「ウマ娘」のヒットはメディア泣かせ 競馬視点で考察
スペシャルウィークやトウカイテイオーなどの有名競走馬を擬人美少女化したスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」。ヒット考察の記事もありますが、プロジェクトの発表から4年以上が経過してのブレークについて説明が難しく、メディア泣かせです。そこで競馬の視点も加えて考察します。
◇分析難しいブレークの理由
メディア泣かせの理由は、2016年のプロジェクト発表からアニメも二度放送されているのに、なぜスマホゲームが2カ月で400万ダウンロードを突破するなど突然ブレークしたかをうまく説明できないことです。一応の理由としては「ゲームの出来が良い」「競馬を熟知している」「実況動画で人気が高い」というのもありますが、決め手に欠けます。
アニメの出来も良く、延期を重ねたスマホゲームへの期待という下地が整い、スマホゲームの出来の良さゆえに口コミ的に拡散。メディアや実況動画が後押ししたのは確かでしょう。また一時期「ウマ娘は女性蔑視」という一部メディアの記事が炎上気味に拡散し、結果として興味を引いたのもあるかもしれません。
◇擬人化・美少女化は近年の流れ
「ウマ娘」の特徴の一つ、擬人化・美少女化は、近年の一つの流れです。戦国武将を女性化した「戦国コレクション」や艦艇を題材にした「艦隊これくしょん」、日本刀をイケメン化した「刀剣乱舞」など多くのコンテンツが出ています。
擬人化・美少女化の長所は、インパクトを与える「とがった」コンテンツになることです。歴史上の人物や艦艇、日本刀などは元から豊富なエピソードがあり、オリジナルのコンテンツを作るよりもファンに理解させやすく、説明も飛ばせるなど有利です。
反面、擬人化・美少女化は「一般受け」しづらいのも確かです。織田信長や戦艦・大和が美少女になれば、面白がる人もいますが、抵抗感を示す人も相応にいます。
「特化する」というのは、特定層へのアプローチを図る代償として、他の層を切ることです。老若男女が楽しめる「鬼滅の刃」や「どうぶつの森」ではなく、コアなアニメファンに突き刺さる「エヴァンゲリオン」は好例でしょう。万人向けコンテンツは、当たれば大きいものの、当てるまでが至難です。
◇競馬の魅力 ライバル対決に特化
競馬ファンの視点から考えると、ウマ娘は、競馬に興味のなかったゲームファンを競馬に興味を向けさせる点では歓迎できます。しかし上記で触れた通り、擬人化・美少女化の部分で異論が出るのは、やむを得ません。
メディア関係者と「ウマ娘」のブレークについて話していた時、人気ゆえに取り上げたい反面、突然のブレークに整合性が付かない悩みと共に、「ウマ娘は、『生き物』の擬人化だから抵抗があるのかもしれませんね」という指摘もありました。競馬ファンからすると、競走馬は人に近いような捉え方をする人もいます。競走馬を知らないゲームファンには抵抗がないかもしれませんが、競走馬の姿が思い浮かぶ競馬ファンからすると抵抗感がある人もいる……というわけです。
さらに言えば、競馬は「ブラッドスポーツ」というほど、血統への執着があります。しかしウマ娘では、血統の要素を省く傾向にあります。代わりに「ウマ娘」は、競馬の持つドラマチックなエピソード部分を抽出して膨らませることに注力しています。例えば「ウマ娘」では、学園を舞台にし、シンボリルドルフとトウカイテイオーの関係を生徒会長と生徒の関係で描いています。ルドルフの子がテイオーですから、競馬ファンならいろいろ言いたくなるところです。
とはいえ、競馬には繁殖の話はつきものでして、それを学園ものに反映させると生々しいのも確かです。競馬ファンに話を聞くと「血統の扱いが気になる」という声はありました。しかし現実の競馬をすべて反映させれば、面白いコンテンツになるとは限りません。むしろアニメやゲームへの絶賛ぶりを見ると、ライバル対決にフォーカスして、正解と言えるのではないでしょうか。競馬は競馬、コンテンツはコンテンツという割り切りですね。
◇「月収100億円」 ビジネスでも注目
競馬の魅力をあえて一つだけ挙げるとすれば、名馬のライバル対決、ドラマチックな展開といえるかもしれません。天皇賞・秋で“無敗”対決をしたタマモクロスとオグリキャップ。アニメ2期の題材になったトウカイテイオーの復活。ダイワスカーレットとウォッカの対決。競馬ファンなら実際に見てきたので結果は分かっているのですが、それでも胸を打つものがあります。
競馬の世界を学園ものに、競走馬を美少女キャラに大胆にアレンジしたこと。それに合わせて分かりづらい血統の要素を省き、逆に分かりやすいライバル関係にフォーカス。さまざまなコンテンツで一貫させたことが、スマホゲームでのヒットを呼び込んだのではないでしょうか。
競馬へのリスペクト(尊敬)は重要ですが、強すぎると「ウマ娘」の面白さが削がれる可能性がありました。牡馬牝馬がいる競走馬の常識にとらわれず美少女キャラで統一したこと、コンテンツのバランス感が絶妙で、4年間粘り強く展開したことも勝因と言えそうです。
「ウマ娘」の成功を受けて、ゲームを配信するサイゲームスの親会社サイバーエージェントが注目を集めています。「時価総額は2000年3月の上場以来初めて1兆円の大台に乗せた」という記事ですが、スマホゲーム「ウマ娘」について「月収100億円」「課金収入が好調とみられる」とあります。
【参考】サイバー、初の時価総額1兆円 「ウマ娘」で収益成長期待(日本経済新聞)
競馬ですが、日本ダービーなどの歴史ある大レース、三冠馬の誕生は、テレビのニュースでも取り上げられる一般性のあるものです。ですが競馬自体がギャンブルでもあり、完全に「万人向け」というわけではありません。ファン層を限定させてもインパクトのあるエンタメコンテンツに仕上げ、丁寧に作り続けたクリエーターの勝利といえそうです。