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「暴露本に見えるのは分かります」。元理事・谷口真由美氏が日本ラグビー協会への思いを綴った理由

中西正男芸能記者
2月1日に著書「おっさんの掟」を上梓した谷口真由美さん

 昨年6月で日本ラグビー協会理事、新リーグ審査委員長を退任した法学者の谷口真由美さん(46)。2月1日に著書「おっさんの掟 『大阪のおばちゃん』が見た日本ラグビー協会『失敗の本質』」を上梓しました。強い要請を受けて協会に入り、改革に邁進するも組織を出ることになった。その流れでの出版だけに「暴露本に見えるのは分かります。でもね…」と綴るに至った思いを吐露しました。

二つの理由

 去年ラグビー協会から離れた私が、新しいラグビーのリーグも始まったところで本を出す。この流れを考えたら「暴露本ちゃうか!」と見られるのも分かります。そう思われる方の気持ちもよく分かりますし(笑)。

 ただ、一つ言えるのは、恨みつらみとかそんなことを原動力に書けるような本ではない。私怨の果たし場(ば)みたいなモチベーションで取り組めるようなものでは全くありませんでした。

 とはいえ、ラグビーファンの方の中にも「黙ってたらいいのに」「新リーグの時に水を差しやがって」と思ってらっしゃる方も当然いらっしゃると思います。

 じゃあ、なんで書いたのか。理由は大きく二つありました。

 一つ目は「説明できていない」という思いです。

 日本ラグビー協会という公益財団の理事をしていたということは、私には説明責任が生じている。ずっと、そう考えてやってきました。でも、結果的に私は組織を出ることになり、そこを果たせずに今に至っている。

 これが公益財団ではなく、会社の仲良しグループでの出来事ならば公に説明する必要なんてもちろんないんですけど、公益財団ですから。何がどうなったのか。そこはしっかりと出しておく必要があると思ったんです。

 人権について語り、政権の責任を追及してきた立場の自分が、本来説明すべき責任がある中で説明しない。それでは自分のこれまでやこれからとつじつまが合わない。その思いも大きかったんです。

 二つ目は「若い人たちに背負わせたくない」という思いでした。

 正直な話、私もあまり思い出したくないところもあるし、書くことで“かさぶた”を剥がすようなこともありました。記憶を呼び起こすために当時の予定表を見返したりもしてたんですけど、いろいろなことがよみがえってきますし。

 だからこそ、恨みつらみくらいの感情でこんな本を書くことはできない。そこにもつながってくるんですけど、書くのは決して楽な作業ではありませんでした。

 でも、なかったことにして、私がほっかむりをしたまま何もせずにいて、次の世代でまた同じようなことが起こる。そうなったら、私は、もっと、もっと嫌な思いをするだろうなと思ったんです。

 そして、私の経験を耳にした方、特に多くの女性から「私も分野は違うけど、同じような思いをしてきました」というお話をたくさんいただいたことにも背中を押されました。

 私が体験した今回のことって、形は違えどあちこちにある話なんやと。ならば、より一層、広く残しておくべきだ。その思いが本という形になっていったんです。

“ふるさと”への思い

 今だったら「新リーグが始まったところで…」と言われるだろうし、こういう本はいつ書いても“良いタイミング”なんてことは難しいんだと思います。

 かといって、3年経ってから書いたら書いたで「何を今さらに」にもなるだろうし、提言をしたところで時間が経ってしまっていて刺さりもしない。

 そう考えるとなるべく早い方がいいだろう。そして、この本のために動いてくださった皆さんのお力を受けて形にできたのが今だったんです。

 重ねて同じ話で恐縮なんですけど、ラグビー界に本当に何の恨みもありません。誰かが「うっとうしい!」とか「あいつがアカンねん!」とかがあったらこんなに楽なことはないんですけど、そんなこともないんですよね。

 誰の顔が浮かんできても憎いわけでもない。その人たちはその人たちで一生懸命にやってらっしゃるだけなんです。一人一人見ると、誰も悪い人はいないんですよ。ワンマン社長のムチャクチャな顛末記みたいなことがないんです。

 仮に、今回のことを誰かがドラマ化しようと思ってくださったとしても、ドラマとしたら本当に面白みがないと思います。スペクタクルもなく、ドキドキもワクワクもスッキリもしない(笑)。

 でも、本当の社会ってそんな風に“映えないこと”の積み重ねで、ハッキリと言語化できない澱みたいなものが溜まっていって、いつの間にか組織が詰まっていく。そんな感じが本当のリアルだと思うんです。

 人生はドラマじゃないなと思いました。「半沢直樹」みたいなことはなかなかないなと(笑)。ただ、この“なんとなく”のシステムの中に、実は組織をシロアリのように内側から壊していく要素がある。そこをできる限り言語化したつもりです。全ては次の人たちのために。

 明確に肩が上がらないとか、足首に激痛があるとか、そういうことではなく、それこそ“不定愁訴”というか「なんとなくしんどい」。そんなところに実はポイントがあるんだろうなとも強く思いました。

 そこからエッセンスを抽出するのは難しい作業だったんですけど、そこでモノサシにしたのが自分がやってきた学問でした。学問をフィルターにして文字化できるところを紡いでいきました。博士論文を書くよりしんどかったですけど(笑)。

 無理に良い話っぽくする気なんてないんですけど、自分にとっての“ふるさと”であるラグビーに良くなってもらいたい。これは今でも、心底思っていることです。

 花園ラグビー場を自宅として育った私にとって、本当にラグビーはふるさとです。だからこそ、そこを切り離すことはなかなかできないし、いつまでも気になるところです。そして、今回その中にどっぷり入りいろいろな思いもしました。

 でも、でも、やっぱり良くなってもらいたい。もっと言うと、ムラゆえの妙な掟が続いて、これから頑張ろうとしている人が理不尽な思いをするなんてことがなくなってほしい。本当に、それだけなんです。

 そこから転じて、今、思っているのは次世代のリーダーを育てるということ。特に女性リーダーを育てる。そこをすごく強く考えています。

 それと、ご縁があった若いラグビー選手との繋がりは、これはこれでありがたいことなので、大切にしていきたいと思っています。

 何かしらおばちゃんが役立てることがあれば(笑)、そこはいろいろとお手伝いしたい。今お話ししたことが、今の偽らざる気持ちなんです。

(撮影・中西正男)

■谷口真由美(たにぐち・まゆみ)

1975年3月6日生まれ。大阪府出身。法学者。専門は国際人権法、ジェンダー法など。大阪芸術大学客員准教授。父が近鉄ラグビー部の選手からコーチになり、母が同部の寮母を務めていたため、寮のあった近鉄花園ラグビー場内で育つ。2児の母。人権、政治をはじめ様々な社会問題に大阪のおばちゃん目線でつっこみ、TBS「サンデーモーニング」などに出演中。2019年6月に日本ラグビーフットボール協会理事に就任。新リーグ法人準備室長も務め、新リーグ審査委員長も兼任するが、昨年2月に法人準備室長を退任。6月に協会理事、新リーグ審査委員長も退任する。著書に「日本国憲法 大阪おばちゃん語訳」(文藝春秋)、「憲法ってどこにあるの?」(集英社)ほか。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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