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家電で快進撃のアイリスオーヤマにも懸念される失速の影

前屋毅フリージャーナリスト

■植木鉢で成長したアイリスオーヤマ

シャープもダメ、ソニーもダメ、パナソニックでさえダメなのが家電業界の実態である。ところが家電業界では新参者のアイリスオーヤマの快進撃がつづいており、注目をあつめている。

宮城県に本拠をかまえるアイリスオーヤマの前身はプラスチック加工・成型の下請けを行う大阪の小さな工場で、社長の大山健太郎氏が父親から引き継いだのは19歳のときだった。儲からない仕事でも来た仕事に「ノー」をいわない姿勢を貫くことで、大山氏は売上を倍々ゲームでのばしていった。

そして真珠養殖用のプラスチック・ブイで大躍進するものの、オイルショックをきっかけに経営危機におちいってしまう。そこから脱するために大山社長が目をつけたのが、ホームセンター向けの園芸用品だった。ホームセンターが全国に広まりつつあるころで、それによって園芸への関心が高まる、と読んだのだ。園芸といえば植木鉢だが、それまでは素焼きが主流で重くて、壊れやすい。これをプラスチック製にすれば、軽くて壊れにくく、扱いやすいので売れる、と判断したのだ。

ただし、それまでの素焼きの植木鉢をプラスチックにするだけでは問題があった。素焼きは水はけがいいが、プラスチック製は悪い。それでは植物の根を腐らせてしまう。そこで大山社長は、プラスチック製植木鉢の底に穴をつくって水はけをよくし、そこから土がこぼれないようにメッシュ加工することを思いつく。

これが大ヒットし、現在のアイリスオーヤマの基礎をつくることになる。かつて大山社長にインタビューしたとき、彼は「多くの人たちが『売れるモノ』どころか、『売れているモノ』をつくりたがる。それは誰もがやっているモノなので、競争が激しい」と語った。時代の流れをつかむ工夫をするからこそ売れる、というわけだ。

アイリスオーヤマが家電で成功しているのも、「売れているモノ」ではなく「売れるモノ」を追求する姿勢があるからである。例えば大手メーカーだと白に偏ってしまう掃除機も、アイリスオーヤマの製品は多彩な色が用意されている。売れているのは白でも、これから売れるのは多彩な色だ、という発想からだ。これが、不振といわれる家電業界でも同社が快進撃をつづけている理由である。

■神様にしてしまう愚をおかすな

そのアイリスオーヤマをとりあげたテレビ番組をみていて、とても気になることがあった。

同社が製造・販売する新製品は、開発企画説明会という場で決められる。各開発担当者が取り組んでいる新製品について説明する場で、説明時間は10分と決められているという。それだけの説明を受けて、その場で製品化の判断が下される。即断即決のシステムなのだ。

それだからこそ、タイミングを逃さない市場投入が実現している。これも、アイリスオーヤマの快進撃を支えている理由のひとつだろう。

テレビ番組をみていると、開発企画説明会で製品化の最終判断をしているのは大山社長、その人だった。大山社長の判断ひとつで、製品化かボツかが決まるというわけだ。

そのシステムで快進撃を支える製品を次々と世に送り出しているのだから、「さすが大山社長」ということになる。しかし、そこに「危うさ」もある。それは、大山社長は「神様」ではないからだ。

大手メーカーが「売れるモノ」をつくれない大きな理由に「老害」がある。担当者が必死で開発した製品が、最終判断を下す取締役会でボツになることは珍しくない。その取締役会の面々は、それぞれ社内での実績をあげてきている。

それだけに過去の成功体験に過剰な自信をもっており、そこに現在の価値判断を依存している傾向が強い。別の言い方をすれば、「年寄りの頑固さ」だ。

成功体験が通用すればいいが、変化の激しい時代になると通用するものではない。それでも成功体験に依存していれば、「売れるモノ」がつくれるわけがないのだ。だから大手メーカーが危機におちいっている。

あくまでテレビ番組からの印象だが、大山社長一人の判断に頼っているのがアイリスオーヤマである。その大山社長も神様ではないから、いつまでも的確な判断をつづけられるとはかぎらない。彼が成功体験に引きずられるようになり、それが時代の流れに通用しなくなったとき、アイリスオーヤマの快進撃も終わることになる。そうならないためには、大山社長を神様にせず、社長一人に頼らなくても時代の波を確実にとらえられる仕組みが必要だ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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