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世界の株式市場はいつまで好調が続くのか?

津田栄皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

世界の株式市場は、堅調に推移している

2日の日経新聞朝刊一面に「世界の株、時価総額最高」とでていた。日経の記事によれば、世界の株式の時価総額が2017年5月末に76兆ドルとなり、2年ぶりに最高を更新したとしている。

振り返れば、世界の株式の時価総額は、アメリカの株価に連動してきた。2001年アメリカのITバブル崩壊で株価が下落、翌02年に世界の株式の時価総額は底を付けた(約20兆ドル前後)が、その後、アメリカの住宅バブルに踊って株価が上昇し、2007年末にはピークの60兆ドル前後(10月には64兆ドル)を付けていた。その住宅バブルも、08年9月のリーマンショックを契機に崩壊して金融危機にまで発展、世界的な株価同時安を引き起こした結果、08年末には30兆ドル(一説には35兆ドル)まで減少している。

それに対して、世界各国は、景気後退を恐れて、大胆な金融緩和、大規模な財政出動による公共事業等を同時に実施したことにより、株価は持ち直し、2015年5月には75兆6000億ドルまでに増加している。その後、中国の景気刺激策のひずみが出てきて、中国の人民元安と資本流出、原油安による産油国の資金不足で、世界の株式市場は動揺して、時価総額を一時的減らしたものの、それからアメリカ株式の堅調な動きに合わせて回復し、この5月末についに2年前の水準を超えたということになる。

世界の株式市場は、今後どうなるか?

株式の先行きについては、どんなに予測しようとしても現実には当たらないことが多い。株式を見ている人は、何もなければとの前提で、株式は堅調に推移すると見る。しかし、実際は、企業の業績や経済指標のほかに、色々な事件や政治的イベントなどがあって、それが攪乱要因となって、株式の動きに影響を与える。今でも、北朝鮮への圧力、アラブ諸国内の対立、ISとテロ、そして8日行われたイギリス総選挙、米コミー前FBI長官の上院公聴会などの結果で、何が出てくるか分からない。

しかし、こうした事件やイベントは、当初は大きな変動要因であるが、いずれ市場に吸収されて、株価は元に戻る。そう考えると、株式市場は、企業業績や経済指標から見える経済実態などのファンダメンタルズが背景にあって大きな流れを作っているといえよう。

これまで世界の株式市場が好調に推移し、時価総額を増やしてきた背景に、何があるのか?

それは、リーマンショック以降に行われた財政出動と金融緩和による景気刺激策から、大量の資金が市中に出回って、その行き先が株式市場に向かったからだと言えよう。そして、成長を優先するために、財政出動が落ち着いても、金融緩和は、アメリカを除き、日欧で依然行われ、資金が市場に供給され続けている。

すなわち、リーマンショック以降、世界の株式が順調に回復してきた背景には、世界的な金融危機から恐慌に至らないように、世界各国が、金融を緩和し、財政を出動して公共事業などを行うなど、景気を刺激する政策を大規模に行い、その結果大量の資金が世界に出回ったことにある。財政政策では、中国の4兆元(当時の為替レートで57兆円)を筆頭に、世界で危機後一年間に9兆ドル超の景気刺激策が行われてきた。

そして、成長を支えるために、日米欧を中心に、中央銀行は、ゼロ金利政策を採用し、しかも市中から大量の債券等の資産を購入して、その資金を市中に供給するなど、大規模な金融緩和を行ってきた。アメリカは、景気回復が見えてきたので、資産買い入れを終え、今は金利引き上げに動いているが、日欧では景気回復の鈍さ、デフレ懸念などからマイナス金利政策まで導入し、依然資産買い入れなどで資金を市場に供給している。

そうした大量の資金が、金利がほぼゼロに近い、あるいは歴史的に低い安全資産の債券等には向かわず、リスクはあるが金利以上の配当利回りが得られる株式に流れるのも自然と言えよう。しかも、6日付の日経にも書かれていたようにマイナス金利政策で、債券等の償還金の行き場は、もはや債券市場にはなく株式市場にしかないという現実が、株式の堅調さにつながっているということになる。

つまり、リーマンショック以降の景気刺激策、特に世界的な金融緩和による資金供給が、今の株式市場を支え、堅調な動きとなり、時価総額の増加につながっているといえよう。

このまま、世界の株式が堅調に推移し、時価総額は増え続けるのか?

こうして見てくると、今の世界の株式市場の堅調さは、世界的な金融緩和による大規模な資金供給にあり、この状態が続く限り、株式市場は大きく崩れることはないのかもしれない。しかし、その前提が、少しずつ変化しつつあるように見うけられる。

まず、アメリカのFRBが堅調な景気により昨年から金利引き上げに動き出しており、今年も3月に続き、あと2回行われると予想されている。また、欧州のECBも、景気が上向きはじめてきて、金融緩和からの出口戦略を探り始めている。ここに日本が加われば、世界的な金融緩和は終わりをつげ、債券の金利が上昇することになる。

そうなれば、今まで株式市場を支えてきた大量の資金の流れが、債券市場などへ向かうことになろう。そして、株式市場は、軟調な動きとなり、時価総額の増加はストップすることになる。しかも、トランプ大統領による保護主義的政策などからくる国際政治的な緊張が深化すれば、さらに資金は株式市場から逃げ出し、暴落に至るかもしれない。その意味で、先行きを時価総額が好調に増えると楽観して見ることはできないのではないだろうか。

2日付の日経では、IT企業に資金が集中し、高株価が成長を加速させる好循環が生まれているとし、時価総額が増えていくような印象を与えている。しかし、高株価を支えている資金が金融緩和政策から出てきていることを考えると、一旦金融緩和が終了して市場に出回っている資金が逃げる動きになると、高株価は維持できなくなって、成長も止まり、時価総額も増えないことになる。どちらが正しいのだろうか?

最後に

8日の日本の株式市場では、日銀関係者が金融緩和の出口論は時期尚早から説明重視に文言が変化したというニュースで、堅調であった流れが変化、円高ドル安の動きとともに崩れたことを考えると、やはり市場は金融緩和の終息を意識していることを図らずも見せてくれたと言えよう。

したがって、株式市場の動き、時価総額は、今後もFRB、ECB、日銀などの中央銀行の金融政策にかかっていると言うことになろう。

皇學館大学特別招聘教授、経済・金融アナリスト

1981年大和証券に入社、企業アナリスト、エコノミスト、債券部トレーダー、大和投資顧問年金運用マネジャー、外資系投信投資顧問CIOを歴任。村上龍氏主宰のJMMで経済、金融について寄稿する一方、2001年独立して、大前研一主宰の一新塾にて政策立案を学び、政府へ政策提言を行う。現在、政治、経済、社会で起きる様々な危機について広く考える内閣府認証NPO法人日本危機管理学総研の設立に参加し、理事に就任。2015年より皇學館大学特別招聘教授として、経済政策、日本経済を講義。

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