裏へのアクションでボールを引き出し、切り替えた瞬間に中盤や最終ラインからロングパスや鋭い縦パスが通るシーンも見られた。
「(池田)太さんのサッカーはアグレッシブ。まずは運動量とスプリントと球際の強さを上げなければいけないと思います」
FW田中美南(INAC神戸レオネッサ)は、個のベースアップの重要性を口にする。
田中は東京五輪で2得点したが、厳しいマークの中でも確実にゴールを決める強豪国のエースストライカーたちとの差を痛感したという。池田ジャパンが目指す“縦に速い攻撃”を完結させるために、「相手を抜き切る前に足を振り抜くキレや、シュートの精度を上げていきたい」と、意欲をみなぎらせていた。
【WEリーグから選ばれた23名】
今回の合宿には、WEリーグから23名の選手が参加した。海外組は招集されず、東京五輪に出場していない選手が過半数の13名を占めたが、その顔ぶれにも池田監督の独自色が見えた。
クラブ別では、WEリーグの上位4チーム(INAC神戸レオネッサ、マイナビ仙台レディース、三菱重工浦和レッズレディース、日テレ・東京ヴェルディベレーザ)から、8割超の19名が選ばれている。
中でも、GK山下杏也加(I神戸)やMF長野風花、FW宮澤ひなた(ともにマイ仙台)、そして代表初招集となったFW成宮唯(I神戸)とGK田中桃子(東京NB/大和シルフィードへの期限付き移籍からの復帰)は、今季から新チームに移籍。WEリーグでの成長を志して環境を変え、1年目でチームの上位進出を支えている。また、上位ではないが、FW上野真実(サンフレッチェ広島レジーナ)やDF乗松瑠華(大宮アルディージャVENTUS)も、移籍1年目でチームに欠かせない存在となっている。その勢いで、代表にも新しい風を吹かせていた。
また、池田監督の下で世界一になった2018年U-20フランスW杯の優勝メンバーも多く、今回は長野と宮澤の他にDF宮川麻都、FW植木理子(ともに東京NB)、DF南萌華、DF高橋はな(ともに浦和)の6名が入った。
ミーティングや練習中、池田監督が身振り手振りを交えて行う熱い声かけは健在だ。DF高橋やFW小林里歌子(東京NB)が、「選手が監督の熱さを超えていかなければいけないと思う」と話していたように、「熱」を大切にするチームカラーは、早くも浸透しつつある。
ただし、合宿6日目に行われた地元の男子高校生との練習試合では、「アグレッシブに奪う」ことにトライした結果、カウンターやクロスから失点を重ね、0-5で完敗した。
「このキャンプではアグレッシブに奪う意識づけとして、前からいこう、と(伝えました)。ここから、対戦相手とか時間帯(によっての戦い方)とか、背後のケアなど、具体的なところに入っていけるのかな、と」
池田監督は試合後にそう話し、戦い方の方向性を意識づけできた手応えを口にした。
とはいえ、1月のアジアカップまでにチームが活動できる機会は、11月の海外遠征と12月の国内合宿の2回のみで、悠長に構えてはいられない。
池田監督は海外組も含めて選手たちの特徴を把握しているだろうし、チームの骨格となる選手や、試合で伝えるべきことは、すでにある程度、頭の中で整理されているのだろう。
11月に予定される海外遠征では、東京五輪に出場したDF熊谷紗希(バイエルン・ミュンヘン)、FW岩渕真奈(アーセナル)、MF長谷川唯(ウェストハム)、FW籾木結花(リンシェーピングFC)、MF林穂之香(AIKフットボール)、DF宝田沙織(ワシントン・スピリッツ)ら、海外組が加わる可能性が高い。
強豪国のトップクラスと日々しのぎを削る選手たちの力を、WEリーグの選手たちとどう組み合わせていくのか。
11月の海外遠征と1月のアジアカップで、攻守に強度が高く、ダイナミックにゴールに向かうアグレッシブなサッカーが見られることを期待している。
*写真は筆者撮影