「奪ったら前へ」。なでしこリーグ開幕2連敗も、長野が示した原点回帰への道
【ホーム開幕戦で見せたアグレッシブな戦い】
3月24日(日)に行われたなでしこリーグ第2節。AC長野パルセイロ・レディース(長野)がホームにアルビレックス新潟レディース(新潟)を迎えた一戦は、1-0で新潟が勝利した。
今シーズン、奥山達之監督を迎えて守備を強化している新潟は、少ないチャンスを生かす形で開幕2連勝を飾っている。連勝スタートは2012年以来だ。
一方の長野は、2013年以来の開幕2連敗と厳しい局面を迎えている。昨年までの主力の多くが移籍し、高卒ルーキーを含む8名の新戦力が加入したが、1部経験者が少なく、難しいシーズンになることはある程度予想できた。
だが、内容に関してはほぼ互角の印象だった。全体的にミスやファウルが目立ち、ボールが落ち着かない展開になったのは、両チームが新たなサッカーを構築する過渡期にあることも理由だろう。
内容面では、長野のアグレッシブさが際立っていた。そのサッカーにどこか懐かしさを覚えたのは、昇格1年目で旋風を巻き起こした2016年の超攻撃的なスタイルと重なるところがあったからだ。
「『とにかく(プレッシャーに)いけ、躊躇するな』と伝えています」(本田美登里監督)
前線からの守備でボールを奪いにいく。失っても粘り強く奪い返し、ゴールを目指して突き進むーーその姿勢は、最後の笛が吹かれる瞬間まで貫かれた。
若く、荒削りではあるものの、気持ちを前面に押し出した戦いぶりは清々しく感じられた。
この試合の公式入場者数は2275人で、ホーム開幕戦ではINACの3683人(第1節)に次ぐ観客数を記録。INACのように代表選手が多いわけではないが、16年(1位)、17年(1位)、18年(2位)と、集客力の高さは相変わらずだ。
「長野は地域密着型で、地域の方々が孫を連れてきたり、家族で来てくれるんです」
キャプテンのFW横山久美が、開幕前の記者会見で誇らしげに話していたのを思い出した。
2連敗という結果を受けて試合後のスタンドには物悲しい雰囲気が漂っていたが、その眼差しはやはり温かいものだった。
「やろうとしていることが個々の技術面ではまらないことが多くあります。組織としてやろうとしていることを選手たちも頭では理解しているのですが、それを表現できないもどかしさがあります」
本田監督はやや辛口な表現で報道陣の質問に答えた後、「長い目で見ていただけたら」と、言葉を添えた。
もちろん、リーグ戦は18試合しかなく、このままでは降格圏から抜け出せなくなる危機感もある。
だが、2月の交流戦(プレシーズンマッチ)で見せていた苦しい状況からは脱しており、この1ヶ月余りでチームは確かな方向性を見出したように見える。
【変化の中で見えた伸びしろ】
勝ち点を積み重ねていくためには、攻撃の精度向上が大きな課題となる。そのためにも、まずはマイボールの時間を増やしたい。
この試合は前線でなかなかボールが収まらず、相手のプレッシャーをまともに受けて外に蹴り出したり、危険なゾーンで奪われてカウンターを食らう場面が少なくなかった。
一方、粘り強いボール奪取から複数の決定機を作っている。シュート数は6本だが、ゴール前で足を振れなかった場面なども含めれば、実際のチャンスはそれ以上に作っていた。
目を引いたのは、右サイドで縦の関係を組むサイドハーフのMF滝澤千聖(たきざわ・ちせ)とサイドバックのDF原海七(はら・みいな)の新加入コンビだ。ともに開幕戦で1部デビューを飾った18歳で、2人ともU-19日本女子代表候補に選出されており、ここまで2試合にフル出場している。瀧澤は線が細く、コンタクトプレーで弾き飛ばされるシーンもあったが、二度、三度と粘り強く食い下がった。原はINACの下部組織出身で、スプリント回数の多さが魅力だ。
また、中盤では攻守のかじ取り役を担うMF國澤志乃の存在感が際立った。長野では唯一、2015年の2部時代も含めて5シーズン、リーグ戦でフル出場(計83試合)を続けており、連続フル出場時間は現在のリーグ(1部)でトップだ。
「年齢的にも在籍年数でも経験があるので、責任を持ってやらなければいけないと感じています。声のかけ方やタイミング、プレーで見せなければいけないところなどは判断しながらやっています」(國澤)
その國澤の相方として、U-20代表候補になったこともあるMF大久保舞が加入し、中盤の構成は安定した。この試合は4-1-4-1でスタートし、大久保が4バックの前の「1」のアンカーに入る形でスタート。大久保が中盤の底でバランスを取れることで、一列ポジションを上げてインサイドハーフに入った國澤が、持ち味でもあるボール奪取からチャンスを作っていた。個で奪って一気にゴールまで持ち込む形は、2016年に近い。
あとは、フィニッシュだろう。
この試合では、エースの横山も2年目のFW滝川結女も不発に終わっている。パスの出し手となる中盤は新加入選手が多く、互いの特徴を引き出し合うためには時間が必要だが、連係が高まればチャンスは自ずと増えるだろう。
「全ては結果だと思います」
横山は目を伏せて言葉少なに語り、会場を後にした。
長野は次節、3月30日(土)に、アウェーの相模原ギオンスタジアムで、今季初勝利をかけてノジマステラ神奈川相模原と対戦する。
【新潟の開幕ダッシュを支える守護神】
新潟は今季、「スロースターター」のイメージを返上するかもしれない。ここ数年のリーグ前半戦は総じて、「内容が良いのに勝ちきれない」試合が多かった。
だが、3月21日の開幕戦では、伊賀FCくノ一にシュート15本(新潟は3本)を打たれながら無失点に抑え、ワンチャンスを生かした。そして、この長野戦でも1ゴールを勝ち点「3」に結びつけている。
21分に生まれた決勝点は、チームを象徴する2人のアタッカーのホットラインから生まれた。新潟一筋で14年目のMF上尾野辺めぐみのスルーパスを、同じく11年目のFW大石沙弥香が巧みな切り返しで決めた。
2試合とも無失点で守り切れている要因を考えると、GK平尾知佳の好パフォーマンスが光る。この試合でも、68分に迎えた横山との1対1のシーンでファインセーブを見せるなど活躍。
「今年はチーム全体で守ることを目指していて、ディフェンス陣がしっかりコースを切ってくれるので、予測がしやすいです。昨シーズンを通して試合に出してもらって、メンタルが強くなったのと、ポジショニングや試合勘を研ぎ澄ませることができました」(平尾)
クロスへの対応や身体能力の高さは年代別代表でも証明していた平尾だが、パフォーマンスに波があった。そんな中、一昨年の終わりに浦和レッズレディースから新潟に移籍し、昨シーズンはリーグ戦全18試合にフル出場。実戦の中で、課題としていた安定感を向上させてきた。
代表では、レギュラーに定着しているGK山下杏也加(ベレーザ)、GK池田咲紀子(浦和)の2人に次ぐポジションで、昨年はW杯アジア予選など重要な大会にも参加している。
6月の女子W杯に向け最後の遠征となるヨーロッパ遠征メンバーにも選ばれた22歳の守護神は、無失点記録をどこまで伸ばすことができるか。
新潟は次節、3月31日(日)に、ホームのデンカビッグスワンスタジアム(新潟県)で、開幕3連勝をかけてINACと対戦する。